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100期vs雪辱 羽生九段と永瀬九段が激突!藤井聡太王座への挑戦権 ー22日に挑戦者決定戦ー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 7月22日(月)に第72期王座戦挑戦者決定戦が行われます。
 タイトル獲得通算100期を目指す羽生善治九段(53)と、前期五番勝負の記憶も新しい前王座の永瀬拓矢九段(31)が対戦します。

 どちらが勝利しても、藤井聡太王座(22)との五番勝負は大きな注目を集めることでしょう。

 この記事では、今期王座戦挑戦者決定トーナメントにおける、羽生九段と永瀬九段の戦いぶりをプレイバックします。

羽生九段の勝ち上がり

 羽生九段は前期、挑戦者決定トーナメントのベスト4に進出したため、今期はシードでの登場となりました。
 1回戦では長年のライバルである佐藤康光九段(54)と対戦。この将棋で羽生九段は九死に一生を得ました。

「第72期王座戦挑戦者決定トーナメント1回戦 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲羽生善治九段ー△佐藤康光九段 93手目▲3四歩まで
「第72期王座戦挑戦者決定トーナメント1回戦 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲羽生善治九段ー△佐藤康光九段 93手目▲3四歩まで

 佐藤九段が羽生九段の玉に迫り続けています。先手玉に詰みはありませんが、図で△1二飛と打って先手玉を包囲すれば佐藤九段が勝勢でした。
 △1二飛は自玉の詰み筋を消しつつ、先手玉を受けなしにする一手で、こう指していれば羽生九段といえども手段は残されていなかったでしょう。

 実戦は△4一角▲2二玉△3二飛▲1一玉と進み、後手玉の詰み筋は消えたものの▲1一玉と逃げた形がつかまらない格好で、以下数手で羽生九段の勝ちとなりました。

 2回戦では糸谷哲郎八段(35)に快勝し、迎えた準決勝。相手は今期好調の広瀬章人九段(37)でした。

「第72期王座戦挑戦者決定トーナメント準決勝 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲広瀬章人九段ー△羽生善治九段 91手目▲5九銀打まで
「第72期王座戦挑戦者決定トーナメント準決勝 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲広瀬章人九段ー△羽生善治九段 91手目▲5九銀打まで

 接戦の終盤戦。図から、△7八銀不成▲同銀△5八金▲同玉△7八桂成と攻め込んだのが好判断でした。金と銀を渡すために自玉もかなり危なくなりますが、羽生九段は詰みがないことを読み切っていました(▲6一飛△6二歩▲6四銀と追っても△7二玉でギリギリ詰まない)。

 今期はここまで8勝1敗(未放映のTV対局除く)と絶好調の羽生九段ですが、終盤戦での正確な読みが際立っています。

永瀬九段の勝ち上がり

 永瀬九段は前期、王座保持者としてシードとして登場しました。

 1回戦で郷田真隆九段(53)に勝利して、2回戦では菅井竜也八段(32)と対戦。熱戦になることが多い相手ですが、本局は永瀬九段が会心の指し回しを見せました。

「第72期王座戦挑戦者決定トーナメント2回戦 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲菅井竜也八段ー△永瀬拓矢九段 109手目▲1六玉まで 圭=成桂
「第72期王座戦挑戦者決定トーナメント2回戦 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲菅井竜也八段ー△永瀬拓矢九段 109手目▲1六玉まで 圭=成桂

 菅井八段の中飛車に最新形をぶつけた永瀬九段は、中盤で優位に立つとリードを保ったまま終盤戦へ。
 迎えた図で、△5七竜が決め手となりました。▲同馬△2八銀と打って先手玉が必至(△1五金と△1七金の2つの詰めろが同時には受からない)となり、投了に追い込みました。
 いつも熱戦になる相手を圧倒するあたり、永瀬九段の充実ぶりがうかがえます。

 そして準決勝では、永瀬九段が若い頃から練習将棋でぶつかってきた先輩棋士である鈴木大介九段(50)と対戦しました。

 序盤でリードを奪った永瀬九段ですが、鈴木九段の頑強な頑張りにリードを広げられずに苦しみます。しかしそこで踏みとどまれるのが永瀬九段の強さです。

 そして、「永瀬九段らしい」一手で勝負を決めました。

「第72期王座戦挑戦者決定トーナメント準決勝 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲永瀬拓矢九段ー△鈴木大介九段 110手目△5七角まで
「第72期王座戦挑戦者決定トーナメント準決勝 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟」 ▲永瀬拓矢九段ー△鈴木大介九段 110手目△5七角まで

 △5七角は▲9三銀以下の詰めろを消しつつ攻めにきかせたもの。
 ▲9四歩に対しては△7九銀▲同金に△6六角打が好手で、先手玉が詰んでしまいます。▲同金に代えて▲9八玉なら詰みはありませんが、かなり危険な状況に追い込まれます。
 攻めるか守るか難しい判断を迫られた永瀬九段でしたが、▲6九桂と打ったのが決め手となりました。7七の地点を補強して詰み筋を消しつつ、角取りになっています。5七角の効きがそれると(△4六角成など)▲9三銀から後手玉が詰みます。

 ▲6九桂は「絶対に負けないぞ」という永瀬九段らしいカラい手で、ここで勝負の行方がハッキリしました。

充実の二人、挑戦権を得るのは?!

 羽生九段と永瀬九段の対戦成績は、羽生九段の8勝15敗で永瀬九段がリードしていますが、ここ2戦は羽生九段が勝利しています。

 今期の成績は羽生九段が8勝1敗、永瀬九段が4勝3敗(いずれも未放映のTV対局除く)で、羽生九段の方が好調と言えます。

 前期の五番勝負を思い返せば、今期の王座戦への永瀬九段の思い入れが相当に強いことは間違いありません。今期の王座戦における永瀬九段の指し回しには鬼気迫るものを感じます。

 充実一途の二人の対戦、非常に楽しみです。藤井聡太王座への挑戦権を得るのは羽生九段か永瀬九段か。

 挑戦者決定戦は7月22日(月)9時対局開始です。ABEMA将棋チャンネルなど各種メディアで中継されます。ぜひご注目ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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