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パワーアップした藤井聡太七段、佐藤天彦九段に完勝で永瀬拓矢二冠との最終決戦へ

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 2日、第91期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント準決勝の2局が行われ、永瀬拓矢二冠(27)と藤井聡太七段(17)が勝ち上がり、挑戦者決定戦へ進出した。

 両者は4日(水)に対戦し、勝ったほうが渡辺明棋聖(36)への挑戦権を得る。

 もし藤井七段が挑戦となれば、最年少タイトル挑戦の新記録を達成する。

完勝

準決勝までの勝ち上がり
準決勝までの勝ち上がり

 藤井七段の対戦相手は佐藤天彦九段(32)だった。

 振り駒で先手になった藤井七段は角換わり戦法を採用した。

 先日のABEMAの企画では矢倉を採用した藤井七段だったが、今回は指し慣れているエース戦法で臨んだ。

 佐藤九段の対策は、端を受けず積極的に戦いを起こすもの。

 その攻めに対し、藤井七段は自陣に角を打って反撃に出た。

 その後、藤井七段が銀で桂を取った手に筆者は驚かされた。

 駒損になるだけに指しづらい手だが、決断が早かったところをみると研究範囲だったのだろう。

 佐藤九段はその銀を取らずに攻め込んだが、結果的にはその判断が良くなかったように思う。

 局面が落ち着くと藤井七段の駒得が残り、リードは確実なものとなった。

 以下は粘り強い佐藤九段に手段を与えない強い内容で、藤井七段が押し切った。

パワーアップ

 緊急事態宣言を受けて53日ぶりの対局となった藤井七段だったが、ブランクは感じられなかった。

 むしろパワーアップした印象すら受けた。

 局後の記者会見でも

「普段以上に将棋に取り組むことができた面もある」

 と語っており、しっかり勉強を積んでいたことをうかがわせる。

 また筆者はもう一つ以前との違いを感じた。

 それは、持ち時間の使い方だ。

 藤井七段は長考派で、中盤のうちに秒読みになることも珍しくない。

 それもまた強さの一端ではあるのだが、秒読みに追われてミスをおかし、逆転負けを喫することもある。

 しかし本局は残り時間にゆとりをもって戦いを進め、最終的には10分以上余しての終局だった。

「時間に泣いた」藤井七段、逆転を呼んだ広瀬竜王の「タイムマネジメント」

 この記事は、昨年11月の王将戦挑戦者決定リーグ最終戦で、勝てば挑戦者となる一番で藤井七段が逆転負けを喫したときに書いたものだ。

 本局はタイムマネジメントも際立っており、安定感が増していた。

 これもまた、パワーアップを感じさせた一因だった。

最強の相手

 準決勝のもう一つは、永瀬二冠と山崎隆之八段(39)の対戦だった。

 山崎八段が得意の力戦に持ち込み、均衡のとれた戦いが続いた。

 将棋の流れとしては山崎八段のペースかと思われたが、飛車が交換されて本格的な戦いに入ってからの永瀬二冠は強かった。

 最後はキレイな即詰みに討ち取り、佐藤九段―藤井七段戦の約30分前に永瀬二冠が勝ち名乗りをあげた。

 そうして挑戦者決定戦は永瀬二冠―藤井七段の組み合わせとなった。

 もう一度トーナメント表をご覧いただこう。

画像

 このカードは公式戦では初めての対戦となる。

 しかし練習将棋を行う間柄として知られ、藤井七段は終局後の記者会見でもそのことを話していた。

 手の内を知った同士といえよう。

 藤井七段は現在8連勝中だが、永瀬二冠も5連勝中と好調をキープしている。

 いま将棋界で強い棋士は誰か、その問いに必ず名前のあがる二人だ。

 この二人は今後様々な舞台で戦うだろう。

 今度の挑戦者決定戦は、その歴史の第一歩となる。

 そしてタイトル戦で待つのは渡辺棋聖。

 まさに最後に待ち受ける「ラスボス」だ。

 これほど心躍る展開はフィクションの世界でも珍しい。

 しかもその対局はもう目の前だ。筆者も心待ちにしている。

 戦型は、永瀬二冠が先手なら矢倉、藤井七段が先手なら横歩取りと予想する。

 歴史的な大一番、どうぞご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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