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ロシア軍S-300対地攻撃運用の排除を継続:ウクライナ迎撃戦闘2024年7月分の傾向

JSF軍事/生き物ライター
ハルキウ検察庁より7月24日の攻撃後に回収されたイスカンデルMの残骸

 2024年7月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃は合計で504発でした(※後述の一部は除外)。これは先月の450発とくらべてやや増えています。また先月に引き続き、ウクライナ軍はHIMARSによる越境攻撃でロシア軍のS-300対地攻撃運用の排除を継続しています。出典:ウクライナ空軍司令部

※当記事では迎撃難易度でミサイルを「高速目標(弾道ミサイル、転用ミサイル)」と「低速目標(巡航ミサイル、自爆ドローン)」の2系統4種類に分類。迎撃困難な高速目標と迎撃容易な低速目標を混ぜた数を比較してもあまり意味が無い為。

※弾道ミサイルは極超音速兵器も含む。転用ミサイルは地対空ミサイルや空対艦ミサイルの対地攻撃転用のこと。低速の巡航ミサイルは亜音速型に限定、自爆ドローンはGPS誘導の長距離型のシャヘド136/131のみ。

※Kh-59空対地ミサイルとKh-31P対レーダーミサイルは除外。Kh-69巡航ミサイルは含む。また今回は種類不明ミサイル1発とKh-35対艦ミサイル1発の報告があったが除外。

○2024年7月:504発(417撃墜、83%) ※23未到達を除外で87%撃墜

  • 弾道ミサイル:22発(4撃墜、18%)
  • 転用ミサイル:2発(0撃墜、0%) ※S-300の飛来無し
  • 巡航ミサイル:54発(40撃墜、74%) ※6未到達を除外で83%撃墜
  • 自爆ドローン:426発(373撃墜、88%) ※17未到達を除外で91%撃墜

※23発のロシア軍のミサイル・ドローンがウクライナの目標ではなく隣国のルーマニアやベラルーシに向かって迷走飛行。

※この23未到達を除外で481発が飛来と計算し直した場合は417撃墜で87%の迎撃成功。

 先月に引き続きS-300の飛来が途絶えています。また巡航ミサイル(亜音速型)の飛来が54発と先月(105発)の半分になった上に、Kh-101空中発射巡航ミサイルとカリブル艦船発射巡航ミサイルの飛来数が同程度の割合になっています。そして7月31日には1月1日以来となるシャヘド136自爆無人機による90発規模の大規模攻撃がありました。

【6月関連記事】:露軍S-300を宇軍HIMARSの越境攻撃で排除に成功:ウクライナ迎撃戦闘2024年6月分の傾向

【7月関連記事】ロシア軍が89機もの長距離自爆ドローン攻撃を実施し、ウクライナ軍が全て撃墜に成功(2024年7月31日)

 なお7月24日にハルキウにあるスイスの地雷除去非政府組織「FSD (Fondation suisse de déminage、スイス地雷対策財団)」の事務所など2カ所がロシア軍の弾道ミサイルで攻撃され、片方の現場からイスカンデルMのロケットモーターの残骸が回収されています。出典:ハルキウ検察庁

ロシア軍のイスカンデルM弾道ミサイルの残骸(ハルキウで発見)

ハルキウ検察庁より7月24日の攻撃後に回収されたイスカンデルM(ロケットモーター底部)
ハルキウ検察庁より7月24日の攻撃後に回収されたイスカンデルM(ロケットモーター底部)

FSD(スイス地雷対策財団)、ハルキウ事務所

【高速目標】弾道ミサイル発射数の推移 

  • 2024年07月:22発(4撃墜) ※うちキンジャール×1(1)
  • 2024年06月:16発(1撃墜) ※うちキンジャール×3(1)
  • 2024年05月:10発(0撃墜) ※うちキンジャール×2(0)
  • 2024年04月:20発(0撃墜) ※うちキンジャール×10(0)
  • 2024年03月:29発(4撃墜) ※うちキンジャール×11(1)
  • 2024年02月:13発(1撃墜) 
  • 2024年01月:57発(15撃墜) ※うちキンジャール×20(10)
  • 2023年12月:37発(18撃墜) ※うちキンジャール×5(0)
  • 2023年11月:5発(1撃墜)
  • 2023年10月:7発(0撃墜)
  • 2023年09月:2発(1撃墜)
  • 2023年08月:7発(1撃墜) ※うちキンジャール×7(1)
  • 2023年07月:7発(0撃墜)
  • 2023年06月:9発(9撃墜) ※うちキンジャール×9(9)
  • 2023年05月:23発(21撃墜) ※うちキンジャール×7(7)

※イスカンデルM、キンジャール、ツィルコン(正確にはスクラムジェット極超音速巡航ミサイル)

【高速目標】転用ミサイル発射数の推移

  • 2024年07月:2発(0撃墜) ※うちS-300×0(0)
  • 2024年06月:1発(0撃墜) ※うちS-300×1(0)
  • 2024年05月:19発(0撃墜) ※うちS-300×19(0)
  • 2024年04月:42発(2撃墜) ※うちS-300×36(0)
  • 2024年03月:69発(0撃墜) ※うちS-300×61(0)
  • 2024年02月:37発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
  • 2024年01月:67発(0撃墜) ※うちS-300×45(0) 
  • 2023年12月:32発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
  • 2023年11月:17発(0撃墜) ※うちS-300×14(0)
  • 2023年10月:11発(0撃墜) ※うちS-300×11(0) 
  • 2023年09月:3発(0撃墜) ※うちS-300×1(0) 
  • 2023年08月:12発(0撃墜) ※うちS-300×8(0)
  • 2023年07月:37発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
  • 2023年06月:22発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
  • 2023年05月:17発(0撃墜) ※うちS-300×12(0) 

※S-300/S-400(地対空ミサイル転用)、Kh-22/Kh-32(空対艦ミサイル転用)

【低速目標】巡航ミサイル発射数の推移 

  • 2024年07月:54発(40撃墜、74%) ※6未到達を除外で83%撃墜
  • 2024年06月:105発(81撃墜、77%)
  • 2024年05月:79発(62撃墜、78%)
  • 2024年04月:71発(55撃墜、77%)
  • 2024年03月:116発(95撃墜、82%)
  • 2024年02月:46発(39撃墜、85%)
  • 2024年01月:124発(102撃墜、82%)
  • 2023年12月:109発(101撃墜、93%)
  • 2023年11月:4発(4撃墜、100%)
  • 2023年10月:5発(4撃墜、80%)
  • 2023年09月:90発(78撃墜、87%)
  • 2023年08月:114発(90撃墜、79%)
  • 2023年07月:92発(78撃墜、85%)
  • 2023年06月:163発(144撃墜、88%)
  • 2023年05月:145発(133撃墜、92%)

※Kh-101/Kh-555、カリブル、イスカンデルK、Kh-69(Kh-59は除外)

【低速目標】自爆ドローン発射数の推移 

  • 2024年07月:426発(373撃墜、88%) ※17未到達を除外で91%撃墜
  • 2024年06月:328発(309撃墜、94%)
  • 2024年05月:355発(347撃墜、98%)
  • 2024年04月:287発(258撃墜、90%)
  • 2024年03月:596発(511撃墜、86%)
  • 2024年02月:361発(276撃墜、76%)
  • 2024年01月:334発(271撃墜、81%)
  • 2023年12月:598発(490撃墜、82%)
  • 2023年11月:380発(303撃墜、80%)
  • 2023年10月:285発(229撃墜、80%)
  • 2023年09月:503発(396撃墜、79%) 
  • 2023年08月:162発(145撃墜、90%)
  • 2023年07月:238発(201撃墜、84%)
  • 2023年06月:199発(166撃墜、83%)
  • 2023年05月:399発(362撃墜、91%)

※シャヘド136/131

【総合計】

  • 2024年07月:504発(417撃墜、83%) ※23未到達を除外で87%撃墜
  • 2024年06月:450発(391撃墜、87%)
  • 2024年05月:463発(409撃墜、88%)
  • 2024年04月:425発(316撃墜、74%)
  • 2024年03月:810発(610撃墜、75%)
  • 2024年02月:475発(332撃墜、70%)
  • 2024年01月:582発(385撃墜、66%)
  • 2023年12月:776発(609撃墜、78%)
  • 2023年11月:406発(308撃墜、76%)
  • 2023年10月:308発(233撃墜、76%)
  • 2023年09月:598発(475撃墜、79%)
  • 2023年08月:295発(236撃墜、80%)
  • 2023年07月:374発(279撃墜、75%)
  • 2023年06月:393発(319撃墜、81%)
  • 2023年05月:584発(516撃墜、88%)

※2023年5月からキーウ配備のパトリオット防空システム実戦投入開始。

※低速目標の迎撃率はずっと高いまま安定しており、総合計の迎撃率の増減は「高速目標がパトリオット未配備地域を狙ってきた数」に起因している。

※7月にはロシア軍の一部の自爆ドローンや巡航ミサイルは目標に到達せず、隣国のルーマニアに着弾したり、迷走してベラルーシに向かった後に行方不明になったものも報告されている。製造不良が増えた可能性。

※報告数はウクライナ空軍司令部の発表したものであり、未報告のミサイルなどもあるため(前線部隊の戦術目標への使用などは入っていない)、数は厳密には正確なものではないことに留意。ロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃の傾向を大雑把に把握する目的の集計分析。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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