「がんゲノム検査」とは何か?検査と治療の仕組みを、がん発生の仕組みから紐解く。
がん発生の仕組みとがんゲノム検査
がんは、正常の状態から段階を経て発生すると考えられている。
これを「多段階発がん」と呼び、正常細胞ががん細胞に変わっていく各段階で、複数の遺伝子の異常が関与するのだ。
がんに関わる遺伝子は、現在では20~400個が報告されている。
各遺伝子は、それぞれの役割を持っており、その機能を発揮する機構が異なる。
ある遺伝子は異常を起こすことで、細胞の増殖が加速する性質を持ち、がん化を誘導する。
またある遺伝子は本来、がんを抑制する機能を持っているが遺伝子に異常を起こすことで、そのがん抑制機能を失い、細胞ががん化していくのだ。
どの遺伝子異常が関与し発生したがんなのかは、患者によって異なるのだ。
そのため、がん化を引き起こすそれぞれの遺伝子異常に応じて治療をおこなうというのが「個別化医療」に結びつき、どの遺伝子が関与したのかの情報を網羅的に調べる検査が「がんゲノム検査」である。
がんゲノム検査
現在、国内で数か所の医療施設ががんゲノム検査を臨床の現場で実施している。
この検査では、患者のがん細胞の遺伝子を次世代シークエンサーと呼ばれる機器を用いて、遺伝子の配列を読み取っていく。
読み取った情報を基にして、がん発生の原因となっている遺伝子の異常などの情報を得るのだ。
実施してる施設によって、検索する遺伝子の種類や数、対象としている患者の条件が異なる。
そんな中、国民参加型がんゲノム医療の構築に向けて、
今、国による、がんゲノム医療を推進する動きが始まった。
がん治療の薬剤
がん細胞は増殖するスピードがはやい性質を持っているため、従来の抗がん剤は増殖するスピードがはやい細胞を攻撃する仕組みだ。
しかし、正常の細胞も髪の毛を生やす細胞や消化管の粘膜にある細胞は増殖するスピードがはやい。
そのため、抗がん剤はそういった正常の細胞も攻撃することになり、抗がん剤の副作用として脱毛や嘔吐などが起こるのだ。
一方、近年よく耳にする分子標的治療薬は、ある特定の遺伝子異常を持つがん細胞を攻撃する薬剤であるため、抗がん剤に比べると副作用が少ないといわれている。
しかし、我が国では分子標的治療薬は、がんが発生した臓器ごとに使用できる薬剤が決まっている。
遺伝子の異常による薬剤の選択ではなく、臓器別での薬剤の選択なのだ。
我が国の現状
そのため、同じ遺伝子異常が見つかったとしても、乳がん患者には使えるが、肺がん患者には使えないというのが現状だ。
もしも、この肺がん患者が投薬を希望する場合は全て自費となってしまう。
現在では、このがんゲノム検査も自費であり、数十万~百万円ほどである。
国ががんゲノム医療を推進するとともに、検査や薬剤に関する現状が少しずつ変化するのではと期待されている。
がんは遺伝する?
「親ががんに発症したので、私もきっとがんになる!」
と思っている人は多いだろう。
がん発生に関与する遺伝子には、遺伝するものと遺伝には関係ないものが存在する。
例えば大腸がんでは、大腸がん患者の25%に家族集積性(血縁者にがんが多い)があり、5%が遺伝性であるといわれている。
つまり、すべてのがんが遺伝性を持っているわけではないのだ。
遺伝するのは一部の遺伝子?
我々には2種類に分類される細胞があり生殖細胞と体細胞と呼ばれる。
体細胞とは、脳や筋肉、内臓といった体を構成し、生殖細胞とは、精子や卵子のことで、親の遺伝情報を子どもに伝える役割を持っている。
遺伝子のうち子孫に伝わるものは精子や卵子になる一部の生殖細胞の遺伝子である。
発生したがんの原因が生殖細胞の持つ遺伝子の異常であった場合に遺伝性の可能性があると考えられる。
がんゲノム検査を受けることで、遺伝性があるかどうかも、判明することがある。
遺伝性の有無は、自分自身だけのことではなく、血縁者すべてに関わる大切な情報となるため、結果の開示の有無を選択することができる。
遺伝性に関して知りたくない場合は開示希望なしとはっきり伝えればいい。
そして、開示を希望する場合は、遺伝の専門家のカウンセリングを受けることが重要である。