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【その5】プーチン大統領は国民にいかに「ウクライナ侵攻」の理由を説明したのか:1時間スピーチ全文訳

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
冬のウラル、森の地平線。バシコルトスタン共和国。欧州はウラル山脈までと定義される(写真:イメージマート)

なかなか思うように進まなくて、長くなってしまっております。

でも、終わりが見えてきました。最後までお付き合いください。

軍事の話になると、ミサイルやシステム等に日本語の定訳がないか、調べて確認をするのに時間がかかります。

それから、クレムリンの英訳を送ってくださったNさん。ありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます。

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<ウラジーミル・プーチン大統領 ビデオメッセージ 2022年2月21日>

写真:REX/アフロ

今日、地図を一目見るだけで、西側諸国がNATOの東方への拡大を控えるという約束を、どれほど守ってきたかを知ることができます。彼らはごまかしてだましただけなのです。

我々は、次から次へとやってくるNATO拡大の5つの波を次々と見てきました。ポーランド、チェコ、ハンガリーは1999年に承認されました。2004年にはブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア。 2009年のアルバニアとクロアチア。2017年のモンテネグロ。そして2020年の北マケドニアです。

その結果、同盟とその軍事インフラはロシアの国境に達しました。これは、欧州の安全保障の危機の、主な原因の一つです。国際関係のシステム全体に非常に悪影響を及ぼし、相互信頼の喪失につながりました。

戦略分野も含めて、状況は悪化の一途をたどっています。例えば、世界的なミサイル防衛システムを構築するアメリカの計画の一環として、ルーマニアとポーランドに迎撃ミサイルのポジショニング・ゾーンがつくられている最中です。そこに配備されているランチャーが、攻撃型システムであるトマホーク巡航ミサイルに使用できることは、よく知られています。

またアメリカは、多目的ミサイル「スタンダード6」の開発を進めています。これは空の防御とミサイルの防衛を確かなものにして、同時に陸上と地上の標的を攻撃することができます。言い換えるなら、防御的とされているアメリカのミサイル防衛システムは、新たな攻撃的能力を開発し、拡大しているのです。

我々が入手している情報は、ウクライナのNATOへの加盟と、その後のNATO施設の配備がすでに決定されており、時間の問題であると信じる十分な理由を与えてくれます。

このシナリオを考えると、ロシアに対する軍事的脅威のレベルが何倍にも劇的に増加することを、我々ははっきりと理解しています。そして、この時点で強調しておきたいのは、我が国への突然の攻撃のリスクが増大するということです。

アメリカの戦略計画文書では、敵のミサイルシステムに対する、いわゆる予防攻撃の可能性が確認されています。我々はまた、アメリカとNATOの主な敵もわかっています。ロシアです。NATOの文書には、我が国が欧州大西洋の安全保障に対する主な脅威であると公式に宣言されています。ウクライナはそのための上陸拠点として機能するでしょう。我々の先祖がこのことを聞いても、おそらく信じないでしょう。今日、我々も信じたくないのですが、そうなのです。ロシアやウクライナの人たちにも、このことを理解してもらいたいと思います。

ウクライナの飛行場は、我々の国境からそれほど遠くない所にたくさんあります。そこに配備されたNATOの戦術機、精密兵器運搬機を含みますが、ヴォルゴグラード、カザン、サマラ、アストラカンのラインの奥まで、我が国の領土を攻撃することができるようになります。ウクライナ領内に偵察レーダーを配備することで、NATOはウラル山脈までのロシアの領空を、厳しく管理することができるようになります。

最後に、アメリカによる中距離核戦力全廃条約(INF条約)の破棄後、ペンダゴン(米国防総省)は、最大5500km離れた標的に到達できる、弾道ミサイルを含む地上攻撃兵器を公然と開発しました。

ウクライナに配備された場合、これらのシステムはロシアの欧州地域全体で標的を攻撃できるようになります。

モスクワまで、巡航ミサイル「トマホーク」の飛行時間は35分以下になります。ハリコフからの弾道ミサイルは7〜8分かかります。そして極超音速攻撃兵器では4〜5分です。

それは喉へ突きつけられたナイフのようなものです。過去に何度も行ってきたように、この計画を実行することを望んでいることを、私は疑っていません。NATOを東方に拡大し、軍事インフラをロシア国境まで移動させ、私たちの懸念、抗議、警告を完全に無視しているのです。すみませんが、彼らはこれらのことをまったく気にしておらず、彼らが必要だと思ったことだけをしたのです。

もちろん彼らは、これからも同じようにふるまうでしょう。「犬は吠えるが、キャラバンは進む」という有名な諺に従って。でも、すぐに言わせてください。我々はこのような振る舞いを認めませんし、今後も認めません。とはいえ、ロシアは常に、最も複雑な問題を、政治的、外交的手段によって、交渉のテーブルで解決することを提唱してきました。

我々は、地域と世界の安定に対して、我々には大きな責任があることをよく認識しています。2008年、ロシアは欧州安全保障条約の締結を締結するためのイニシアチブを提唱しました。この条約では、欧州大西洋地域のいかなる国や国際機関も、他の組織を犠牲にして、自国の安全保障を強化することはできません。しかしながら、我々の提案は、あっけなく却下されました。ロシアがNATOの活動に制限を加えることは許されるべきではないという理由でした。

さらに、NATO加盟国のみが、法的拘束力のある安全保障を得ることができると明示されたのです。

昨年12月には、ロシア連邦とアメリカ合衆国との間の安全保障に関する条約案と、ロシア連邦とNATO加盟国の安全を確保するための措置に関する協定案を、西側のパートナーに提出しました。

アメリカとNATOは一般的な声明で応えました。それらには合理的な要素も含まれていましたが、二次的に重要な問題を扱っており、これはすべて、問題を引きずって、議論を誤った方向に導こうとしているように見えました。

これに対して、我々は交渉の道を歩む用意があることを示しました。ただし、すべての問題が一つのパッケージとして検討されることが条件でした。それはロシアの基本的な提案を含んでおり、3つの重要なポイントから成っています。

第一に、NATOのさらなる拡大を防ぐことです。第二に、同盟国にロシア国境の拠点への攻撃兵器システムの配備を控えさせること。そして最後に、欧州における同盟の軍事インフラを、「NATO・ロシア基本議定書(Founding Act)」が署名された1997年の状態に戻すことです。

その6に続く。あと1回で終わりそうな感じですが・・・私の時間と体力によります>→6回で終わりました。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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