真っ向勝負で魅せた最強の一手 ー 藤井聡太棋聖、棋聖戦五番勝負で実力を遺憾なく発揮
7月1日(月)、第95期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局が行われ、藤井聡太棋聖(21)が挑戦者の山崎隆之八段(43)に勝利し、通算3連勝で防衛に成功しました。
この防衛により棋聖を通算5期保持し、永世棋聖の称号を獲得。藤井棋聖は21歳11カ月での永世称号獲得となり、中原誠十六世名人(76)が保持していた年少記録を53年ぶりに更新しました。
先手の山崎八段は得意の相掛かりを選択。位を取って陣形を広げる山崎八段に対し、藤井棋聖はコンパクトな陣形から素早い仕掛けを繰り出してリードを奪いました。
逆転を得意とする山崎八段も技を駆使して粘りましたが、藤井棋聖は鋭い手を連発して最短距離でゴールに飛び込みました。
山崎八段の構想を咎める仕掛け
図で藤井棋聖が素早く仕掛けたのが秀逸でした。
自玉の近くである6筋に位を取ったのは山崎八段らしい構想でした。狙いが見えにくいのですが、長い戦いになれば6筋の位がモノを言うということなのでしょう。
△6四歩と仕掛けても、▲同歩△同銀▲6五歩とすれば位を確保できて後手はそれ以上の攻めがありません。
戦いはまだ先になるかと思われましたが、△7五歩と歩を捨てたのが山崎八段の構想を正面から咎めた好手でした。▲同歩にそこで△6四歩として、▲同歩△同銀▲6五歩には△7五銀と手順に進出できて後手が有利になります。
山崎八段は普段から大胆な構想で指すことが多く、その構想がやや無理気味でも、実戦でそれを咎めるのは大変です。しかしこのシリーズでは3局とも山崎八段の構想を藤井棋聖が咎めてリードを奪いました。その構想力には驚嘆するばかりです。
最強の一手で逆転術を封じる
終盤戦、山崎八段は相手の読みを外すような手を連発して、勝負勝負と迫りました。
△2六角の金取りに金を逃げた場面です。先手が角桂交換の駒損ですが、次に▲3八桂が先手の狙い筋です。これで角が詰んでるうえ、▲2六桂~▲3四桂の三段跳びが狙えます。
この手を防ぎつつ攻めるような手を考えたいところですが、藤井棋聖の目は敵玉を見ていました。△6五歩と守りの銀に狙いをつけたのです。これは驚きの一手であり、最強の手でした。
もし▲3八桂とくれば△6六歩と銀を取り、▲2六桂に△6七歩成から攻め合いで勝つ狙いです。
形勢が有利と思うと、相手の狙いを防いで安全に勝とうとするのが人間の思考です。しかしそこをさらに掘り下げて、勝ち筋があるとみたら踏み込むのが藤井棋聖の強さといえます。
最強手連発で収束
▲3八桂では負けとみた山崎八段は、実戦では▲6四桂といきなり敵陣に切り込みました。
△6二金と逃げれば▲2七歩と角を詰まして、角を取れば▲5一角が厳しく残るという狙いです。
この手は、△7四飛と打たれると王手桂取りですぐに取られてしまうため、異端の一手と言えます。そう指しても後手の有利は揺らがなかったでしょう。
しかし実戦で藤井棋聖は△7四飛と指さずに、△6六歩と踏み込みました。これが△6五歩に続く最強手でした。
▲5二桂成△同玉▲8三竜と進むと、後手玉は一気に危険な状態に追い込まれます。ただ、そこで△6七歩成▲同金△6九飛と進めれば一手勝ちできるというのが藤井棋聖の読み筋でした。
この判断が正確で先手に手段は残されておらず、以下も正確な指し手を続けた藤井棋聖が押し切りました。
藤井棋聖が実力を遺憾なく発揮
改めて五番勝負の表をご覧ください。
3局通じて、山崎八段らしい指し回しは出ていたと思います。
山崎八段はこの指し回しで強敵を連破してトーナメントを駆け上がり、挑戦権をつかんだのです。
山崎八段の奔放な構想にどの棋士も苦しめられていますし、山崎八段は逆転術でも数々の勝利をあげてきました。
しかし、藤井棋聖は山崎八段の指し回しを真っ向から受けて立ち、3局とも見事な指し回しを見せました。
山崎八段の奔放な構想に強く反発してリードを奪い、逆転を狙って技を繰り出す山崎八段に対して最強の手で返して勝利をあげました。
藤井棋聖が実力を遺憾なく発揮したシリーズでした。
八冠を崩された藤井棋聖ですが、このシリーズを見ても実力に揺るぎがないことは間違いありません。
次のタイトル戦は渡辺明九段(40)との伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負です。巻き返しを狙う渡辺九段を相手にどのような戦いを見せるのか。楽しみなシリーズとなりそうです。