「“復活”というより“誕生”!」―そう言い切る楽天・福山博之の自分自身への大いなる期待
■“相棒”はラグビーボール
今年の1月も、球場の外野の芝をラガーマンが走っていた。楕円形のラグビーボールをパスしながら、蹴りながら。
いや、ラガーマンではない。プロ野球選手だ。東北楽天ゴールデンイーグルスの福山博之投手である。ラグビーが大好きであることから、練習にラグビーボールを取り入れ、ウェアもラグビー用のものを着用している。
しかし帽子だけは必ずかぶる。野球の試合では帽子を着用するので、そこは練習でも同じようにしたいという、福山投手独自のこだわりだ。
今年は春季キャンプの1軍メンバーの中に、福山投手の名前がある。2014年以来5年ぶりのことだ。その実績から誰がどう考えても1軍メンバーであろうが、ここ4年はファームからスタートしていた。首脳陣にその力量が認知されていることもあり、コーチと相談の上、ファームで自分のペースでの調整を任されていたのだ。
ところが今年は違う。福山投手の中で、これまでにない危機感があるのだ。「勝負していかないといけない立場だから」。そう短く決意をにじませた。
■はじめての右肩痛
2014年から4年連続65試合以上に登板するという偉業を成し遂げた。リード、ビハインド、イニングまたぎ、連投、僅差も大差もランナーの有無も、どんな場面でも投げた。序盤に突如、マウンドに駆け上がらねばならないこともあった。実績はもちろんのこと、チームにとってこんなにも頼りになる投手はいない。
ところが昨年のことだ。「自分が痛いと思わなければケガじゃない」―。常々そんな持論を披露していた福山投手が、シーズン途中で離脱した。右肩痛だった。
「5月くらいからおかしいなと思いはじめて…。いつもの感じとは違った」。こんなことははじめてだ。
それでも「勤続疲労」だとは決して認めない。「勤続疲労なんてないと、僕は思う」と言い張る。「肩は消耗品」だとよく言われるが、「そういう人もいるかもしれないけど、僕はそうじゃない」。原因はそこではないと主張する。
「自分の実力不足。技術もないし、体力もなかったということ」、「あんなことにならない術はあったはず。それができてなかった」などと、口を突いて出てくるのは、ただただ自責の言葉だけだ。
「ほんと自分自身、しょうもないなぁって思って。十分に準備して(シーズンに)入ったつもりだったけど、今から思えば準備不足だったのかな」。あんなにも自らを追い込んでトレーニングしていたのに、それでもまだ足りなかったというのか。
しかし「これこそが生きてる実感で、この世界にいるからこそ、そういうことも感じられる。またチャンスがもらえているんだから」と、独特の表現で前を向く。
■体の変化
だからこそ、このオフの自主トレではより考えた。「体のケアにも力を入れているし、今まで以上に鍛えている。メニューにしても、特に下半身を強化するためにダッシュ系を多く取り入れている」。トレーナー任せだけではなく、自身で必要なことを考案し、それを実践した。
また、体を柔らかく使うことも意識しているという。「年もとって、体が硬くなっているのもあると思う。毎日の中でその変化に気づけなかった」。そう省みる。
福山投手が例に出したのが「子どもの成長」だ。「毎日見てたらわからないけど、気づいたら成長してるなぁって」。体の変化も同じだという。日々ともに戦っている体の微妙な変化には、なかなか気づけないものだ。
かつて一緒に自主トレをし、今も手伝いに来てくれる先輩・藤江均氏(横浜ベイスターズ→東北楽天ゴールデンイーグルス→ランカスター・バーンストーマーズ⇒今年から堺スライクス・投手コーチ)も「体は年々衰えるし、感覚も変わってくる。ピッチャーは感覚やから。今までできていたことが、できなくなることもある」と語る。
「でもサブ(福山投手の愛称)は去年のシーズン中から『体を戻して、来年に繋げたい』って言ってたし、しっかり考えながらやっている」と温かく見つめている。
■外からは鍛え、内からは食事で
今はこれまで以上に体のケアを頭に置き、日常の中でも「たとえば風呂の中でも肩の可動域を広げるように動かしたり…。もっと柔軟性を出していきたいなと思って」と、いついかなるときも、体のことを考えないときはない。
いいと思うことは積極的に取り入れるという思考の柔軟性も持つ。一緒に自主トレをしていた寺原隼人投手(福岡ソフトバンクホークス⇒今年から東京ヤクルトスワローズ)が食事の中でタンパク質を多く摂取するのを見て、真似しているという。「いい教材ですよ、テラさんは(笑)。僕も見習って、意識的にタンパク質をよく摂るようにしています」。外から、内から、両方面から戦える体を仕上げている。
そういった様子を見て、藤江氏も「取り返したい、今年に懸ける強い気持ちというのをすごく感じる」と頷く。
「そういえば!」。福山投手が突然、何かを思い出したようだ。「オフに山に登ったんですよ。生駒山に。高森と」。元チームメイトの高森勇旗氏のことだ。
「いや、山っていうか崖登りかな。ええのあるなって見つけて。環境のいいところで練習するだけじゃなくて、こういうのもええんちゃうかって(笑)」。
福山投手によると斜度が8〜90度もあるという(おそらくこれは本人の体感だと思われる)。木の根っこを掴んだりしながら登っていくそうだ。「全身を使わないと登れないから。子どものころにやったような遊びみたいな感じ。登って降りて…を4本くらい繰り返したかな」。
動画を見せてもらうと、その過酷さはとても“遊びレベル”ではなかったようだ。しかし「全身を鍛えるのにいいなと思って」とトライした。
何か変えたい、新しいものを得たい…そんな思いは、福山投手をさまざまなことに駆り立てた。
■“復活”というより“誕生”
昨年の悔しさは、とてもじゃないが言葉に顕せるものではない。これまで福山投手はいろんな人の人生を背負って投げていると自負してきた。自身の投げる1球が、さまざまな人を幸せにできることに喜びを感じてきた。いや、そのためだけに投げてきたといっても過言ではない。
それだけに昨年の自分が許しがたく、「しょうもない」と吐き捨ててしまうのだ。防げたはずだと思うだけに、自分への憤りが募るのだ。
しかし「いい経験をしたと思うし、あの悔しさを力に変えるか変えないかは自分次第」と、今はしっかりと次のステップを踏んでいる。「ここから落ちていった人も何人もいるだろうし、でも上がっていった人もいる。やるかやらないかは自分次第」。何度も何度も「自分次第」という言葉を繰り返す。
「1球1球、魂を込めて投げるっていう気持ちの部分は何ひとつ変わっていない。ただ、それをするための体に関しては、より丁寧にやっていきたい」。自分に言い聞かせるように、力を込めた。
藤江氏も「結果が出なかった次の年が大事。試合でも打たれた次の試合が大事なのと同じように。だからサブは今年がほんまに大事になってくる。失敗した年を無駄にせんよう、生かしてほしい。今年の結果でまた、考えることも出てくるやろうし。今年よかったら、またひとついい経験になるから」と今季の活躍を願っている。
途切れた記録はまた一から始めればいい。「“復活”というより“誕生”です!」―。そう言って、福山投手はニヤリと笑った。
どんな福山博之が誕生するのだろうか。きっと、いつでもどこでも登場してはピシャリと抑え、歓喜をもたらしてくれる…そんなスーパーピッチャーに違いない。
(撮影はすべて筆者)
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