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首都ダマスカスを制圧した反体制派とトルコが支援する反体制派が米国を後ろ盾とする反体制派支配地を掌握

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

「シリアのアル=カーイダ」として知られる国際テロ組織のシャーム解放機構を主体とする「攻撃抑止」軍事作戦局が首都ダマスカスを制圧し、バッシャール・アサド政権が崩壊してから、5日目を迎えた。

シリア国内では、首都制圧を追い風として、「攻撃抑止」軍事作戦局が支配地を拡大した。

「攻撃抑止」軍事作戦局がダイル・ザウル市を制圧

「攻撃抑止」軍事作戦局は12月11日、テレグラムに開設した専用のアカウントを通じて、シリア東部にあるダイル・ザウル県の県庁所在地であるダイル・ザウル市、同地近郊のダイル・ザウル国際空港を制圧したと発表、同県内の町村への進軍を継続すると発表した。シャーム解放機構の指導者アブー・ムハンマド・ジャウラーニー(実名アフマド・シャルア(シャラ、アッツシャラ))も同日、以下の通りメッセージを発表、ダイル・ザウル市制圧を祝福した。

我々は、数年におよぶ忍耐と移住を経て、ダイル・ザウルにおける彼らのくにが解放されたことを祝福する。

Telegram、2024年12月12日
Telegram、2024年12月12日

ジャウラーニーは、これと併せて、以下のメッセージを発信し、逮捕者の拷問に関与したシリア軍・政府高官を追い詰めると表明、多数のシリア軍将兵や民兵が逃げ込んだイラクをけん制した。

逮捕者への拷問に関与し、粛清した者たちを我々は赦さない。これを理由として、我々は彼らを我々のくにで追跡するだろう。また、これらの犯罪者たちが逃げ込んだ国々に対し、彼らを引き渡すよう要求し、公正を実現するつもりである。

Telegram、2024年12月12日
Telegram、2024年12月12日

アラブ人部族からなる各軍事評議会の離反と合流

ダイル・ザウル市一帯の掌握は、同地で発生した不和を受けたものだ。ダイル・ザウル市では、アサド政権の崩壊と前後して、米国の支援を受け、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導するシリア民主軍が、シリア政府の支配下にあったユーフラテス川西岸各所、そして「7ヵ月」として知られる東岸地域に展開していた。

だが、12月9日、ダイル・ザウル市で「攻撃抑止」軍事作戦の支配を求める抗議デモが発生した。シリア民主軍はデモの強制排除を試み、参加者に向けて発砲、これに対して地元の武装集団がシリア民主軍に向けて発砲、撃ち合いとなり、住民ら20人が巻き添えとなり負傷した。

こうしたなか、12月10日から11日にかけて、シリア民主軍の参加で活動していたハジーン軍事評議会、ブサイラ軍事評議会、カスラ軍事評議会、さらにはダイル・ザウル軍事評議会部隊の一つで米軍(有志連合)が駐留するCONOCOガス田一帯を守備するCONOCO旅団の司令官が離反を宣言、「攻撃抑止」軍事作戦局に合流した。

事態を受けて、シリア民主軍はダイル・ザウル市および周辺に設置していたすべての陣地から撤退し、「7ヵ村」に再集結、これを受けて「攻撃抑止」軍事作戦局がダイル・ザウル市やダイル・ザウル航空基地の制圧を発表するかたちとなった。

シリア民主軍を離反した各軍事評議会は、アラブ人部族(シュアイタート部族)によって構成されているが、かねてからクルド民族主義者が主導するシリア民主軍のなかで疎外されていると感じており、たびたび対立、衝突を繰り返してきた。これまでは米国が両者を仲介するかたちで事態は収拾していたが、今回、米国による強い働きかけはなかったと見られる。

イスラエル軍がダイル・ザウル市一帯を爆撃

なお、「攻撃抑止」軍事作戦局の東進と並行して、イスラエル軍はダイル・ザウル市ジャウラ地区の前衛キャンプ、ダイル・ザウル航空基地、県内各所の貯蔵施設数ヵ所への爆撃を行った。

英国で活動するシリア人権監視団によると、12月8日以降のイスラエル軍によるシリア領内各所への爆撃は352回に達している。攻撃は反体制派の手にシリア軍の兵器が渡らないようにすることが目的とされる。ダイル・ザウル航空基地などへの攻撃は、「攻撃抑止」軍事作戦局の勢力拡大に合わせて(ないしはそれに先んじて)行われていると見ることができる。

トルコとTFSAがアレッポ県のユーフラテス川西岸を掌握:米国の仲介

シリア領内で攻撃を行っている国は、イスラエルだけではない。「自由の暁」作戦と銘打ってユーフラテス川西岸を支配しているシリア民主軍への攻勢を強めているシリア国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army)を支援するトルコ軍もハサカ県、ラッカ県、アレッポ県北部の各所を無人航空機で攻撃、また砲撃を加えている。

シリア国民軍は12月8日、ユーフラテス川西岸におけるシリア民主軍の最大拠点であるマンビジュ市(アレッポ県)を制圧したと発表した。

Telegram、2024年12月8日
Telegram、2024年12月8日

同地では、シリア民主軍に所属するアラブ人部隊のマンビジュ軍事評議会、バーブ軍事評議会が抵抗を続けた。だが、12月11日、シリア民主軍のマズルーム・アブディー司令官は、Xの公式アカウントを通じて以下の通り発表、米国の仲介によって、マンビジュ市の処遇についてシリア国民軍と停戦合意を交わしたことを明らかにした。

マンビジ市で我らが戦闘員の抵抗がユーフラテス川西側からの攻撃拡大を阻止し続けているなか、民間人の安全と安全を守るため、米国の仲介によりマンビジュにおいて停戦合意に達した。11月27日以来攻撃に抵抗してきたマンビジ軍事評議会の戦闘員は、できるだけ早くその地域から撤退する予定だ。我々の目標は、シリア全土で停戦し、国の将来のための政治プロセスに入ることだ。

シリア民主軍の撤退によって、トルコはユーフラテス川西岸からクルド民族主義勢力を事実上一掃し、国境地帯の安全保障を確保するという目標に向かって大きく前進した。米国はこうしたトルコの動きに長らく難色を示し、トルコとシリア国民軍の勢力拡大を抑止しようとする姿勢をとってきた。だが、今回はこうした動きに抗うことはなかった。

アブディー司令官は、ハダス・チャンネルの取材に対して、米国を介して「攻撃抑止」軍事作戦局との連絡を維持したいとの意向を示している。

シリア東部、そしてシリア北東部で、「攻撃抑止」軍事作戦局、シリア国民軍とシリア民主軍の衝突の可能性が否定し得ないなか、これらの勢力がどのようにシリアでの新政権樹立にどのように関与するかが注目される。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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