シリアで中国ウィグル系のトルキスタン・イスラーム党が火力発電所を破壊、M4高速道路以南放棄の前兆か?
トルキスタン・イスラーム党が火力発電所冷却塔を爆破
シリア北西部でのシリア・ロシア軍とトルコ軍・反体制派の戦闘停止を定めた停戦合意が発効(3月5日)してから62日目となる5月6日、トルキスタン・イスラーム党がイドリブ県ジスル・シュグール市南のザイズーン火力発電所の冷却塔を爆破、これを倒壊させた。
トルキスタン・イスラーム党は中国の新疆ウィグル自治区出身者を中心に構成される武装集団。正式名を「シャームの民救済(ヌスラ)トルキスタン・イスラーム党」と言い、「シャームのくにのイスラーム党」を名乗ることもある。
国連安保理においてシリアのアル=カーイダに指定されているシャームの民のヌスラ戦線(2017年1月にシャーム解放機構に改称)のアブー・リヤーフを名乗るメンバーの支援を受けて、ウィグル系戦闘員が2013年末頃にトルコ領内に拠点を設置し、戦闘員の募集や教練を開始した。
2014年半ば頃からイドリブ市一帯地域を中心に活動を本格化させ、同年末にアブドゥルハック・トゥルキスターニーを指導者(アミール)として正式に結成を宣言した。2016年時点で戦闘員7,000人を擁していたとされる。アル=カーイダとつながりがある組織である。
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ザイズーン火力発電所は、2015年3月にイドリブ県全域がヌスラ戦線とシャーム自由人イスラーム運動が主導する武装連合体のファトフ軍によって制圧されて以降、ヌスラ戦線とトルキスタン・イスラーム党によって分割管理されてきた。
なお、ファトフ軍を主導していたシャーム自由人イスラーム運動もアル=カーイダの系譜を汲む組織。現在はトルコの後援する国民解放戦線(国民軍所属)に参加している。この国民解放戦線は、ヌスラ戦線から改称したシャーム解放機構などとともに「決戦」作戦司令室を設置、シリア北西部でシリア・ロシア軍に対峙している。
トルキスタン・イスラーム党とシャーム解放機構は、発電所の設備や備品、燃料などを数年間にわたって持ち出しては、イドリブ県の廃品業者に売却していたという。
爆破に先立って、両組織はすべての物資の持ち出しを終えていたという。
ロシア・トルコ軍が合同パトロール対象地を拡大
トルキスタン・イスラーム党によるザイズーン火力発電所冷却塔の破壊は、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路の南側に位置する発電所一帯を放棄する動きとも見て取れる。
3月5日にロシアのヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が交わした停戦合意においては、M4高速道路を再開するために、トルコ軍が道路南北それぞれ6キロの幅の「安全回廊」地帯を設置し、その南側から反体制派を排除する一方、両国軍が沿線で合同パトロールを実施することが定められていた(「停戦合意を受けシリアのイドリブ県での爆撃は停止したが、トルコ占領下のラッカ県でトルコ軍兵士3人が爆殺」を参照)。
この合意を履行するかたちで、トルコは4月26日、ナイラブ村近郊のM4高速道路上で、シャーム解放機構の支援を受けて「尊厳の座り込み」デモを続け、合同パトロールに抗議していた市民や戦闘員を強制排除していた(「トルコは「聞き分けのない」シリア反体制派への締め付けを強める」を参照)。
また、ロシア・トルコ軍は5月5日、タルナバ村・ナイラブ村間に限定されていた合同パトロールの区間をアリーハー市近郊にまで拡大した。
こうした動きのなかで、長年にわたりトルコから陰に陽に支援を受けてきたトルキスタン・イスラーム党、そしてシャーム解放機構は、M4高速道路以南の地域の支配を維持することが困難になっていると判断、今回の破壊行為に及んだと見られる。