「働き方改革」の見直しで「安倍一強」は崩れ始めた
フーテン老人世直し録(357)
弥生某日
厚労省が作成した裁量労働制のデータ問題は第一次安倍政権を終わらせた11年前の「消えた年金記録」を思わせると前回のブログに書いた。11年前を思い出して危機感を募らせたのか、安倍総理は「働き方改革」関連法案から裁量労働制拡大の部分を削除する決断を下し問題を収拾することにした。
しかし今国会の最重要法案である「働き方改革」を変更することは「安倍一強」の政治構図が転機を迎えたことを意味する。フーテンは前回のブログで「安倍総理は強行するだろう、しなければ求心力は低下し、憲法改正にも秋の自民党総裁選にも影響する」と書いたが、強行できないことが「一強」の構図が崩れ始めた事を示している。
安倍総理の決断は2月28日に平成30年度予算案を衆議院本会議で採決した後、総理官邸に菅官房長官、加藤厚労大臣、自民党の二階幹事長、岸田政調会長、公明党の井上幹事長、石田政調会長を集めた会合で示された。
「働き方改革」関連法案は政府提出法案であるから法案を変更する方針は政府だけで決めることが出来る。しかし安倍総理は与党幹部も引き入れた会合で方針を示した。それは最重要法案を与党とも緊密に協議しながら進めていく姿勢を示したことになる。
そもそも日本には「事前審査制」と言って与党が事前に政府提出法案を審査する独特の慣例があり、そのため与党が政府より強い力を持つ傾向があった。「安倍一強」はそれを覆し官邸主導ですべてを決めてきたことから名づけられた。それが今回の問題によって与党の役割が大きくなる可能性が出てきたのである。
「安倍一強」の典型的な例は「憲法改正」である。自民党は野党時代に「憲法草案」を作成し、憲法9条2項を削除する方針を決定した。9条2項は「戦力不保持」と「交戦権の否定」を謳っており、現在の自衛隊の実態と乖離している。それが様々な矛盾と混乱を生み出してきた。
条文を字句通りに読めば自衛隊は違憲である。しかし歴代政権は自衛隊を合憲と解釈して現在に至った。ところが自衛隊は国連の国際貢献活動に従事するようになり、軍隊でないことから他国とは異なる不都合な問題が様々に出てきた。自民党案にはそうした問題を解消する狙いがある。
ところが去年5月に安倍総理は自民党案を無視して9条2項を維持したまま自衛隊を憲法に明記する方針を右派団体「日本会議」の会合でアピールした。「日本会議」は左翼を真似た大衆運動路線を採り、大衆に受け入れやすい「憲法改正」を目指し「9条2項維持」を主張してきた。安倍総理はその方向を自民党に検討するよう命じたのである。
憲法改正は国民の声を受け国民の代表である国会議員が発議するもので、憲法順守義務を負う内閣総理大臣が右派団体の主張に沿って主導するのは異例というか異常である。自民党内にはこのやり方に不満を持つ議員も多い。自民党総裁選に立候補するとみられる石破茂氏は9条2項削除を主張している。
そうした中で安倍政権が「働き方改革」で与党の意向を尊重する姿勢を見せたことは「憲法改正」を巡る自民党内の議論にも影響する。秋の自民党総裁選は憲法改正を巡る戦いになる可能性があり、そこで安倍総理が勝利し長期政権の端緒をつかんだとしても、大差の勝利にはならず求心力を低下させるとフーテンは思う。
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