「科学系候補」当選は7人〜米中間選挙は科学政策を変えるか?
19人中7人当選
去る11月6日に行われたアメリカ議会の中間選挙の結果が明らかになった。非改選議席とあわせ上院は共和党過半数、下院は民主党過半数という「ねじれ」を生み出したこの選挙だが、科学界では、主に民主党から立候補した科学、技術、医療のバックグラウンドを持つ候補者(科学系候補と呼ぶことにする)19人のうち何人が当選するかが話題となっていた。
結果的に7人前後が下院議員に当選した模様だ(Natureの報道では11人)。
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当選者としては以下の方々の名前が挙がっている。全員民主党だ。
- Joe Cunningham氏(36歳)Juris Doctor(法務博士)、新人:サウスカロライナ州第一選挙区 :海洋エンジニアから環境専門弁護士に。
- Elaine Luria氏(43歳)修士、新人:バージニア州第二選挙区:海軍出身。核エンジニア。
- Chrissy Houlahan氏(50歳)修士、新人:ペンシルバニア州第六選挙区:エンジニア出身。
- Jeff van Drew氏(65歳)歯科医師、現職:ニュージャージー州第2選挙区:2008年から議員。
- Lauren Underwood氏(32歳)修士(看護師)、新人:イリノイ州第十四選挙区。サイエンスインサイダーの記事。
- Sean Casten氏(46歳)修士、新人:イリノイ州第六選挙区:化学エンジニア。
- Kim Schrier氏(50歳)医師(小児科医)、新人:ワシントン州第八選挙区。
残念ながら現役研究者の候補の当選はなかったようだ。
以下では、サイエンス誌の特設ページ、THE ‘POLITICAL’ SCIENTISTSやThe science vote 2018ほか報道から、当選に至る経過をたどってみよう。
150人からスタート
科学者が議員を目指すキッカケになったのは、言わずと知れたトランプ政権の誕生だ。
政権の当初から、気候変動を否定し、科学予算を大幅に削減しようとするなど、科学を軽視、無視する政策は科学者に危機感を与えた。
これに危機感を覚えた博士号取得者や科学研究の経験のある人たちなどが議会を目指した。最初は150人もいたという。
しかし、資金不足の問題や、党の予備選などで脱落していき、19人が下院の党の候補者になった。そして、11月6日、少なくとも7人が当選した。
7人当選の評価
当たり前ではあるが、科学の重要性を訴えるだけでは候補者にはなれないし、選挙にも勝てない。多くの科学系候補が脱落するなか、7人当選をどう評価すべきか。
314アクションのShaughnessy Naughton代表は、選挙後のNatureの取材に対し「我々の予想を超えている」と語っている。
7人の議員だけではトランプ政権に対抗できるとは思わないが、科学者が政治を考える一つのきっかけとして、大きな出来事だという位置付けだ。
日本への示唆
当選者はわずかとはいえ、現役研究者を含めた多数の人たちが議会を目指したアメリカ中間選挙。こうした動きは日本でも起きるだろうか。
アメリカでも日本でも、科学のバックグラウンドを持つというだけでは候補になれないし当選はできない。日本の国会にも博士号を持った議員が少数いるが、科学を売りにしているわけではない。
とはいえ、日本の「研究力」が低下していると言われる現在、科学研究に理解のある国会議員がいてほしいという思いを抱く科学者は多いだろう。
財務省の財政制度分科会が、日本の大学に対し手厳しく(かつ的外れ)批判をしたことは記憶に新しいが、行政や政治の世界にもっと科学のことを理解する人を増やしたいという気持ちは、科学者のなかに高まっているように思う。
ならば行動しなければならない。
科学者自らが候補になるのも一つの手だが、むしろ参考にすべきは、上に出てきた314アクションやボートSTEMといったアドボカシー団体だろう。
候補者に質問をぶつけ、科学に理解のある候補を応援し、資金援助等も行う。こうした草の根的な動きから、政治を変えていく。
残念ながら、日本では科学政策などに意見を言う人や団体が限られている。適切な批判や政策のチェックがなければ、政策は言いたい放題、やりたい放題になってしまう。
科学は大事です、と多くの人がいう。しかし、各論にあたる部分では、どの分野の予算を増やすか、人材を増やすかといったところにさまざまな意見がある。科学は大事、基礎研究は大事という言葉のなかに、自分の分野の予算を増やしてほしいという思いが込められてしまうこともある。また、科学予算を増やしたら、どこかの予算を減らす必要がある。そうした生々しい政治があるのだ。
だからこそ、外からチェックしていかないといけないのだ。
アメリカの動きを対岸の火事と見るのではなく、自分ならどうするかを考えて行動していく科学者や市民が増えることを願う。また私も、選挙における政策比較などを続けていきたいと思う。