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シリア空爆は追い詰められたトランプの選挙を意識したパフォーマンス

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(364)

卯月某日

 日本時間の14日午前10時すぎ、米国のトランプ大統領は英仏両国と共同でシリアのアサド政権の化学兵器施設に対する空爆を行ったと発表した。

 大統領は「シリア政府軍が化学兵器の使用を止めるまで攻撃を継続する」と述べ、アサド政権に化学兵器の使用を止めさせなかったロシアを強く非難したが、一方でマティス国防長官は「この攻撃は一度限りのもので、相手に強力なメッセージを伝えた」と述べた。

 米国は昨年4月にもアサド政権が化学兵器を使ったことを理由にシリアの飛行場にミサイルを撃ち込んだが、それはアサド政権に打撃を与えるというより米中首脳会談のタイミングに合わせ中国の習近平国家主席に「何をやりだすか分からない大統領」と思わせるパフォーマンスの色彩が強いとフーテンは感じた。

 今回は英仏を巻き込むなどそれよりも大規模ではあるが、アサド政権を転覆させる意思も後ろ盾であるロシアとの戦争を覚悟していることもなく、フーテンには秋の中間選挙を睨んでシリア攻撃をためらって評価を落としたオバマ大統領との違いを際立たせる目的のパフォーマンスとしか思えない。

 それほどに秋の中間選挙で共和党は厳しい情勢にあるのではないか。そう思わせたのが11日にポール・ライアン下院議長が秋の中間選挙に出馬しないと表明したことである。48歳と若いライアン下院議長は共和党の有力な大統領候補であるにもかかわらず「家族との時間を大事にしたい」との理由で政界引退を表明した。

 下院議長は合衆国憲法により大統領が欠けた場合に副大統領に次ぐ継承順位の要職である。しかもライアン氏は2012年に現職のオバマ大統領に挑戦した共和党ミット・ロムニー候補の副大統領候補であった。将来の共和党大統領候補に最も近い立場にいる人物が突然に政界引退を表明したのだから衝撃である。

 そして選挙に出馬すれば当選確実であったライアン氏が不出馬を表明したことは下院選挙での共和党敗北の可能性を高める。現在下院の勢力図は共和党240対民主党193で共和党が多数だが、これが逆転して民主党が多数党になればセックス・スキャンダルやロシア疑惑に揺れるトランプ大統領の弾劾が現実味を帯びてくる。

 そもそもトランプ大統領と冷たい関係にあったライアン氏が下院選挙での共和党敗北を予見してトランプ大統領率いる共和党と一線を画し、改めて将来の共和党大統領候補になる道を選んだのではないかとの憶測が生まれる。ライアン氏はトランプ大統領の政治に見切りをつけたということだ。

 トランプ大統領の一貫性のない発言はこのところ目立って多くなった。3月末に「ISの掃討に100%成功した」とシリアに駐留する米軍を撤退させる方針を打ち出したが、1週間も経たないうちに一転して「駐留継続」に変わった。

 米軍が完全撤退すれば中東地域におけるロシアやイランの影響力が増し、同盟国であるイスラエルやサウジアラビアにとって危険な空白が生まれると安全保障チームから説得されたからだという。

 それに対しトランプ大統領は「それなら駐留経費をサウジに出させればいい」と発言したと伝えられる。要するに他国に肩代わりさせて米国の負担を減らせとの考えだけで「撤退」を表明したということになる。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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