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麻疹Part1:現在、流行中の麻疹(はしか)とは?

柳田絵美衣臨床検査技師(ゲノム・病理細胞)、国際細胞検査士
(写真:アフロ)

●麻疹とは?●

〇麻疹ウイルス(Paramyxovirus 科 Morbillivirus属)による感染症。

〇空気感染、飛沫感染、接触感染で感染伝播する。

※空気感染:患者の咳やくしゃみから出たウイルスを含む飛沫物を吸入して感染。

〇感染力が強い

・感受性者の集団において1人の患者から2次感染を起こす平均数は、インフルエンザが1.4~4とされているのに対し、麻疹は12~18と高い。

・エアロゾルとして空中に1時間程度浮遊できる。

ウイルス検査法, 第1版 第1刷, p85 春恒社, 2018

〇不顕性感染は少なく、感染すると90%以上が顕性発症する。

※不顕性感染:病原体の感染を受けたにもかかわらず症状を発症していない状態。

※顕性感染:病原体が体内に侵入して増え、特有の病気の症状を示す。

〇発症後は免疫機能低下状態が数週間にわたって続く。免疫機能低下により結核の再燃などがみられる。咽頭や気道のリンパ組織のリンパ球、マクロファージなどに感染したウイルスは増殖し、肝臓、脾臓、肺、扁桃など全身諸臓器に広がる。血中のリンパ球減少と一過性の免疫機能低下により合併症の誘因となる。

●典型的な臨床経過は?●

・潜伏期~カタル期

ウイルス感染後、10~12日の潜伏期を経て、発熱、せき、鼻汁、眼球結膜の充血、咽頭痛などが特徴のカタル症状が現れるカタル期(前駆期ともいう)となる。このカタル期が数日続き、唾液などに大量のウイルスが排出されるこの時期が最も感染力が強い。カタル期の後半に口腔粘膜に麻疹に特徴的な粘膜疹(コプリック斑)が出現。コプリック斑は中心部に薄い青色の斑点のある白斑である。

・発疹期

熱はいったん下降するが、再び上昇し二峰性発熱を示す。この頃に耳の後ろ付近から発疹が出現し顔面、体幹、四肢へと1~2日のうちに拡大する。発疹は鮮紅色紅斑で、やや皮膚面から盛り上がり、融合傾向を示すが健常な皮膚面を残すこともある。麻疹の皮疹は赤く盛り上がる。(風疹は平坦でピンク色)

この時期は高熱が続き、カタル症状は激しくなる。合併症を併発しなければ、発疹は色素沈着を残して、次第に回復期に向かう。

●麻疹の合併症は?●

栄養状態の良い患児では一般的に予後は良いが10~20%に合併症が起こる。開発発展途上国など慢性的な低栄養状態(特にビタミンA欠乏)が原因で重篤な合併症として失明がある。先進国でも長期的な視力障害や失明の引き金になる場合がある。

〇主な合併症

肺炎、中耳炎、熱性けいれん、心筋炎、脳炎(麻疹患者の約1000~2000人に1人の発症率)などがある。脳炎を発症した場合は20~40%に後遺症を残し、致死的な経過をたどるものは10~20%といわれている。

●麻疹は特異的な治療法がない!●

麻疹は発症すると特異的な治療法がないため、致命率は先進国であっても約0.1%、途上国では20%以上にのぼることもある。特異的な治療法がないため、対処療法や合併症に対する治療となる。小児の重症例ではビタミンAの投与が推奨される。

麻疹患者との接触後6日以内に免疫グロブリン製剤を筋注することで発症を予防できる。6日以降でも症状を軽減することはできる。

麻疹治癒後、数年~約10年経過後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は極めて重篤な脳炎で予後不良である。数万~10万人に1人の頻度。

〇小児でのSSPE

初発症状は学校の成績が下がる。いつもと違う行動がみられる。運動障害が徐々に進行。筋肉などに素早い稲妻のような収縮(ミオクローヌス)を示し、その後、昏睡状態となり死に至る。

●麻疹は届出が必要な5類感染症!●

感染症法で5類感染症に区分され、診断後ただちに届出が必要。

第2種学校感染症であり、解熱後3日を経過するまで出席停止とする。

参考資料:・予防接種の手びき(2022-23年度版), 近代出版, 2022

     ・ウイルス検査法, 第1版 第1刷 春恒社, 2018

     ・コンパクト微生物学(改訂第5版), 南江堂, 2021

     ・ブラック微生物学 第3版, 丸善出版株式会社, 2014

     ・year note 2021 内科外科編, メディックスメディア, 2021

Part2:検査方法について

Part3:ワクチンについて

臨床検査技師(ゲノム・病理細胞)、国際細胞検査士

医学検査の”職人”と呼ばれる病理検査技師となり、細胞の染色技術を極める。優れた病理検査技師に与えられる”サクラ病理技術賞”の最年少、初の女性受賞者となる。バングラデシュやブータンの病院にて日本の病理技術を伝道。2016年春、大腸癌で親友を亡くしたことをきっかけに、がんゲノム医療の道に進み、クリニカルシークエンス技術の先駆者として活躍。臨床検査専門の雑誌にてエッセーを連載中。講演、執筆活動も多数。国内でも有名な臨床検査技師の一人。現在、米国にある世界トップクラスのがん専門医療施設のAI 病理ラボ研究員として奮闘中。

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