「拾ってくれた」チームへの感謝と恩返し。楽天イーグルス・福山博之投手は5年連続65試合以上登板に挑む
■4年連続65試合以上の登板を達成
「こんな選手がいてくれたら…」。チームの指揮を執る長ならば、誰しも思うのではないだろうか。その選手とは東北楽天ゴールデンイーグルスの福山博之投手だ。
4年連続65試合以上の登板という数字はもちろんのこと、あらゆる状況で進んでマウンドに上がるその姿勢に頭が下がる。
リード、ビハインド、またランナーのあるなし関わらず、どんな展開でも喜んで引き受けてくれる。しかも複数イニングも厭わない。こんな選手がひとりいてくれるだけでブルペンは非常に助かる。
しかも、これだけ投げてもまったくへたらない。
「(シーズンの)疲労はもうとれていると思います。銭湯に行ってサウナ入って汗かいてビール飲んで…それで、もうとれたと思います」。蓄積疲労がないわけはないだろうが、こう言って笑っている。
“サブちゃん理論”でいうと「疲れたと思わなければ疲れていない」のだそうだ。
「気休めかどうかわからないけど、もう(疲れは)とれてるって思ってやってるんで。気持ちでやってるんでね」と常に「気持ち」を強調する。
■チームの役に立つことがすべて
昨年は登板36試合目まで自責点0だった。最終的に6勝0敗 7セーブ 29ホールドポイント、防御率1.06という数字を残した。しかし福山投手がこれを誇ることはない。
「前半は六回とかビハインドでもどんどん投げさせてもらってたけど、中継ぎ陣が調子悪くなってきて、ちょっとずつ後ろのほうに回ってカバーできた。そういうのを考えると、ある程度はチームのために投げられたかなと思う。どこ(のポジション)で投げたいとかはまったくない。チームが勝てればいい」という。
自己評価の基準は常に「チームの役に立てたかどうか」なのだ。個人の手柄にはまるで興味がない。
シーズン途中に松井裕樹投手が離脱したときにはクローザーも務めた。
「やっぱり抑えって、すっごいところで投げてるなって。改めて松井、すごいなって思った。だって七回、八回なら同点になってもまだ攻撃があるけど、ビジターの九回はあとの攻撃ないし、打たれたらサヨナラやし…」。
今後もクローザーをやってみたいか尋ねると「それはまったくない。松井が帰ってくるまで粗相をしないようにって、それだけでしたよ」と否定する。
確かに精神的にも相当タフでないと務まらない。そういう意味では向いている気もするが…。
■自主トレではキャンプではできない動きを取り入れる
それにしても体のタフさも尋常ではない。その秘密を解明したくて自主トレを間近でじっくり見せてもらったが、朝から暗くなるまで、とにかくハードだ。
ウェイトから始まり、昼からはランメニューなどをたっぷり取り入れているが、ここでも強靭な心肺機能を発揮していた。
周りの選手より断然スピードがある。しかし飛ばしても脈が安定している。無尽蔵なスタミナの持ち主であることを、改めて知らされた。
ことしは特に走ることを多めにしているという。「ケガするギリギリのところまで」と、サブちゃん風の言い回しで表現する。
さんざん動いた後の夕方、外野でひとりラグビーボールを蹴っては走って追いかけている。子どものひとり遊びのようにもくもくと続けているが、よく見るとジャージの上着の中に、マル秘アイテムを仕込んでいた。
自ら購入した、重さを調節できるベストだ。福山投手は6キロのおもりを入れて着込んでいるが、とてもそんな重さを身にまとっているとは思えないほどの身軽な動きを見せている。
「まぁ例えると、野手のマスコットバットみたいな感じですよ」。なるほど、わかりやすい。
ほかにもアジリティトレーニングやスタンドの階段ダッシュ、スクラム、超開脚でのティーバッティング…などなど、練習内容も自ら考案し、工夫している。
「いろんなものがトレーニングになっている。ラグビーボールを蹴ったりジャンプして捕ったり、あまり野球のトレーニングではしないこと、キャンプではできない動きをしている。ほかの人がやっててよさげそうなものを取り入れたり。動物の動きだったり鳥の啼き声だったり…」。
え・・・?動物の動きや鳥の啼き声?そんなものまで!?
「あ、いやいや、それはないけど(笑)」。
出た!油断もスキもありゃしない。福山投手の話はちょいちょいとんでもない冗談を交えてくるから、すべてを鵜呑みにしてはいけない。
ラグビー好きで有名な福山投手だが、「ラグビーはただ好きなだけ。正月に花園とかやってて見る機会も多いんで。でもヒントにはならないですね」と言いつつも、ラグビーのスクラムのような動きは取り入れている。
「あれは体幹がグッと締まるんで」。このとき、先述のベストを着てやることもある。これも相当きつそうだ。
■ケガをしても耐えられる体と気持ち
「いいかなと思うことは取り入れている。トレーニングっていうのは、身についてるって、そういう気持ちでやっとかんとやってる意味がない。自分でそう思わないと」。今のところシーズンで結果として出ているので、実際、身についているということだろう。
「よくよく考えたら、ケガしない体を作るとよく言われるけど、それは難しいことだと思う。それよりもケガしても耐えられる体と気持ちがあればって思うんですよ」。発想の転換だが、そこで例に出してきたのがラグビー選手だ。
「靭帯をガーンて痛めたり、打撲しながらもプレーを続けているじゃないですか。すごいスポーツ。それに耐えられるような体を目指せば、いけるんじゃないかって思うんで」。競技は違えど、そのスタイルは取り入れたいのだ。
「結局、トレーニングは気持ちなんですよ。ケガしても病院にいかなければケガじゃないし、自分が大丈夫と思えば大丈夫なんで」。
つまりは自分で「大丈夫」と思える体を作っているのだ。
■動きながら疲れをとる
そして究極、「動きながら疲れをとる」ということを求めているという。「シーズン中は休もうにも週に一日しか休みがない。矛盾しているかもしれないけど、動きながら回復させないと」。
なるほど。それが4年連続65試合以上登板を可能にしているのか。
すると、一緒に自主トレを行っている岡島豪郎選手がとんでもない話を明かしてくれた。「サブさんがすごいのは、どんなにしんどいときでもデーゲームの日は絶対に走ってるんすよ、誰よりも。デーゲームの日は必ずアメリカン(ノック)してるんですよ。特にナイター(翌日の)デーのときに」。体を起こすためとはいえ、なんという所業だ。
ここで福山投手が「あ〜っ!それ書いちゃダメですよ。誰かにパクられるー!」と口を挟むと、即座に岡島選手のツッコミが入る。
「誰もパクりませんて(笑)!まずやろうとは思わんから。普通はいかに(体力を)温存しようと考えるのに、ほんとそれはすげぇって思う」。後輩野手もただただ感嘆しかないようだ。
「疲れるかもしれないけど、自分にとってはそれがいいあんばいというかね」。これも福山投手なりの「動きながら回復する」方法のひとつのようだ。
またチームスタッフのひとりがこんなことを言った。
「ボクの解釈ですけど、サブちゃんは野球以外の動きも必要って考えてるんじゃないかと思う。野球だけに突出した体を作るより、ほかの動きをすることでほかの筋肉もつくから、それが野球の筋肉の補強になって、ひいてはケガしにくいんじゃないかな」。おもしろい分析だ。それは当たっているかもしれない。
■前へ前へ
そしてそれらを支えているのは強靭な精神力だ。「自分が疲れてないと思えば疲労じゃない」「痛いと思わなければケガじゃない」など、“超強がり”の思考がそれを可能にしている。
そういった思考に至るのは、イーグルスへの感謝の気持ちにほかならない。横浜DeNAベイスターズに入団して2年後に野手転向を打診された。投手にこだわった福山投手が戦力外を受け入れたのは有名な話だ。
そこでトライアウトを経て、イーグルスへの入団が決まった。
「楽天に拾ってもらったとき、野球に対して考えが変わった。なんとでもなるっていうか、前進あるのみと思った。しょうもないこと考えてもしょうがないし、前に進むだけ。考えたり悩んだりする前に、まずやってみようって。ラグビーのトライと一緒ですよ。前に前にね」。
■拾ってもらった恩と野球ができることへの感謝
「チームのため」という言葉はよく聞く。もちろん口にする本人の本音だろうが、福山投手の思いは本当に深い。心の底の底からそう思っている。いや、それしかないのだ。
「あしたダメでもいいと思ってるんで。戦力外から拾っていただいて、2年も3年もやろうなんて微塵も思ってなかったし、ましてFAで海外いきたいなんてビジョンもないし。とりあえずきょう一日、必死に生きたいがために試行錯誤してやってるだけ」。
そういう思いでやってきた一球、一回、一試合、一年の積み重ねが4年連続65試合以上の登板という偉業を達成させた。
そこにあるのはただ「拾ってくれた」チームへの恩返しと、野球ができることへの感謝の思い。自分の野球人生でありながら、自分のものでなく、福山投手はチームのために存在しているのだ。
だから今季も変わらず、いやこれまで以上に投げるつもりだ。もちろん、いつでもどこでも厭わない。優勝への歯車のひとつになれることを至上の喜びとしている。
そして福山投手がいつも言うのが、「みんなの人生を背負って投げる」ということ。チームメイトだけではない。裏方さん、本社の人々、ファンのみなさん…1球があらゆる人たちの人生を左右する。それが投手としての醍醐味でもある。
その気概をもって、今季も身を粉にして働くつもりだ。
ちなみにことしは「お肉はよく焼きます」と宣言しているので、昨年おおいに心配されたみなさま、どうぞご安心を!!
(撮影はすべて筆者)
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