干ばつに襲われた小さな村の現実が世界につながる。ボリビアの新鋭監督が考えたこと
白石和彌、中野量太、片山慎三ら現在の日本映画界の第一線で活躍する監督たちを輩出している<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭>が7月15日(土)から開催を迎える。
本映画祭は今年節目の20回目。メインのプログラムとなる国際コンペティション、国内コンペティションのほか、本映画祭をきっかけに大きな飛躍を遂げた監督たちをゲストに招く「SKIPシティ同窓会」といった特別上映も行われ、例年にも増した充実のラインナップが組まれている。
その開催に先駆け、昨年の国際コンペティションで見事受賞を果たしたフィルムメイカーたちに受賞直後行ったインタビューを届ける。
一人目は、審査員特別賞に輝いたボリビア、ウルグアイ、フランス合作映画「UTAMA~私たちの家~」のアレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督。
ボリビアの高地にある小さな村で生きる老夫婦の暮らしから、人間の営みを映し出すとともに環境問題にも鋭く言及する本作についてボリビア出身の彼に話を訊く。全五回。
ボリビアの小さな村ではあるが、世界のどこかにも当てはまる地
前回(第一回はこちら)は、本作で環境問題を扱うことになった経緯についての話になった。
その環境についてもう少し触れると、本作は、未曽有の干ばつに見舞われたボリビアの小さな村を舞台にしている。
近い未来、食料と水の争奪戦が世界で起こるといわれているが、その影響がすでに実際に出ている場所と受け止められる。
撮影した場所について監督はこう明かす。
「この土地は実際にあります。
場所としては、ボリビアの南部。チリとの国境に近いエリアになります。
南米というとみなさん、おそらくアマゾンのことがすぐに頭に浮かんで、ジャングルやアマゾン川といった豊かな自然がある場所をイメージするのではないでしょうか?
でも実態としては、このような干ばつによって枯れてしまった地が確実に増えている。特に太平洋側に。
ただ、これは南米だけの問題ではない。世界各地でも起きている。
なので、ボリビアの小さな村ではありますけど、ある意味、世界のどこかにも当てはまる地でもあるかもしれない。
そういう意味で、ここを撮影の地に選んだところもありました」
物語としては、ひとつの家族の関係をメインに描きたいと考えました
作品に話を移すと、ケチュア族の老夫婦ビルヒニオとシサが主人公。
彼らは何十年にわたって間、ラマと共にこの地で穏やかな日常を送ってきた。
ところが、村を未曾有の干ばつが襲う。
以来、日々の生活用水を手に入れるにも多大な労力が必要になり、村からは人が去っていく。
すでに高齢な両親が心配な息子は移住を夫婦に求める。こうして二人も決断の時が迫る。
この物語について監督はこう語る。
「もちろん気候変動や環境問題について真剣に考えて言及した作品を目指したことは確か。
ただ、それはあくまでバックグラウンドであって、物語としては、ひとつの家族の関係をメインに描きたいと考えました。
なぜ、ひとつの家族の関係を描こうと思ったのかというと、『世代間』について考えたかったんです。
というのも、親子関係が、いまディスコミュニケーションになってしまっているというか。
物語にも反映しているのですが、ビルヒニオとその息子は関係がうまくいっていない。そこで孫の存在によってかろうじて関係が切れないでいる状態になっている。
こういう家族間の断裂のようなことが、いまのボリビア社会では起きている。
その関係がうまくいかない要因に、世代によっての価値観の違いがあるのではないかと。
どの国でもそうなのでしょうけど、昔ながらの暮らしを続けている上の世代と、ネット生活が当たり前のいまの世代では生活様式から価値観まで違う。
だから、溝が生まれてしまうのは仕方ないことなのかもしれない。
ただ、それでもなお、父から子へ、子から孫へ、そういう形で受け継がれていくものがあるのではないか?もっと広い視野に立つと、継承される伝統や文化があるのではないか?ということを考えたかったんです。
また、ボリビアはもともと36の先住民が集まって誕生した国なので、自分のルーツというのを考えるのがひじょうに難しいんです。
そこで、この映画を通して、ボリビアという国をわたし自身が見つめ直したい気持ちがありました。
そのようなことを脚本作りにおいては考えて物語を紡ぎあげました」
ボリビアはかなり世代によって通ってきた社会が違う
「世代間」という話が出たが、では、人物の年齢はどう設定されているのだろう?
「ボリビアは世代によって通ってきた社会情勢がかなり変化しているといっていいと思います。
たとえば、いまの高齢者の世代、70代、80歳というのは第二次世界大戦を通っていて、冷戦の時代にも大きな影響を受けた。
一方、50代、60代ぐらいは独裁政権下を経験している。
その下の世代はようやく民主主義が根付いていき、リベラリズムが台頭した社会を体験していった。
社会としてはたとえば、会社を立ち上げて商売をする人が増えた。
そして、僕を含めた若い世代というのは自由な社会で生まれ育ってきた。戦争も独裁政権も知らない。ただ、だからこそボリビアの歴史やボリビアならではの文化にもう一度つながろうとしているところがある。
このように、かなり世代によって通ってきた社会が違うんです。
ほかにも、昔は主要な産業は農業だったけれども、いまはかわってきている。
また、一昔前は人口の70%が田舎に住んでいたんです。1970年代ぐらいまでは。
ところがいまはというと、人口の70%が都市部に住んでいる。
古い世代というのは伝統的で、ボリビアという国が受け継いできた文化を大切に生きてきた。
農業という大地に近いところで生活をしていた。
でも、今の若者たちは大地からは離れて新しいテクノロジーを手にして生きている。
そういった世代間の違いをこの映画には取り入れています。
主人公のビルヒニオとシサは、戦争を知っている世代です。一方、彼らの息子は独裁政権を体験している世代。そして孫は、いまどきの若者世代としています。
この世代間ということからもボリビアという国を改めて見つめなおしてみようと思いました」
(※第三回に続く)
【アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督インタビュー第一回はこちら】
<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023(第20回)>
会期:《スクリーン上映》2023年7月15日(土)~ 7月23日(日)
《オンライン配信》2023年7月22日(土)10:00 ~ 7月26日(水)23:00
会場:SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、多目的ホールほか
詳細は公式サイト:www.skipcity-dcf.jp