増加傾向の「梅毒」とは?その検査方法は?
■男性20代~50代、女性20代に急増!
我が国では現在も梅毒の発生が増えている。
厚生労働省から梅毒の発生状況が公開されている。
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■梅毒とは
「梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)」という病原体の感染によって起こる。この病原体はらせん状をした細菌の仲間で、感染する対象はヒトのみだ。この病原体はヒトの生体の外では長く生きていられないため、感染する方法は限定的であり、多くは性行為による感染である。そして、母子感染(母親から子への感染)もする。つまり、梅毒は先天性梅毒と後天性梅毒がある。
■先天性梅毒とは
先天性とは“生まれつき”という意味であり、生まれつき梅毒に感染しているケースがある。梅毒の母子感染の場合は「経胎盤感染」と「産道感染」があり、経胎盤感染は、①胎児が胎内にいるときに胎盤を介して胎児の血液内に病原体が侵入する場合、②分娩時に子宮の収縮により母親の血液から病原体が移行する場合がある。産道感染は、分娩時に母親の産道に存在する病原体が胎児に感染する場合である。実は、母親の症状が軽いか、もしくは無症状であっても、胎児および新生児に重篤な症状をもたらし、さらに流産を引き起こす恐れがあるのだ。生まれた時に先天性梅毒の症状がある場合、死亡率が50%だともいわれている。梅毒感染がある場合、妊娠中に梅毒の治療が必要である。
■後天性梅毒とは
性行為による感染が多く、初期段階の感染患者の皮膚や粘膜にある未治癒状態の病巣に接触することで感染する。病原体は性交時に皮膚や粘膜のごくわずかな傷から未感染者の胎内に侵入する。体内に入ると病原体はリンパ管や血管と介して全身に広がる。これにより様々な病変が形成され、成人では病期(病気の進行程度)によって症状の現れる場所や内容がことなる。性行為での感染力が最もが強い時期は、早期顕症梅毒(Ⅰ期、Ⅱ期)の時期であり、この時の患者の粘膜皮膚の病巣内には無数の病原体が存在している。
病期に応じて違う症状を起こすが、無症候(病気を持っているが症状に現れない状態)になることもある。
■典型的な自然経過
●第1期梅毒:感染後数週間(3週間程度)が経過
病原体が侵入した部位に初期硬結(やや硬いブツブツ)や硬性下疳(初期硬結の周囲が硬く盛り上がって、中心部に潰瘍ができる)が現れる。また、初期硬結の所属リンパ節が腫れる場合もある。これらは痛みがない場合が多く、約3~6週間で自然に症状が軽くなる。
●第2期梅毒:Ⅰ期の症状が現れてから4~10週間が経過
病原体が全身へ血液にのって移動するため、全身に様々な症状が現れる。梅毒に特徴的な症状である「バラ疹」が現れる。バラ疹は手、下肢、前腕、背などを中心に痛みをともなわない紅斑が現れる。その他、全身皮膚の発疹(見た目でわかる皮膚に現れる変化。吹き出物や水疱など。)や、リンパ節の腫れが起こる。発熱や倦怠感、消化器系や泌尿器系の症状が現れることがある。Ⅰ期と同様、自然に症状が軽くなる。
●第3期梅毒:未治療の場合には晩期潜伏期梅毒へと移行
感染後数年~数十年が経過すると、全身の臓器が侵され、肝臓、肺、睾丸、大動脈などのゴム腫(ゴムのような弾力があるしこりやコブ)の形成や、脊髄癆(梅毒の病原体によって脊髄の一部が変性し、歩行障害や感覚障害、排尿障害、関節が変形する)などの神経梅毒となり、致死的となることがある。
典型的な自然経過を示したが、すべての感染者がすべての病期をたどるわけではないし、違う病期の症状が起こる可能性もある。
現在では、抗菌薬の普及などにより晩期顕症梅毒は稀だといわれている。
■検査方法
梅毒の血液検査には、STS法とTP抗原法の2種類の代表的な検査がある。
〇STS法
梅毒に感染すると、体内では梅毒による炎症によって生じる脂質に対する抗体が作れられる。この抗体を検出する検査がSTS法である。
感度に優れ、比較的早期から陽性になる反面、梅毒に感染していないが同じ脂質を産生する他の疾患や状態でも検査結果が陽性(生物学的偽陽性)となるので注意が必要である。
〇TP法
梅毒病原体(Treponema pallidum)を抗原として用い、梅毒病原体に対する抗体が体内に存在しているかを検査する。梅毒の病原体に対する特異的な抗体を調べるため、生物学的偽陽性を示すことはない。
「梅毒病原体に対する抗体がすでに体内で産生された」ということは、「梅毒病原体が体内に侵入したことがある(感染したことがある)」となる。つまり、過去に梅毒陽性となれば、ほぼ生涯にわたり、この検査では陽性となる。そして、梅毒の治療が終わっても、体内にはこの抗体は存在しているので陽性となる。
■両検査を実施することが重要
STS法は、適切な治療が施されると陰性化するが、生物学的偽陽性が起こる。
TP法では、生物学的偽陽性は起こらないが、治療後でも陽性となる。
つまり、治療の効果を確認する場合にはSTS法が必要、感染したものが「梅毒なのか」特定するためにはTP法が必要となるため、両方の検査結果が必要になる。
最も重要なことは、
梅毒は検査の結果だけで自己判断するのではなく、適切な医療機関で臨床所見、問診・診察、そして補助的手段として検査結果もふくめての診断が必要になる。
梅毒は感染したまま放置すると、致死的な状態になる場合があるが、早期に適切な治療を受ければ問題はない。少しでも「違和感があるな」「いつもと何か違うな」と気づくことがあれば、早めに医療機関で受診しよう。