ロシア政府の荒唐無稽な主張「ウクライナのハリコフに米軍THAAD配備の動き」
2月7日、ロシアのペスコフ大統領報道官は「ウクライナ政府がアメリカにTHAADをハリコフに配備するよう要請した」という情報があると説明しました。
・・・聞いた瞬間に嘘だと分かります。THAADという弾道ミサイル防衛システムがどのような機材か理解していれば、このような荒唐無稽な発想は出て来ない筈ですが、ロシア政府は真顔で主張しているようです。「直ぐにバレる嘘であることを理解した上で言い掛かりをつける」、これこそがプロパガンダの真骨頂だと言えるでしょう。
ハリコフへのTHAAD配備が荒唐無稽な理由
- THAADは中距離弾道ミサイル迎撃用だが、そもそもロシアは中距離弾道ミサイルを保有していない。
- ロシア軍が保有するイスカンデル短距離弾道ミサイルは低い弾道で飛んで来るので、最低迎撃高度40kmのTHAADでは対応が困難。
- ハリコフはロシア国境から約50kmと最前線にあり、こんな近過ぎる場所にTHAADを置いたら開戦初撃で簡単に潰されてしまう。
THAADで迎撃できる目標がロシア軍には存在しないので、THAADを対ロシアで配置する意味はありません。それではTHAADのTPY-2レーダーのみを配備するという意味であっても、ハリコフは前線に近過ぎて危険なので、価値の高い機材をそのような場所に配置したりはしません。国境線から50kmの位置では重砲や多連装ロケットの射程内なので、一瞬で潰されてしまいます。そんなところに高価なシステムを数個も置く? 意味が理解できません。
ロシア政府の主張は二重の意味で有り得ない話です。荒唐無稽なプロパガンダとしか言いようがありません。そしてこの程度の話はロシア政府は十分に理解しています。全て承知の上での言い掛かりです。
このロシアのプロパガンダは、西側の一部の市民はこの程度の内容でも騙せると舐め切った官製フェイクニュースです。そして一部の陰謀論者は実際に信じてしまい騙されてしまうでしょう。こうして我々の社会の分断を図るのです。
少しは信憑性が出るかもしれない「キエフにパトリオットを配備」ではなく、あまりにも荒唐無稽な「ハリコフにTHAADを配備」なのは、単にTHAADの方が知名度が高いからという動機で、もともと嘘なのだから派手に嘘を吐こうという発想です。
またロシアの同じようなプロパガンダの嘘として、「東欧に配備されたNATOのイージスアショアにはトマホーク巡航ミサイルが搭載されている」というものがあります。
イージスアショアへのトマホーク配備が荒唐無稽な理由
- 前線に近い位置に固定式で攻撃用ミサイルを配置するのは脆弱過ぎる。攻撃用の中距離ミサイルは移動式とするのが現代の軍事常識。
- そもそもトマホークはイージスシステムでなくても火器管制はできるので、イージスアショアに搭載する必要性が全く存在しない。
搭載する意味が存在しないどころかマイナスしかないので頼まれてもやらないのに、搭載していると言い掛かりをつけて来るロシアに対してアメリカは次のような対応を行いました。
- そこまで言うなら東欧配備イージスアショアはSM-3迎撃ミサイルしか運用できないように、火器管制システムの機能を制限しておく。
- トマホークが入っていないかどうか、ランチャーの中身をロシアの視察団が確認に来てもよい。
なおロシアは確認したら言い掛かりがつけられなくなるので、この提案は受け入れていません。
今回のロシア政府による「ハリコフにTHAAD配備の動き」という荒唐無稽な主張も、これと全く同じ種類のプロパガンダだと言えるでしょう。以前から行われている常套手段なのです。