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干ばつに見舞われた村から環境問題を考える。きっかけは目の当たりにした氷河が消滅している現実

水上賢治映画ライター
「UTAMA~私たちの家~」より  (C)AlmaFilms

 白石和彌、中野量太、片山慎三ら現在の日本映画界の第一線で活躍する監督たちを輩出している<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭>が7月15日(土)から開催を迎える。

 本映画祭は今年節目の20回目。メインのプログラムとなる国際コンペティション、国内コンペティションのほか、本映画祭をきっかけに大きな飛躍を遂げた監督たちをゲストに招く「SKIPシティ同窓会」といった特別上映も行われ、例年にも増した充実のラインナップが組まれている。

 その開催に先駆け、昨年の国際コンペティションで見事受賞を果たしたフィルムメイカーたちに受賞直後行ったインタビューを届ける。

 一人目は、審査員特別賞に輝いたボリビア、ウルグアイ、フランス合作映画「UTAMA~私たちの家~」のアレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督。

 ボリビアの高地にある小さな村で生きる老夫婦の暮らしから、人間の営みを映し出すとともに環境問題にも鋭く言及する本作についてボリビア出身の彼に話を訊く。全五回。

「UTAMA~私たちの家~」のアレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督  筆者撮影
「UTAMA~私たちの家~」のアレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督  筆者撮影

僕にとって日本に来ることが一つの夢でした

 はじめに、アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督だが、今回の受賞の喜びを隠せない。

 インタビューが始まると、開口一番、こう喜びを爆発させた。

「さきほどの授賞式の壇上でもお話ししましたけど、僕にとっては日本に来ることが一つの夢でした。

 なぜ、夢だったかというと、わたしの父が映画監督で来日したことがあるんです。

 1996年に東京国際映画祭に招待されて、父は日本を訪れました。

 そのとき、いろいろなお土産を買ってきてくれて、日本での話をいろいろと聞かせてくれました。

 で、父があるときに言ったんです。『東京国際映画祭への参加は自分の人生を変えた』と。

 つまり父にとってそれぐらい日本でいろいろ体験したことは忘れられないものだった。

 以来、僕にとって日本は憧れの国で、いつか自分も行ってみたいと思っていました。

 だから、今回はSKIPシティ映画祭に参加できただけでもとても光栄なことで。

 来日する前からワクワクしていました。

 しかも、くしくも父が来日した当時の年齢と、いま僕は同じ年なんです。

 父が日本を訪れたときの年齢と、同じ歳になったとき、僕も日本に来ることができた。

 今回の来日は僕にとってすばらしい体験の連続です。

 いま、あのとき、父が話してくれたことがもっと理解できるようなりました。

 その上、賞までいただくことができて、ほんとうに幸せな気持ちでいっぱいです」

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022」授賞式より  提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022」授賞式より  提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022

ドキュメンタリー番組の取材で一番痛感したまったなしの環境の問題

 では、作品の話に入るが、まず気候変動、干ばつ危機といった環境問題が物語の背景にある。

 環境問題を作品の背景にした理由をこう語る。

「最近、自分が書いた最初のシノプシスを見直す機会がありました。

 そこで気づいたんですけど、初稿の段階では、さほど環境問題というテーマは入っていなかったんです。

 物語の骨格としては今と同じで、ある老夫婦が暮らしている。

 ただ、あまり環境の問題とは関係なく、悪天候やいろいろな諸問題があって、その場にとどまらざるを得ない、身動きができなくなってしまう、といったものでした。

 そこから、なぜ環境の問題がテーマに含まれる物語になったかというと、実は『UTAMA~私たちの家~』に着手する前に、幸運にもわたしはドキュメンタリー作品を作る機会を得ていました。

 そのドキュメンタリー作品のテーマがずばり『環境』で、ボリビア国内を取材で周ったんです。

 世界地図で見てもらえればわかりますが、ボリビアはけっこう広いので、当然ですが僕も隅から隅まで巡ったことはない。

 行ったことのない場所がいっぱいある。

 だから、この取材旅行は驚きの連続で、こんなに知らないことがあるんだなと思いました。

 その取材旅行で一番実感したのが、環境の問題でした。

 ボリビアにおいて大きな水源になっているのは氷河です。

 でも、命の水の源泉である氷河がどんどん消滅している。

 そのほかにも、環境が大きく変化してしまっていることが各地で起きている。

 でも、ほとんどの人が知らない。

 もしかしたら近い将来、水不足になる危機がすぐそこまで来ているのに、気づいていない。

 この現実を目の当たりにしたとき、『このままでいいのか』『このまま見過ごしていいのか』と思いました。

 そこから環境について、僕はひじょうに興味をもっていろいろと調べるようになりました。

 その結果、これらの問題を『UTAMA~私たちの家~』の脚本に大きく反映させることになった次第です。

 また付け加えると、環境問題というといわゆる大国の責任がよく問われます。

 確かに大国が果たさないといけないことはあると思います。

 ただ、一方でボリビアのような小さな国にも、責任があるところがある。

 たとえば、違法な木材の伐採や違法な狩猟、あるいは鉱山を掘るときに出る汚染水の処理問題など、小さな国においても解決しないといけない課題、取り組まなければならない環境に関する課題がある。

 つまり大国だろうと小国だろうと、環境の問題は起きている。大国だろうと小国だろうと考えなくてはいけない。

 そういうことを含めて、本作で描けないかと考えました」

(※第二回に続く)

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」ポスタービジュアルより 提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」ポスタービジュアルより 提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022

<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023(第20回)>

会期:《スクリーン上映》2023年7月15日(土)~ 7月23日(日)

《オンライン配信》2023年7月22日(土)10:00 ~ 7月26日(水)23:00

会場:SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、多目的ホールほか

詳細は公式サイト:www.skipcity-dcf.jp

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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