岸田政権は果たして「崩壊前夜」なのか、政治に対する見方が違う
フーテン老人世直し録(673)
神無月某日
米国連邦議会の「議員要覧」は、すべての議員がどの宗教を信仰しているかを明記している。カソリック教か、ユダヤ教か、プロテスタントでどの宗派に属しているか、あるいは無宗教なのか、それがすべて記載されている。
国民が選挙で投票する際、議員を目指す候補者の思想信条や信仰は重要な判断材料となる。そしてその結果、現職議員がどのような信仰を持っているかも国民に知らせる必要がある。それが民主主義政治だと米国は考えている。
ところが日本では憲法にある「信教の自由」とか「内心の自由」とかを持ち出して、政治家の信仰を問い質すことを非難する。自民党の世耕弘成参院幹事長は、19日の参議院予算委員会で立憲民主党の打越さく良議員が山際大志郎経済再生担当大臣に旧統一教会の信者であるかを質問したことを、「公人といえども内心の自由は保障されるべき」と非難した。
メディアも同様で、江戸時代にキリスト教徒を摘発するために行われた「踏み絵」の例を持ち出し、個人の信仰を問いただすのは江戸時代の「踏み絵」と同じだと批判する。個人に信仰の告白を強制してはならないと言うのだ。国民から選ばれる政治家は果たして個人なのか。
安倍元総理銃撃事件が明らかにした旧統一教会を巡る最大の問題は、安倍元総理が選挙のたびに旧統一教会票を差配し、自民党の候補者を当選させていたことを、有権者が知らされていなかったことである。それが第二次安倍政権誕生から7年以上も続いていた。
旧統一教会の支援を受けながら候補者はその事実を公表せず、そ知らぬ顔で一般の有権者の支持も取り付けていた。旧統一教会の支援を受けるのであれば堂々とそれを公表し、そのうえで一般有権者の支持を得るのが民主主義社会のやり方だ。
だが安倍元総理はそうしなかった。裏の話として処理されてきた。おそらく旧統一教会の反社会性を認識していたからではないか。だとすれば罪はますます重い。反社会性を認識していたから公表せずに票を差配し、民主主義の基本である選挙結果を誘導したのだ。
これからやるべきことは選挙に際し、候補者の思想信条信仰を国民にすべて公表させることである。そしてそれで困る候補者は立候補させないことだ。判断材料を隠蔽した選挙で選ばれた政治家がまともな政治を行うはずはない。
岸田総理は旧統一教会と自民党との絶縁宣言を行った。それを信用できないとして岸田総理を批判する向きもあるが、批判するより実行させる方が重要である。来年の統一地方選挙では、過去に接点があったかどうか、そして今後は旧統一教会と絶縁することを選挙公約に掲げさせ、それができない候補者を自民党は公認しなければよい。
もしかするとそれまでに旧統一教会に解散命令が出される可能性がある。そうなると旧統一教会は任意の団体として宗教行為を続けることになる。従って信者は存続し続け、その中には政治家がいるかもしれない。
それは信教の自由でとやかく言える話ではない。ただこれからの選挙ではそれを公表させる仕組みを作り、そのうえで当選してくるならその結果は尊重されるべきである。
ところで英国では、トラス首相が就任からわずか44日で辞任表明した。首相就任と同時に党首選で公約に掲げた大幅減税策を発表したが、金融市場がこれに拒否反応を示してポンドが急落、するとトラス首相は減税策を撤回した。権力者としてあるまじき逃げ腰を見せたことで自らの首を絞めた。
ボリス・ジョンソン前首相は首相退陣表明の時に「戻ってくるぜ、ベイビー」と、映画「ターミネーター」の中でアーノルド・シュワルツェネッガーが使った決め台詞を吐いた。だからトラス辞任は計算のうちかもしれない。おそらく再登板に野心を燃やしている。
しかし英国ではここにきて野党の支持率が急上昇している。そこに英国は民主主義国家だと思わせる所以がある。国民は政治が混乱したら国民に選択させろと考えるのだ。それが日本にはない。
岸田政権の政権運営をメディアは横並びで批判するが、誰も政権交代が起こるとは考えていない。所詮はコップの中の嵐で、日本には野党が存在しないも同然だ。それが民主主義国家を標榜する日本の姿である。
それにしてもこのところのメディアの岸田批判は凄まじい。「岸田政権は崩壊前夜」とする見方がしきりに流れる。安倍元総理の国葬と旧統一教会問題で支持率が急落し、10月7日から10日に行われた時事通信の調査では30%を割り込み27%にまで落ち込んだ。菅内閣末期の最低29%より下回ったから「崩壊前夜」と報道される。
それに加えて物価高対策がまだ見えていない。それに何と言っても旧統一教会問題で解散命令の請求には慎重姿勢を示していたのが一転し、突然、宗教法人法に基づく「質問権」を使った実態調査に言及、それでも解散命令の要件として「民法の不法行為は含まれない」としていたのを一夜にして撤回し、解散命令のハードルを下げ、その迷走ぶりに疑問を持たれた。
さらに支持率急落の最中に長男を総理秘書官に任命し、これも「公私混同」と批判の集中砲火を浴びた。そして自民党内からも「瀬戸際大臣」と呼ばれる山際大志郎経済再生担当大臣と旧統一教会との関係に接触の新事実が次々に明らかとなり、それらを総合すると岸田政権は末期症状で短命に終わると考えられている。
しかしフーテンには別の見方がある。岸田政権は自民党内第4派閥の弱小政権である。そのため政権を存続させるには手練手管が必要だ。最大派閥を擁した安倍元総理のように自分の思い通りのことは最初から無理だ。もし安倍元総理が凶弾に倒れることがなければ、今頃は安倍元総理との間で壮絶な権力闘争が繰り拡げられていたと思う。
安倍元総理の狙いは岸田政権の外交・防衛分野を自分の支配下に置く事だった。なぜなら外交・防衛分野で安倍元総理と岸田総理は水と油の関係だからだ。岸田総理は安倍政権下で外務大臣を5年半務めたが、それは岸田総理が「宏池会」というハト派の派閥リーダーだったからだ。
この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2022年10月
税込550円(記事5本)
2022年10月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。