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気づけば父と同じ映画監督の道に。「苦労を知っていたので映画にかかわる気はまったくなかった」

水上賢治映画ライター
「UTAMA~私たちの家~」より  (C)AlmaFilms

 白石和彌、中野量太、片山慎三ら現在の日本映画界の第一線で活躍する監督たちを輩出している<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭>が7月15日(土)から開催を迎える。

 本映画祭は今年節目の20回目。メインのプログラムとなる国際コンペティション、国内コンペティションのほか、本映画祭をきっかけに大きな飛躍を遂げた監督たちをゲストに招く「SKIPシティ同窓会」といった特別上映も行われ、例年にも増した充実のラインナップが組まれている。

 その開催に先駆け、昨年の国際コンペティションで見事受賞を果たしたフィルムメイカーたちに受賞直後行ったインタビューを届ける。

 一人目は、審査員特別賞に輝いたボリビア、ウルグアイ、フランス合作映画「UTAMA~私たちの家~」のアレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督。

 ボリビアの高地にある小さな村で生きる老夫婦の暮らしから、人間の営みを映し出すとともに環境問題にも鋭く言及する本作についてボリビア出身の彼に話を訊く。全五回。

「UTAMA~私たちの家~」のアレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督  筆者撮影
「UTAMA~私たちの家~」のアレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督  筆者撮影

息遣いを強調した理由

 前回(第三回はこちら)は偶然出会ったご夫妻を主演に起用した経緯について訊いた。

 今回は、演出面について話を訊く。

 本作でひとつ印象的なのが、音の演出だ。

 作品は、このビルヒニオの息遣いを強調して、劇中ほぼずっと鳴っているような音の演出がされている。

「気づいてくださってありがとうございます。

 初はまったくこのような演出は考えていませんでした。

 ただ、撮影の初日だったのですが、ビルヒニオ役の男性の息遣いがひじょうに強力というか。

 彼の発する言葉もそうなんですけど、なにかこちらの心に訴えてくるようなものがある。そのことに気づいたんです。

 これは僕だけではなくて、音響を担当していたスタッフもそうで、『これは作品の大きな力になるよ』と進言してくれたんです。

 それで、彼の息遣いであったり、一応、体が少し悪いという設定なので咳き込むところであったり、といったものをいろいろなバージョンを録音させてもらいました。

 その音源を編集しているときに、ここは少し強めに音を出そうとか、ここは微かに聞こえるぐらいでとか、いったように使っていって、あのような形にしました。

 この作品においては、ビルヒニオの息遣いが音楽のような役割をはたしていて、映画のリズムの役目となっています。

 この息遣いをきくことで、観客のみなさんはビルヒニオの胸の内までを感じることができるのではないかと思っています」

 ほぼ全編にわたって人の息遣いが流れている映画というのはあまり聞いたことがない。

「そうですね。ある意味、大胆な発想といえるかもしれません。

 でも、僕としては自然な流れでそうなったというか。

 ビルヒニオは劇中ほぼすべてにわたって出てきているので、彼を感じてもらうのにもっともふさわしい演出だったかなと思っています」

「UTAMA~私たちの家~」より  (C)AlmaFilms
「UTAMA~私たちの家~」より  (C)AlmaFilms

当初は、映画にかかわる気はまったくありませんでした

 では、ここからはプロフィールについての話に。

 前にも少し触れたが、アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督は父も映画監督。

 ただ、グリシ監督自身ははじめにスチールカメラマンとしてキャリアをスタート。そこから撮影監督となり映画界でのキャリアをスタートさせている。

 聞くと、はじめは映画にまったく興味がなかったという。

「父が映画監督ということで、影響を受けてですかと、よく聞かれるんですけど、まったくそうではなくて(笑)。

 当初は、映画にかかわる気はまったくありませんでした。

 映画を作るということは大変な作業で、それこそ何年も時間を費やすこともある。

 それだけ時間をかけても、成立しないときがある。

 その苦労を間近でみていたので、僕は『父のようにはならない』と思っていたんです。

 ただ、あるとき、ほんとうに偶然に35ミリカメラのワークショップに参加する機会があって、行ってみたら、もうはまってしまった。

 カメラの面白さにはまってしまって、父の現場のスチールを撮らせてもらったり、ほかのいろいろな撮影をしたりと、スチールカメラマンの仕事をするようになっていきました。

 そこからだんだんと写真では満足できなくなってきて、今度は動く映像を撮りたい気持ちがでてきた。

 写真から今度は映像にのめりこんで、自分なりにいろいろと映像について学んでいき、しばらくするとミュージックビデオを撮り始めました。

 ここでディレクションの面白さを知って、はじめて映画監督をやってみたい気持ちが生まれました。

 ですから、当初は映画監督という道はまったく希望していなかった。

 でも、自分の興味のある道へ進んでいったら、自然と映画監督の道につながっていきました」

(※第五回に続く)

【アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督インタビュー第一回はこちら】

【アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督インタビュー第二回はこちら】

【アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督インタビュー第三回はこちら】

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」ポスタービジュアルより  提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」ポスタービジュアルより  提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭

<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023(第20回)>

会期:《スクリーン上映》2023年7月15日(土)~ 7月23日(日)

《オンライン配信》2023年7月22日(土)10:00 ~ 7月26日(水)23:00

会場:SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、多目的ホールほか

詳細は公式サイト:www.skipcity-dcf.jp

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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