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シリアでトルコへの批判を強める米国(有志連合)、トルコのためにデモを弾圧するロシア

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

8月14日のイスラエル軍戦闘機によるシリアのタルトゥース県とダマスカス郊外県へのミサイル攻撃以降、にわかに激しさを増している攻撃の応酬は収まる気配はない。

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シリアの勢力図(筆者作成)
シリアの勢力図(筆者作成)

無辜の市民を狙うトルコ軍

トルコ軍は8月18日、ハサカ県ハサカ市とタッル・タムル町を結ぶ街道沿線のシャンムーカ村にある女児教育センターを無人航空機(ドローン)で攻撃し、女性職員4人を殺害、多数を負傷させた。

女児教育センターは国連の意識向上プログラムの一環として運営されている施設で、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局の管理下にあった。

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団は当初、ドローン攻撃が、PYDの民兵組織である人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍によって拠点として転用されていたタッル・タムル町近郊のアッブーシュ村にあるスポンジ工場を標的とし、PYDに近い革命青年連合によって徴兵され、強制的に従軍することを余儀なくされていた少女4人が死亡、11人が負傷したと発表していた。

しかし、北・東シリア自治局が明らかにしたところによると、殺害された4人、ラーニヤー・アターさん、ズーザーン・ザイダーンさん、ディーラーン・イッズッディーンさん、ディヤーナー・アルウさんは、「テロ」や「児童徴兵」とは無縁の無辜の市民だった。

ANHA、2022年8月19日
ANHA、2022年8月19日

ANHA、2022年8月19日
ANHA、2022年8月19日

ANHA、2022年8月19日
ANHA、2022年8月19日

ANHA、2022年8月19日
ANHA、2022年8月19日

有志連合がトルコを非難

この攻撃に関して、米主導の有志連合は19日に異例の非難声明を出した。声明の内容は以下の通りである。

8月18日晩、武装した無人航空機システムが、ハサカ県で国連の教育支援プログラムに参加し、バレーボールをしていた10代の少女たちを攻撃した。初期報告によると、攻撃によって、4人が死亡し、数人が負傷した。有志連合を代表して、私(広報)はこの攻撃、そして民間人を殺害し、負傷させるその他の攻撃を非難する。 こうした行為は、民間人の保護を必要とする武力紛争の法律に反している。亡くなられた方々にはお悔やみを申し上げるとともに、負傷された方々には心よりお見舞いを申し上げる。

シリア北部での軍事的敵対行為の増加は、ISIS(イスラーム国)の脅威が存在する脆弱な地域に混乱を引き起こしている。我々は、すべての関係者に即時の緊張緩和と、有志連合がISISとの戦いで獲得した重要な戦果を危険に晒す活動の停止を求める。

米軍(有志連合)はまた19日、タッル・タムル町南東に位置するカスラク村の基地に駐留する部隊が、トルコ占領下のハサカ県北西部近くで、実弾を用いた異例の軍事演習を行った。この演習には戦闘機複数機も参加し、トルコ軍を暗に威嚇した。

米国は、イスラーム国に対する「テロとの戦い」を口実に、シリア領内各所に違法に基地を設置し、部隊を駐留させている。この違法駐留によって、「テロとの戦い」の協力部隊と位置づけられているシリア民主軍、そしてそれを主導するPYDは軍事的後ろ盾を得ており、そのことがトルコの安全保障を脅かしているのが現状だ。有志連合の非難声明は、シリア駐留という利権を脅かそうとするトルコの軍事圧力への非難としての性格が強い。

「イランの民兵」との報復の押収

米国は、NATOにおける同盟国であるトルコに実力を行使することはない。だが、8月18日には、シリア国内で活動する「イランの民兵」に対して攻撃を行った。

反体制系メディアのアイン・フラートなどによると、有志連合所属と思われるドローン2機が、シリア政府の支配下にあるダイル・ザウル県ブーカマール市近郊の砂漠地帯に設置されている「イランの民兵」の拠点を爆撃した。爆撃は、午前6時頃、アシャーラ市近郊の砂漠地帯、ブーカマール市近郊の砂漠地帯(ハムダーン村一帯)にあるイラン・イスラーム革命防衛隊の拠点複数カ所、イラク国境に面するイマーム・アリー基地近く(ハスヤーン油田一帯)の拠点複数カ所を標的とし、6発のミサイルが発射されたという。

このドローン攻撃は、8月15日にシリア最大の油田であるダイル・ザウル県のウマル油田に米軍が設置している基地(グリーン・ヴィレッジ)に対して行われた攻撃への報復と見られる。

そして、この攻撃に対しても、8月22日、所属不明のドローン1機が報復を試みるかのようにヒムス県のタンフ国境通行所に設置されている米軍の基地上空に飛来している。このドローンは、基地に駐留する地上部隊によって撃破され、事なきを得ている。

シリア軍による報復砲撃、沈黙する米国

シリア軍も大規模な砲撃を敢行した。8月19日には、トルコの占領下にあるアレッポ県バーブ市に対して多連装ロケット砲で攻撃を加えたのである。

シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握るシリア北西部のいわゆる「解放区」やトルコ占領地で活動する反体制組織のホワイト・ヘルメットによると、この攻撃で、子供5人を含む15人が死亡、子供11人を含む30人以上が負傷した。

攻撃は、17日にトルコ軍の有人戦闘機がアレッポ県アイン・アラブ(コバネ)市西の国境に近いジャールカリー村一帯を爆撃し、シリア軍兵士多数が死傷したことへの報復と見られた。

トルコの占領地や「解放区」では抗議デモが行われ、シリア軍の蛮行が非難された。だが、シリア内戦を通じて、シリア政府(そしてロシア、イラン)の非人道性を指弾してきた米国や西欧諸国の政府が声をあげることはなかった。

折しも爆撃は、ダマスカス郊外県グータ地方での化学兵器使用事件(2013年8月21日)から9年が経とうとしているなかで発生したが、同盟国トルコのドローン攻撃を非難する欧米諸国には、シリア政府がシリア国民に対して何を行おうともはや関心がないかのように感じられた。

動くロシア

この間、シリア国内で力を行使していなかったロシアも8月22日についに動いた。

ロシア軍戦闘機複数機が「解放区」の中心都市であるイドリブ市西のアラブ・サイード村近郊にあるイドリブ中央刑務所一帯に対して14回(あるいは13回)の爆撃を実施したのだ。

爆撃は同地にあるシャーム解放機構などの教練キャンプや軍事拠点跡を狙ったものと見られ、若干の火事が発生したが、死傷者はなかった。

ロシア軍戦闘機が「解放区」に対して爆撃を実施するのは8月1日以来、3週間ぶりだった。

それだけでなく、ロシア軍は住民に向けて催涙弾や実弾を発砲する異例の行為に及んだ。

北・東シリア自治局に近いニュース・サイトのノース・プレスによると、ロシア軍とトルコ軍は22日、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるアレッポ県のアイン・アラブ(コバネ)市東に位置するカルムーグ村、ジャイシャーン村、下ハラービーサーン村、バグディーク村から、トルコの占領下にあるラッカ県タッル・アブヤド市西のハーナ村に至る国境地帯で、109回目となる合同パトロールを実施した。

合同パトロールは2019年10月のトルコの軍事侵攻(「平和の泉」作戦)の停戦を定めたロシア・トルコ間の合意に基づくもので、ロシア軍とトルコ軍からそれぞれ4輌の装甲車が参加、ロシア軍ヘリコプター2機が護衛にあたった。

だが、アイン・アラブ市の東約20キロに位置するハッラーブ・ナース村(カラ・ムーフ村)で、トルコ軍の駐留に反対する住民らの抗議デモに直面、ロシア軍のヘリコプターが、女性や子どもを含む参加者らに向けて催涙弾や実弾を発射し、強制排除したのである。

抗議デモを行ったのは、PYDの支持者だと思われ、彼らは8月に入ってからハサカ県のカーミシュリー市やアームーダー市で、ロシアにトルコ軍の攻撃を停止させるよう求めるデモも繰り返してきた。

ロシアとトルコは、シリア北東部における米国の影響力を排除するため連携を強めており、最近では、PYDを挟撃するために、シリア政府とトルコの関係改善すら模索されている。

トルコに反対する住民をトルコではなく、ロシアが弾圧するという奇妙さに、シリアをめぐる諸外国の均衡再編の兆しを感じ取ることができる。

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東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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