SLが来なくなった山間の乗換駅 大井川鐡道本線・井川線 千頭駅(静岡県榛原郡川根本町)
SL列車やアプト式鉄道で知られる静岡県の大井川鐡道。金谷~千頭間の本線と千頭~井川間の井川線の二つの路線から成り、金谷から井川方面へ向かおうとすると千頭駅で乗換となる。二つの路線の乗換駅である千頭駅はSL列車の終点だが、令和4(2022)年9月24日の台風15号による土砂災害の影響で本線の列車が来ない状況が続いている。
本線の終点かつ井川線の始発駅である千頭駅は大井川鐡道でも屈指の大きな駅で、駅舎も一部二階建ての立派なものだ。この駅舎は平成4(1992)年7月30日に建てられたものである。SL資料館が併設され、駅舎内には土産物屋や立ち食いうどん店もあるが、筆者が訪問した時間帯には閉まっていた。
入場券を買ってホームに入ってみよう。改札口の目の前にある本線ホームは2面4線。ターミナル駅などでよく見られる頭端式で、線路の数も相俟って大きな駅らしい風格が感じられるが、一年以上列車が来ていないためレールは錆びついている。
構内には本線で運用されている21000系(21003+21004)がポツンと鎮座していた。昭和33(1958)年に製造された御年65歳の電車で、大阪と高野山を結ぶ南海高野線の特急・急行として使われていた。大井川で走りはじめたのは平成9(1997)年8月8日のことで、既にこの地で四半世紀を過ごしている。令和4(2022)年9月24日の台風で本線が運休となってからは、本線の車両基地がある新金谷に帰れず放置状態だ。古い車両であるし、普通列車の減便が行われていることも考えると、たとえ本線が全線復旧しても現役復帰は難しいだろう。
本線ホームと井川線ホームの間には、『きかんしゃトーマス』に登場するパーシー、ヒロ、ジェームズを再現した車両が置かれている。休日には「トーマスフェア千頭駅サテライト会場」として使用されているが、本線が寸断されている現状では集客力を十全には発揮できていないだろう。
井川線ホームは1面1線。路面電車のような低いホームなので、レールが近く迫力が感じられる。ホームの前には井川線の車両基地があり、トロッコのような小さな客車が並んでいる。井川線は発電所の専用鉄道として建設された路線で、軌間762ミリメートルの軽便鉄道として建設された時のトンネルなどを使い続けていることから、JRや本線と同じ1067ミリメートル軌間ながら車両が小さい。
本線が運休しているため、時刻表は本線の部分が白紙で覆われてしまっている。井川線の列車も始発が9時25分、終電が14時40分というすさまじいダイヤなので、本線の運休以来、千頭駅には9時台から14時台までしか列車がやってこない。本線のうち運転を再開している金谷~川根温泉笹間渡間も減便で使い物にならないダイヤになっていることを考えると、たとえ全線復旧したとしても列車の本数は災害前に戻らないのではないかと思える。また、地元の川根本町は復旧支援にあまり積極的ではないが、平成26(2014)年2月に地元自治体への協議なしに減便して地元の顰蹙を買った大井川鐡道の前歴を考えると、川根本町の姿勢もむべなるかなという感じがする。千頭駅の未来はお世辞にも明るいものとは言えなさそうだ。
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