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80階建て木造ビルも可能! 木材が都市の景観を変える

田中淳夫森林ジャーナリスト
東京都港区のみなとパーク芝浦。木を多用した建築物だ

奈良市で建設が進んでいた社会福祉法人ぷろぼののCLTビル完成見学会に参加してきた。

地上5階建てで、1階部分がコンクリート、2~5階分がCLTである。

CLTビル
CLTビル

CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー・直交集成板)と呼ぶ建材による建築物としては、今のところ日本で最大のこと。

入ってみると、CLTを直に目にできる箇所はほとんどなかったが、全階が木のフローリングであり、壁の内装も木をふんだんに使っていて心地よいものだった。

たった4階分で「CLTとしては日本最大」と口にするのはちょっと面はゆいが、これは法的な問題が絡んでいる。5階以上を立てようとすると耐火耐震基準が厳しくなり、コスト増なので4階に留めているからだ。

ただ技術的には、木造でも高層ビルを建てることは十分可能だそうだ。とくにCLTは耐震強度などの実験が行われて確認されている。

この建物の経緯に関しては、すでに建設中だった3月に紹介しているので、そちらを参照していただきたい。前回は、CLTが林業振興に寄与するかどうか疑わしいと記したが、今回は建築面から木造ビルの可能性について考えてみよう。

CLTビルの建設現場を見てきた

今春、イギリスでは80階建て木造ビル建設構想が発表された。

ケンブリッジ大学のマイケル・ラマジ博士と2つの建築事務所が、ロンドン中心部に80階建ての木造超高層ビルを建てる構想を示したのだ。それによると、ビルの高さは300mに及ぶ。そこには1000戸以上の住居が含まれる。

高層棟と中層棟で組み合わせたもので延べ面積は全体で約9万3000平方メートル。全体の木材使用量は約6万5000立方メートルに達する。その多くはCLTと大規模集成材だ。なお基礎は、コンクリートである。

ほかにもスウェーデンのストックホルム中心部に、34階建ての木造による高層マンションを建設する計画も進んでいる。カナダのヴァンクーヴァーや、アメリカのシカゴでも、30階建ての木造高層ビルが提案されている。

日本では建築家の高松伸氏が、京都に高さ180メートルの木造ビルを建てる構想を20年も前に発表していた。素材はCLTに限らず、一般的な大規模集成材である。技術的には十分可能なのだ。

構想だけでなく、9階、10階建て程度の木造ビルは、すでに欧米にいくつかある。スイスのタメディア本社ビルは木造7階建てだが、設計者は日本の坂茂氏だ。

木造ビルの建設は、世界的な潮流となってきた。

日本では6年前に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されて、建築基準法も木材を使いやすくなるよう改正された。機は熟してきたと言えるだろう。

もちろん完全な木造にこだわらなくてもよい。RC構造と複合したビルも考えられている。身近なところでは、東京の木材会館ビルや東京都港区のみなとパーク芝浦のように内外装に木材をふんだんに取り入れた建物も増えている。2020年の東京オリンピック会場となる新国立競技場に木材を多用することも、その流れの一環だ。

なぜ都会に木造建築物なのだろうか。

実は、建築側にもメリットが大きいのだ。まず重さがコンクリートに比べて木材なら4分の1程度だから資材輸送や現場作業も楽になる。建物の軽量化は耐震などにも有効だ。加えてパネル化した木材を張り合わせるだけなら、工期の短縮が図れる。コンクリートを養生(乾燥)させる必要はなくなるし、つなぐのも金具だから簡単。

木材は断熱・防音などにも効果的だ。また内装を木質など自然素材にすると、目にする人々は「より大きな親しみ」を感じるという実験結果が出ている。疲れにくい、怪我しにくい、という声もある。

最大の懸念である耐火性能だが、近年は石膏ボードの併用や耐火塗料、そして燃えしろ設計などクリアする技術も進んできた。

そして建築物の形で街に木材を多く用いれば、炭素をストックすることを意味している。だから木造建築物は、CO2削減にも寄与する「都市の森」と称されるのである。

現実には、まだまだハードルが高い。5階建て以上は難しいほか、コストも一般のRC構造よりかなり高くつく。そのうえ仮に木造ビルの増加で木材需要が伸びても、それが材価に反映されないという根本的な問題も抱える。

イギリスやスウェーデンの木造高層ビル計画も、まだ実現するかどうかはわからない。

それでも都市に木造建築物がもっと増えると、どんな景観になるのかと想像すると、ちょっと楽しい。

考えてみれば、近代以前の日本の都市は、みんな木造だった。それは低層の住宅ばかりではなく、城の天守閣や寺院・神社の巨大本堂と五重塔などがさん然と屹立していたのだ。江戸城の天守閣は高さ59メートル、東大寺大仏殿は48メートル。また五重塔や七重塔は階層建築物ではないが、50メートル以上の高さの木造建築物は何百年も前から可能だったのだ。(ちょうど金閣寺から足利義満が建てたとされる七重塔の遺物が発見された。この塔は高さ110メートルあったという。)

そんな木造都市が、再び登場することを夢見てみるのも楽しいだろう。

京都、東寺の五重塔
京都、東寺の五重塔
森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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