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トルコは「聞き分けのない」シリア反体制派への締め付けを強める

青山弘之東京外国語大学 教授
Eldorar.com、2020年4月26日

ロシアのヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領がシリア北西部のイドリブ県での停戦に合意(3月5日)してから52日が経った4月26日、トルコ軍のバイラクタルTB2無人航空機がM4高速道路沿線のナイラブ村を爆撃した。

ロシア(そしてもちろんトルコ)はこれを停戦違反とはみなしていない。

イドリブ県で何が起きたのか?

トルコ軍が座り込みデモを強制排除

反体制系メディアは4月26日、トルコ軍が早朝、ナイラブ村近郊のM4高速道路で続けられていた座り込みデモを強制排除したと一斉に報じた。

トルコ軍がデモを強制排除したのは4月13日に続いて2回目(「シリアのイドリブ県で反体制派どうしの緊張がにわかに高まるなか、トルコは同地の抗議デモを強制排除」を参照)。

「尊厳の座り込み」と銘打たれたデモは、3月5日のロシアとトルコの停戦合意で実施が定められていた両軍によるM4高速道路の合同パトロールに反対するため、3月13日に始められていた。

M4高速道路はアレッポ市とラタキア市を結ぶ幹線道路で、シリア政府とロシアがかねてからその再開をめざしてきた。

アル=カーイダが動員したデモ

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、デモは、イドリブ県を中心とする反体制派支配地域(いわゆる「解放区」)の軍事・治安権限を握るシリアのアル=カーイダのシャーム解放機構と、同地での自治を委託されている救国内閣によって動員されたもので、参加者は、宿泊用のテント、食料や飲み物、交通費を受け取っていた(「シリア北西部でのロシア・トルコ軍の合同パトロールを妨害する住民はアル=カーイダが動員していた」を参照)。

トルコは、シリア・ロシア軍の攻撃が激化した2月には、シャーム解放機構とあからさまに共闘していたが、今回は聞き分けのない彼らを力で封じ込めるかたちとなった。

トルコ軍による実弾発砲で4人死亡

トルコ軍と警察からなる部隊は、装甲車や重機を伴い、座り込み現場に乗り込み、路上に積まれていた土嚢を撤去、催涙弾や放水でデモ参加者を排除しようとした。しかし、デモ参加者が投石を行うなどして抵抗したため、実弾で応戦した。

これにより、シャーム解放機構のメンバー2人と救国戦線の職員2人、合計4人が死亡した。

シリア人権監視団によると、トルコ軍は、デモ参加者が設営していたテントのほとんどを撤去したという。

シャーム解放機構がトルコに反撃

反体制系サイトのイナブ・バラディーが現地の複数の軍事筋の話として伝えたところによると、「尊厳の座り込み」強制排除を受けて、「武装集団」がナイラブ村近郊でトルコ軍部隊を襲撃、対戦車ミサイルで重機、戦車、装甲車を狙い、被害を与えた。

イナブ・バラディーは攻撃を行った「武装集団」を特定していないが、シリア人権監視団は、シャーム解放機構が主導する反体制武装集団が、ナイラブ村近郊のトルコ軍の拠点複数カ所を攻撃したと発表した。

なお、トルコ軍はヘリコプターを現地に派遣し、負傷した兵士を本国に移送したという。

トルコ軍による対抗措置

トルコ軍はまた、バイラクタルTB2を投入し、対戦車ミサイルが発射された地点を爆撃、また地上部隊が砲撃を行い、シャーム解放機構と交戦した。

バイラクタルTB2が爆撃を行ったのはナイラブ村。シャーム解放機構の車輌が被弾し、メンバー2人が殺害、3人が負傷した。

シリア人権監視団によると、その後、トルコの支援を受ける反体制武装集団がシャーム解放機構と会合を開き、トルコ軍との戦闘を収拾、座り込みデモを中止させた。

「トルコの支援を受ける反体制武装集団」がどの組織かは不明だが、シャーム解放機構と「決戦」作戦司令室を組織している国民解放戦線(国民軍)、あるいは同戦線に所属している武装集団だと推察される。

シャーム解放機構の反抗続く

シャーム解放機構に近いイバー・ネットによると、イドリブ県のハザーヌー町近郊で、住民数十人が、トルコ軍による「尊厳の座り込み」強制排除で犠牲者が出たことに抗議し、バーブ・ハワー国境通行所に至る道路を封鎖し、トルコ軍車輌の通行を妨害した。

また、シャーム解放機構のタキー・ディーン・ウマル広報関係局長は、反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤに次のように述べ、トルコ軍の無人航空機による爆撃と事態収拾についての情報を否定した。

我らがムジャーヒディーンがトルコ軍の無人航空機に狙われたというニュースが流れているが、このニュースは正しくない。また我々とトルコがマストゥーマ村で会合したとの情報も流れているが、これも正しくない。

トルコ占領地でも反体制武装集団に圧力

シリア人権監視団は4月24日、トルコ諜報機関が、占領下のラッカ県タッル・アブヤド市一帯地域から、国民軍の戦闘員の一団をトルコ領内に移送したと発表した。

トルコ諜報機関は、これに先立って、国民軍の司令部に対して、リビアに派兵するための戦闘員数百人のリストを提出するよう「要請」、国民軍側は、所属組織である東部自由人連合、東部軍、スルターン・ムラード師団などの戦闘員2,100人のリストを示したという。

しかし、ダマスカス郊外県東グータ地方やヒムス県の出身者からなるラフマーン軍団など、国民軍に所属する多くの武装集団はリストの提出を拒否し、トルコの「要請」に従わなかったため、国民軍はこれらの組織への物資の供与を停止したという。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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