金正恩に「オンボロ戦闘機」を押し付けるプーチンの裏切り
米メディアの報道によると、サミュエル・パパロ米インド太平洋軍司令官は12月7日、レーガン国家防衛フォーラムの席上、北朝鮮がロシアからMIG-29戦闘機とSU-27戦闘機を取得する予定だと述べた。
ウクライナ侵略を進めるロシアに対し、北朝鮮は大量の武器弾薬を供給しているばかりか、11000人以上とも言われる兵力を送っている。最近では、そのうちの相当数がロシア領クルスクを占領するウクライナ軍との戦闘に突撃兵力として投入されたと伝えられている。
(参考記事:【写真】敵よりロシア軍を「火の海」にする北朝鮮のトンデモ兵器)
こうした協力への見返りとして、北朝鮮がロシアから様々な形の軍事協力を受ける可能性が以前から指摘されていた。特に、北朝鮮は老朽化の著しい空軍力を、ロシアの協力で抜本的に改善するとの見方が根強くある。
そこでいよいよ出てきたのがMIG-29とSU-27の供与説なのだ。しかし、これが北朝鮮空軍の強化につながるかと言えば、非常に微妙だ。
韓国の軍事アナリストであるイ・イル自主国防ネットワーク事務局長は米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)とのインタビューで、次のように語っている。
「ロシア空軍が保有しているMIG-29は1980年代後半から1990年代初めに生産されたMIG-29Sで、北朝鮮が現在運用中のモデルと同じです。ロシアが保有しているMIG-29のうち30機余りが新たに生産された新型モデルで、残りの200機余りは全て旧型ですが。2009年と2010年にその半分の100機余りが長期の放置状態で腐食が激しく、稼働不能という検閲結果が発表されたりもしました。つまり、北朝鮮が受け取れるMIG-29は空軍力の現代化が不可能な、スクラップ級の装備だということです」
「Su-27はさらに深刻です。 現在、ロシア軍が保有しているSu-27はすべて1991年以前の生産分です。これらの一部は2004年からSu-27SMという仕様に改良され、最近はSu-27SM3という追加の改良作業が進行中です。ロシアが北朝鮮にSu-27を与えるなら、改良していない機体を与えるか、初期改良型を引き渡すことになるでしょう。しかし、この戦闘機はロシア本土防空の主力であり、ロシア本土は今もウクライナ軍のドローンに対する対応作戦で戦闘機が非常に不足している状況。Su-27を与えるとしても、ごく少数になる可能性が高いのです」
付け加えて言えば、北朝鮮空軍の劣化の原因は航空機の老朽化だけが原因ではない。燃料不足によってろくに飛行訓練もできず、それに伴って整備技術の減退が進んだという、組織の構造的な問題があるのだ。
そんなところに、仮にロシアがより新型の機種を供与したとしても、宝の持ち腐れになるのが関の山だ。乗り物好きで知られる金正恩総書記は、最新鋭のSU-57やSU-35を望んでいたとされるが、今回はプーチン大統領の「裏切り」がむしろ幸いとなる可能性もある。
(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路)
イ・イル氏はRFAに対し、ロシアが今後、新型戦闘機の生産力増強に従って北朝鮮に供与する機種も更新される可能性を指摘している。もちろん、そういった可能性は残る。しかしロシアが北朝鮮の防空力の向上に真摯に協力するなら、「戦闘機はやめて、対空ミサイルにしておけ」と説得するのではないだろうか。