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米不足!ウッドショックから見える第一次産業の未来

田中淳夫森林ジャーナリスト
今年の作況は平年並みとされている。(写真:イメージマート)

 米不足の話題が続いている。そして米の値段も跳ね上がった。令和の米騒動などと呼ぶ言葉も散見される。ただ政府は、米は足りている、もうすぐ新米が出てくるから大丈夫という判断だ。

 よく似たことが最近もあったな、と思い出す。それはウッドショック。2020年から数年間、木材が市場から消え木材価格が2倍3倍に跳ね上がった。家を建てられない、予算が膨れ上がったと騒がれた。

 こちらも山には木材が十分ある、と言われ続けたが、なかなか収まらなかった。

 実は両者とも事情は似ている。昨年の米の作柄は特に悪かったわけではない。ただ高温で品質が落ちて一等米が減った。加えてコロナ禍明けでインバウンドを含めた外食需要が予想以上に膨れ上がった。それが一時的に米の流通を狂わせて店頭に並ばなくなったのだろう。

 ウッドショックも、コロナ禍で木材生産計画が狂い、アメリカで木材価格が高騰したことが引き金だった。建材には多くの外材が使われているから、日本に輸入される量も減ると家は建てられなくなる。一方で国産材の増産は遅れに遅れた。

 ようするに米も木材も、需給バランスが狂ったことで不足したり高値を招いたりしたのである。絶対量が足りなくなったわけではない。

 では、先んじて起きたウッドショックはどうなったか。22年ごろから木材不足は解消に向かい、その頃に増産された木材は売れ残って価格も下落した。結果的に損をした林業家は多いし、焦って伐採した山は荒れて再造林もあまりされていない。
 国産材の建材は外材より人気がなく、輸入が復活したら求められなくなった。

 来年以降の米も、同じようなことにならなければよいが……。

未来の第一次産業は危機的状況

 では、米不足は一過性のもので今後は心配ないのか。いや、長期的に見れば決して安閑としていられない。むしろ農家の実情を見れば危機的な状況である。


 そもそも昨年も今年も夏の高温で米の出来はあまりよくないとされる。量は確保できたとしても、品質は落ちる可能性がある。高温適応品種の開発が急がれるが、現実的には長期間かかるため、栽培方法で対応する必要がある。

 しかし、高齢化の進む農家が果たして新たな栽培法に切り換えられるか。特に兼業農家は、手間が増えることを極力減らしたいはずである。何より、品質の下がった米は価格も落ちる。つまり米農家の収入が減ってしまうのだ。これを機に農業を辞める人が続出しかねない。

 視点を変えると、米の栽培面積と生産量は長期的に減少し続けている。23年産の主食用作付面積は124万2000ヘクタールで、前年に比べ9000ヘクタール減少している。今年の主食用米等の生産量は昨年と同程度の669万トンと予想するが、今後増える見込みはない。

 全国の耕地面積の推移を見ると、10年前に比べ5%減の429万ヘクタールで、耕作放棄地は滋賀県の面積を超えるまでになった。農家は175万戸だが、20年前から約56%減少している。

 おそらく、本当の米不足は近未来に起きるのではないか。

 実は林業も同じだ。林野庁は需要に関係なく木材増産を指導し続けているが、結果的に林家の収入は落ち続けている。市場にだぶつけば価格は下がる。加えてバイオマス燃料など安い用途に回される。50年60年と森を育ててきて、ようやく収穫したら全然儲からないのだ。下手すると赤字だ。

 ちなみに製材価格が上がっても、山には還元されていない。50年前は製材価格の約4割が林家の取り分だったが、近年は1割以下、4%という統計も出ている。これでは林業を辞めたくなる。いや、どんどん辞めている。伐採業者は補助金があるから木を伐るが、再造林はしないので将来の木は育たない。

 なお林業関係者の人口は、全国で4万人ほどまで減った。いくら機械化を進めようが、森づくりも伐採も手がける人がいなくなりつつあるのだ。

 思えば漁業はもっと先んじている。戦後の一時期、日本の漁獲量は世界一だった。ところが今や近海物でさえ輸入に頼るようになっている。漁業就業者数も、60年前の5分の1まで減少した。従事者の収入も労働者平均よりずっと低い。

 ようするに農業も林業も漁業も、収入低下が就業者を減らし、高齢化を進めた。価格下落を大規模化・機械化などでしのいでも、そう遠くない将来に生産量が減少する可能性が高い。

 日本の人口は減っていく。そんな中でこれからの第一次産業を守りたければ、生産量ではなく就業者の収入を増やすことだろう。そして誇りある仕事にしなければ、従事者は増えない。令和の米騒動が、そのことに気づく契機になってほしい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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