選挙前の検察捜査を「選挙妨害」と叫ぶトランプと日本の民主主義
フーテン老人世直し録(707)
文月某日
米国のトランプ前大統領は18日、自身が2021年1月6日の連邦議会襲撃事件の捜査対象になっていると独立検察官から通知があったことを明らかにし、「これはほぼ逮捕と起訴を意味する」とSNSに投稿した。
トランプはすでに元ポルノ女優に「口止め料」を支払った件でニューヨーク州の検察から起訴され、次に退任後に機密文書を自宅に保管していた件でも独立検察官から起訴され、今回の連邦議会襲撃事件で起訴されれば起訴は3度目となる。
検察から3度も起訴された政治家が大統領選挙に立候補するなどとんでもないと一般の人は考える。「タテマエ」でしか物を言わないメディアが、正義の味方の顔をしてそのように報道するからだ。
これに対してトランプは「起訴はバイデン大統領が大統領選挙での対抗馬を弱体化させる政治的動機による米国史上最も恐ろしい権力乱用で選挙妨害だ」と反発している。そして共和党員の80%も起訴は政治的動機に基づくものだと考えている。
だから共和党大統領候補に名乗りを上げているライバルたちはトランプに対する起訴を批判せざるを得ない。なぜなら最初の起訴でも2度目の起訴でも、共和党員のトランプ支持率は上昇、また献金額も急増してライバルとの差を広げたからだ。
この現象を見て共和党員を頭のおかしな人たちだと考えてはならない。むしろ捜査機関を政治権力から独立した存在とする「タテマエ」に騙されず、率直におかしなことをおかしいと考えているように思える。
例えば機密文書を自宅に保管していたのはトランプだけではない。バイデンの自宅からも機密文書は発見された。しかしそちらは率先して事実を認めたという理由で訴追されない。またヒラリー・クリントンが国務長官時代に国家機密を個人メールのサーバーに保管していた件もFBIは訴追しなかった。重大な規則違反であるにもかかわらずだ。
つまり独立検察官やFBIの捜査はダブルスタンダードで、民主党に甘く、共和党に厳しい。そう見られてもおかしくない典型は、トランプ政権誕生直後に起きた「ロシアゲート」事件である。
「ロシアゲート」とは、2016年の大統領選挙で民主党のヒラリー・クリントン候補の選挙を妨害するため、トランプ陣営がロシアのプーチン政権と共謀してサイバー攻撃などの妨害工作を行ったというものだ。
情報のネタ元は英国の諜報機関MI6に所属していたクリストファー・スティールという元英国人スパイである。そのスティールが書いた報告書でトランプは、モスクワのホテルで売春婦とおぞましい行為をしているところを、ロシアの諜報機関に盗撮され、弱みを握られたと書かれていた。
スティールは、ネオコンの中心人物でバイデン政権の国務次官であるヴィクトリア・ヌーランドと、2014年から一緒に仕事をしていると言われている。2014年はウクライナの親露派政権が打倒された「マイダン革命」の年で、このクーデターを裏で操ったのはヌーランドである。
これにプーチンは反撃しクリミア半島を武力制圧した。それに対抗してヌーランドは米国と英国の軍事顧問団をウクライナに送り込み、ウクライナ軍を訓練するとともに武器を提供してクリミア奪還を目指すよう仕向けた。そして悪名高いアゾフ大隊に親露派住民を襲撃させた。
それが現在のウクライナ戦争につながったのである。選挙前からトランプは「プーチンとはうまくやれる」、「NATOは必要ない」と公言していたから、ネオコンの影響下にあるクリントン陣営は、トランプ潰しのシナリオをスティールに書かせた可能性がある。
結局、「ロシアゲート」はモラー独立検察官が3年がかりで捜査したが、トランプとプーチンの関与を証明することはできなかった。しかしその間にトランプ支持者の中に独立検察官やFBIが共和党を敵視しているという印象が刻み込まれた。
ロッキード事件で検察捜査を取材した経験を持つフーテンは、大統領選挙を前にしたこの時期に、3つも続けざまに起訴が行われるとすれば、裏には選挙を意識したバイデン政権の思惑があると考える。フーテンの経験では検察ほど政治的に動く組織はないからだ。
2009年に自民党から民主党に政権交代する直前、東京地検特捜部は小沢一郎民主党代表の秘書を逮捕し、小沢を代表の座から引きずりおろした。それによって民主党政権は短命に終わり、今や政権交代は遠い世界の話になった。
2007年に第一次安倍政権が参議院選挙で大敗し、衆参「ねじれ」が生じて自民党の政権運営が行き詰まった時、福田康夫総理と小沢民主党代表との間で大連立が話し合われた。本人は否定するが、大連立を持ちかけたのは小沢である。それは本格的な政権交代を可能にするための方策だった。
55年体制の自民党と社会党は政策の軸がいずれも「大きな政府」であり、自民党は公共事業、社会党は福祉に力を入れた。93年に小沢が書いた『日本改造計画』は日本で初めて新自由主義の「小さな政府」を紹介し、米国のように「大きな政府」と「小さな政府」を政権交代の軸にすることを提唱した。
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