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ノルウェーは驚異の木造都市だった

田中淳夫森林ジャーナリスト
9階建て木造ビルが5棟並ぶ一角。木の色合いが美しい

 ノルウェーを駆け足で訪れた。

 そこで感じたことはいろいろあるが、何より街の木質化が進んでいることに驚かされた。いわば「木造都市」の建設が進んでいると感じさせられたのだ。

 まずオスロ空港からして、大面積集成材による木造建築であったし、天井やインテリア、さらに内部の店などにもフンダンに木が使われている。木とは単なる建材ではなく、見せるものだ、と到着直後から思わされる。

オスロ空港のカフェ
オスロ空港のカフェ

 オスロの街を歩いても、いたるところに木が使われていた。

 たとえばオスロ港の岸壁には、広大な木のデッキが設えられた場所があった。ここで海水浴もできるようだ。シャワー施設まで作られているし、子供用の木製プールまであった。

海辺に造られた広大な木のデッキ
海辺に造られた広大な木のデッキ

 そして街角には、多くの木のベンチが並び、広場には寝ころがられる巨大な木のデッキがそこかしこにある。

港の岸壁には木のベンチが並ぶ
港の岸壁には木のベンチが並ぶ
街角にある寝っころがれる木のデッキ
街角にある寝っころがれる木のデッキ

 そして古都トロンハイムで見た木造ビル群(トップ画像)。これは大学の学生寮だというが、9階建ての木造ビルが5棟林立している。造りはCLT(直交集成板)を使用しているようだが、外装は木の醸しだす紋様のような色合いが美しい。

 最近建て直したという公立幼稚園は、全面的に木質化を図っていた。

 外装は構造材の木肌がそのまま見えるように使われている。内部を見学させてもらうと、構造材の面をそのまま見せていた。ただ内装は、薄く白い塗装をしているようだ。それがまた美しい。

幼稚園の外観
幼稚園の外観
園児の遊具は立派な積み木ではなく木っ端
園児の遊具は立派な積み木ではなく木っ端

 園児の遊ぶホールなども木だらけ。木に包まれた隠れ家やお昼寝場所もある。遊具も丸太の薄切りや角材の破片をそのまま積み木にしている。まさに木育だ。日本の木育というと、たまに開かれる非日常のイベントになりがちだが、こちらは日常的に木に触れさせているのだ。

 ほかにも住宅地に行けば、なかなかオシャレな木の建物が並ぶ。

屋根に草を生やした木の家
屋根に草を生やした木の家

 木造都市とか木の街づくりというお題目は、日本でも唱えられている。コンクリートビル群を木材を活かした建築物に置き換えようという考え方だ。ヒートアイランド現象を抑えたりCO2削減のための炭素蓄積、住人の健康……とさまざまな理由が並べられているが、その裏には消費が伸びない国産材の需要を増やしたいという林業振興的な狙いが隠れている。ちょっと動機が不純? とはいえ、木造建築が増えるのは悪いことじゃない。

 私は以前、木造ビルの可能性について触れた。しかし残念ながら、日本ではなかなか進まない。

 それに日本で木造というと、どうしても民芸調や数寄屋風など伝統的な和風建築を連想しがちだ。日本にもCLTの木造ビルはあるのだが、見学に行くと、全然木が見えないので逆に驚かされる。つまりCLTは構造材であり、目にする内装も外装も木ではないのである。木を見せたければ、改めて装飾用木材を張らねばならない。

 しかし、ノルウェーの木造ビルや街のデッキなどは、構造材の木をそのまま見せている。

 野外で風雨にさらされると木材は傷むと思うかもしれないが、これらの多くはケボニー化処理をされた木材だった。針葉樹材に天然由来成分を注入することで強度を劇的に高め、腐植に強くしたものだ。色も深い焦げ茶になって、銘木のような風格を感じる。おかげでメンテナンスフリーらしい。

 まさに現代的な木造都市が造られているのだ。果たして日本も、こうした木の街づくりができるだろうか。

(写真は、すべて著者撮影)

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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