「良くなったり悪くなったり」を繰り返す難病 安倍首相の持病「潰瘍性大腸炎」とは
安倍晋三首相は28日、首相官邸で記者会見し、持病の潰瘍性大腸炎悪化のため辞意を表明しました。
安倍首相は10代の頃から潰瘍性大腸炎を治療され、平成18年に総理大臣に就任した際には、病状の悪化をきっかけに約1年で退陣された経緯があります。
潰瘍性大腸炎とは、どんな病気なのでしょうか?
第三者が個々の症例について憶測で語るのは大変失礼なことですので、本記事では一般論として知っていただきたい知識をまとめます。
潰瘍性大腸炎とは?
潰瘍性大腸炎は指定難病の一つで、我が国では16万人以上の患者さんがいます(1)。
30歳以下の比較的若い世代に発症することが多いのですが、小児や50歳以上の方がかかることもあります(2)。
発症に関連する複数の遺伝子が報告されているものの、依然として原因ははっきり分かっていません(3)。
潰瘍性大腸炎では、大腸の壁が炎症を起こし、潰瘍やびらん(粘膜の表面がえぐれたような状態)を生じます。
症状としては、繰り返す下痢や血便、腹痛などが特徴的です。
大腸は、右下の盲腸から始まり、お腹の中を一周して直腸まで続く長い管状の臓器です。
潰瘍性大腸炎の炎症は、直腸から上流へ連続的に広がる傾向があり、場合によっては大腸全体に及ぶこともあります。
また、炎症が腸管の外に現れることもあり、皮膚や関節、眼など、全身に症状が起こりえます。
再燃と寛解を繰り返す
潰瘍性大腸炎は、「再燃と寛解を繰り返す(“良くなったり悪くなったり”を繰り返す)」という経過をとることが多いのが特徴です(再燃寛解型)。
それぞれ「活動期」「寛解期」と呼び、必要な治療が異なります。
つまり、どこかで完全に「治ってしまう」というよりは、治療を継続することによって「寛解(病状が落ち着いている状態)」を維持するのが目標になる、ということです。
再燃を予防するため、薬を使いながら炎症をコントロールしていくのです。
治療法は患者さんの病状によって様々です。
飲み薬や注射薬などの内科的治療で改善しない場合や重症化した場合は、大腸を全て切除する手術(大腸全摘術)が必要になることもあります。
また、大腸がんを合併するリスクが一般人口より高いため、発症からおよそ8年後以降を目安に定期的な大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)を行うのが一般的です(3)。
このように、慢性的な病気を治療しつつ、絶えず病状に気を遣いながら、時に悪化を恐れながら日常生活を維持していくのは大変なことです。
病状をうまく維持できればできるほど、周囲からは「治療中であること」が分かりにくく、患者さんの苦痛に対して理解が得られにくいという悩みもあります。
病気と共に生活することのつらさは、治療しているご本人にしか分かりません。
このような慢性疾患を持つ患者さんが多くいらっしゃることを知り、お互いにやさしい言葉をかけあえる社会であればと願います。
<参考文献>
(1)難病情報センター「潰瘍性大腸炎」
(2)潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針/難治性炎症性腸管障害に関する調査研究
(3)炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2016/日本消化器病学会
慢性疾患については、以下の記事でも取り上げています。