【詳細】なぜ「がん」で「ゲノム」を調べるのか?
■なぜ、「がん」で「ゲノム」を調べるのか?
「ゲノム」とは、DNAの遺伝情報を指す言葉である。
以前にも、「がんの多段階発がん」について述べたが
がんは、遺伝子の異常によって発生することがわかった。
原因は様々で「化学的」「物理的」「生物学的」な因子がある。
化学的なものとしては、悪性中皮腫や肺がんの原因と考えられている「アスベスト(石綿)」、物理的なものとしては、皮膚がんの原因と考えれている「紫外線」、生物学的なものとしては、肝臓がんの原因と考えられている「B型・C型肝炎ウイルス感染」や、子宮頚がんの原因として考えられている「ヒトパピローマウイルス感染」、胃がんの原因として考えられている「ピロリ菌感染」などが挙げられる。
様々な要因により、DNAがダメージを受け、異常を起こしていくのだ。
このダメージが積み重なっていき、正常だった細胞が次第にがん化していく。
そういった、異常を起こしたDNAなどが持つ情報「ゲノム」を調べ、どの部分でどのような異常が起きているのかを明らかにする。
■「異常の情報」を知る目的とは??
どの遺伝子が異常を起こしたことによって発生したがんなのか?を調べることで、効果が期待できる薬剤がわかる場合があるのだ。
例えば、「分子標的治療薬」と呼ばれる薬剤は特定の遺伝子異常(タンパク質の異常)を持った細胞を狙い撃ちする性質がある。自身のがん発生の原因が、分子標的治療薬のターゲットとなる遺伝子異常を持っていることがわかれば、この薬剤の効果が期待できる・・・ということだ。
一般的に抗がん剤とは「増えるスピードが速い細胞」を攻撃する性質を持っているため、増殖が速いがん細胞だけでなく、正常でも増殖が速い「髪の毛を生やす細胞」や「胃腸粘膜の細胞」も攻撃するため、副作用として「脱毛」や「嘔吐」として現れるのだ。
もちろん、抗がん剤はがん細胞を攻撃する効果があり、重要な役割を担っているため、国内では標準治療として治療に組み込まれている。
■がんゲノム検査を受けるタイミングは?
日本のがん治療は、すでに順番や方法が「標準治療」として確立している。標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療をいう。
がんゲノム検査は、それらの治療をおこなったうえで、効果が見られなかったり、薬剤に対する抵抗性(最初はがんが小さくなったが、徐々に効果が見られずがんが大きくなったり、他の部位にがんが転移したりする)が確認された場合に、次の治療薬剤候補を探す目的としておこなうことが推奨されているのだ。
■がんゲノム検査が受けられる施設は?
2月14日に「がんゲノム医療中核拠点病院」に指定された施設について記事を書いた。
日本では、がんゲノム解析はほぼ研究としておこなわれており、現在は臨床の現場でおこなっている施設は数か所である。どこでも誰もが簡単に実施できる検査ではなく、施設の設備や専門の医師や技術者が揃っている条件下でないと実施は困難なのだ。そのため、厚生省は国内で条件を満たしていると判断される施設に加え、地域性を考慮し、11か所を選出した。それが、がんゲノム医療中核拠点病院である。
これら11施設と連携し、がんゲノム検査を実施する施設が「がんゲノム医療連携病院」であり、これから審査・指定がおこなわれる。
■がんゲノム医療の現場より
がんゲノム検査に携わる臨床検査技師として、この道に進み、常に思うことは、一昨年に35歳の若さで亡くなった私の親友のことだ。
もし、あの頃すでに私がこの道で、がんゲノム医療に関わっていたら・・・彼女のがんゲノムを解析していれば、彼女はまだ生きていたのだろうか。
日本で、ようやく始まるがんゲノム医療。
このがんゲノム医療が、がん患者の希望となれるのだろうか。
何人のがん患者がこの恩恵を受けられるのだろうか。