露軍S-300を宇軍HIMARSの越境攻撃で排除に成功:ウクライナ迎撃戦闘2024年6月分の傾向
2024年6月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃は合計で450発でした。これは先月の5月分の463発とほぼ同規模ですが、飛来したミサイルの種類の傾向で大きな変化がありました。出典:ウクライナ空軍司令部
※当記事では迎撃難易度でミサイルを「高速目標(弾道ミサイル、転用ミサイル)」と「低速目標(巡航ミサイル、自爆ドローン)」の2系統4種類に分類。迎撃困難な高速目標と迎撃容易な低速目標を混ぜた数を比較してもあまり意味が無い為。
※弾道ミサイルは極超音速兵器も含む。転用ミサイルは地対空ミサイルや空対艦ミサイルの対地攻撃転用のこと。低速の巡航ミサイルは亜音速型に限定、自爆ドローンはGPS誘導の長距離型のシャヘド136/131のみ。
※Kh-59空対地ミサイルとKh-31P対レーダーミサイルは除外。Kh-69巡航ミサイルは含む。また今回は機種不明ドローン4発の報告があったが除外。
○2024年6月:450発(391撃墜、87%)
- 弾道ミサイル:16発(1撃墜、6%)
- 転用ミサイル:1発(0撃墜、0%) ※S-300が激減
- 巡航ミサイル:105発(81撃墜、77%) ※カリブルがやや増える
- 自爆ドローン:328発(309撃墜、94%)
6月分のロシア軍による長距離ミサイル・ドローン攻撃での傾向の顕著な特徴は、転用ミサイルであるS-300地対空ミサイルの対地攻撃モードがわずか1発しか飛んできていないことです。しかもこの6月2日のS-300の1発はドネツク方面で、これまでS-300で執拗に狙われてきたハルキウ方面では1カ月以上も飛来無しとなっています。
6月1日、HIMARSによる越境攻撃開始
理由としてはこれまでアメリカが許可していなかった供与兵器によるロシア領への越境攻撃をウクライナ軍に許可したことでしょう。ちょうど6月1日からハルキウ方面ではHIMARSのGMLRS誘導ロケット弾(M30およびM31)による越境攻撃が開始されたと分析されています。
6月1日にHIMARS用の弾薬であるGMLRS誘導ロケット弾の残骸がロシア側から初めて報告され(Special Kherson Cat)、6月3日にはウクライナ側から大量のGMLRSの6連装発射ポッドの発射済み54個324発分が報告され(OSINTtechnical)、大量投入が始まりました。そして直後にハルキウ直ぐ北のロシア領ベルゴロドでS-300の撃破が報告されました。
視覚的に映像で確認されたS-300らしき目標の撃破はこれだけでしたが、以降ハルキウ方面ではロシア軍のS-300対地攻撃モードでの運用がまったく見られなくなりました。後方に退避したものと思われます。
ということはHIMARSのGMLRS誘導ロケット弾(最大射程80km前後)がS-300を追い散らしたことになるので、S-300地対空ミサイルの対地攻撃モードでの有効射程は80km以下しかないと考えられます。もし射程がもっと長ければ後方に下がっても撃ち続ける筈ですが、それがありません。
HIMARSでS-300を撃退、ただし戦闘機の滑空誘導爆弾での攻撃は続く
しかしS-300はハルキウ近辺からの排除に成功したものの、ロシア軍はハルキウに対して戦闘機からの滑空誘導爆弾での攻撃を続けています。これへの対処としては以下の方法が考えられます。
- ATACMS弾道ミサイル:航空基地を叩く
- パトリオット防空システム:発射母機の迎撃/滑空誘導爆弾の迎撃
- F-16戦闘機:発射母機の迎撃
ATACMSによる航空基地への攻撃は相手の戦闘機が後方の基地に下がったら届かなくなるので限界がありますが、戦闘機を遠くに下がらせれば活動は低調になるので意味はあります。しかし結局のところは滑空誘導爆弾の発射母機である敵の戦闘機を、味方の長射程防空システムと戦闘機で近寄らせないように排除する動きが必要になります。
【高速目標】弾道ミサイル発射数の推移
- 2024年06月:16発(1撃墜) ※うちキンジャール×3(1)
- 2024年05月:10発(0撃墜) ※うちキンジャール×2(0)
- 2024年04月:20発(0撃墜) ※うちキンジャール×10(0)
- 2024年03月:29発(4撃墜) ※うちキンジャール×11(1)
- 2024年02月:13発(1撃墜)
- 2024年01月:57発(15撃墜) ※うちキンジャール×20(10)
- 2023年12月:37発(18撃墜) ※うちキンジャール×5(0)
- 2023年11月:5発(1撃墜)
- 2023年10月:7発(0撃墜)
- 2023年09月:2発(1撃墜)
- 2023年08月:7発(1撃墜) ※うちキンジャール×7(1)
- 2023年07月:7発(0撃墜)
- 2023年06月:9発(9撃墜) ※うちキンジャール×9(9)
- 2023年05月:23発(21撃墜) ※うちキンジャール×7(7)
※イスカンデルM、キンジャール、KN-23(北朝鮮製)、ツィルコン(極少数の投入)
【高速目標】転用ミサイル発射数の推移
- 2024年06月:1発(0撃墜) ※うちS-300×1(0)
- 2024年05月:19発(0撃墜) ※うちS-300×19(0)
- 2024年04月:42発(2撃墜) ※うちS-300×36(0)
- 2024年03月:69発(0撃墜) ※うちS-300×61(0)
- 2024年02月:37発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
- 2024年01月:67発(0撃墜) ※うちS-300×45(0)
- 2023年12月:32発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
- 2023年11月:17発(0撃墜) ※うちS-300×14(0)
- 2023年10月:11発(0撃墜) ※うちS-300×11(0)
- 2023年09月:3発(0撃墜) ※うちS-300×1(0)
- 2023年08月:12発(0撃墜) ※うちS-300×8(0)
- 2023年07月:37発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
- 2023年06月:22発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
- 2023年05月:17発(0撃墜) ※うちS-300×12(0)
※S-300/S-400(地対空ミサイル転用)、Kh-22/Kh-32(空対艦ミサイル転用)、P-800オーニクス(地対艦ミサイル転用)
【低速目標】巡航ミサイル発射数の推移
- 2024年06月:105発(81撃墜、77%)
- 2024年05月:79発(62撃墜、78%)
- 2024年04月:71発(55撃墜、77%)
- 2024年03月:116発(95撃墜、82%)
- 2024年02月:46発(39撃墜、85%)
- 2024年01月:124発(102撃墜、82%)
- 2023年12月:109発(101撃墜、93%)
- 2023年11月:4発(4撃墜、100%)
- 2023年10月:5発(4撃墜、80%)
- 2023年09月:90発(78撃墜、87%)
- 2023年08月:114発(90撃墜、79%)
- 2023年07月:92発(78撃墜、85%)
- 2023年06月:163発(144撃墜、88%)
- 2023年05月:145発(133撃墜、92%)
※Kh-101/Kh-555、カリブル、イスカンデルK、Kh-69
【低速目標】自爆ドローン発射数の推移
- 2024年06月:328発(309撃墜、94%)
- 2024年05月:355発(347撃墜、98%)
- 2024年04月:287発(258撃墜、90%)
- 2024年03月:596発(511撃墜、86%)
- 2024年02月:361発(276撃墜、76%)
- 2024年01月:334発(271撃墜、81%)
- 2023年12月:598発(490撃墜、82%)
- 2023年11月:380発(303撃墜、80%)
- 2023年10月:285発(229撃墜、80%)
- 2023年09月:503発(396撃墜、79%)
- 2023年08月:162発(145撃墜、90%)
- 2023年07月:238発(201撃墜、84%)
- 2023年06月:199発(166撃墜、83%)
- 2023年05月:399発(362撃墜、91%)
※シャヘド136/131
【総合計】
- 2024年06月:450発(391撃墜、87%)
- 2024年05月:463発(409撃墜、88%)
- 2024年04月:425発(316撃墜、74%)
- 2024年03月:810発(610撃墜、75%)
- 2024年02月:475発(332撃墜、70%)
- 2024年01月:582発(385撃墜、66%)
- 2023年12月:776発(609撃墜、78%)
- 2023年11月:406発(308撃墜、76%)
- 2023年10月:308発(233撃墜、76%)
- 2023年09月:598発(475撃墜、79%)
- 2023年08月:295発(236撃墜、80%)
- 2023年07月:374発(279撃墜、75%)
- 2023年06月:393発(319撃墜、81%)
- 2023年05月:584発(516撃墜、88%)
※2023年5月からキーウ配備のパトリオット防空システム実戦投入開始。
※低速目標の迎撃率はずっと高いまま安定しており、総合計の迎撃率の増減は「高速目標がパトリオット未配備地域を狙ってきた数」に起因している。