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大量殺人犯の心に巣食う10の特性――テロリストと一般人は何が違うか 1

六辻彰二国際政治学者
後藤健二氏を殺害したIS処刑人モハメド・エムワジ(2015.2.26)(提供:SITE Intel Group/ロイター/アフロ)
  • 大量殺人犯の人格や心理には特有の特徴があるという研究は、対テロ戦争のもと欧米諸国で活発に行われてきた
  • こうしたミクロの条件は、貧困や孤立といったマクロの条件と噛み合うことで、テロの要因になると考えられる
  • 多くの研究で取り上げられる10の特徴のうち、以下ではまず、反社会的人格、ナルシズム、抑圧からの独立心、パラノイア、終末思想を取り上げる

 自爆テロや銃の乱射は世界各地で絶えないが、なぜテロリストは平気で多くの人を殺傷できるのか。

 テロなどの政治的な暴力について、筆者を含めて社会科学に携わる者は、貧困、孤立、抑圧など政治や社会のマクロな視点から考えるのが一般的だ。しかし、こうした社会状況に直面する者が全て、暴力に訴えるわけではない。また、過激思想を抱く者が常に大量殺人に走るわけでもない。

 つまり、大量殺人には個人的な特性というミクロの要因もあることになる。

 こうしたミクロの見方は主に心理学や精神分析学の領域になるが、マクロの見方と衝突するものではなく、補完しあう関係にあると考えられる。同じような社会状況でも個人差があるのと同じく、個人の人格形成には社会からの影響も大きいからだ

 そこで、ミクロなアプローチによる主な論考を読み漁ったところ、それらが非常に興味深い内容だったため、筆者の専門からは外れているがその要旨をメモがわりにまとめたものをこの場で投稿することをお許しいただきたい。

 以下では多くのテロリストの心にみられる特徴を10に絞って紹介していく。

(1)良心を欠いた反社会性

 最近のアメリカでは銃の乱射などが発生すると、犯人はまずサイコパシーかが疑われる。サイコパシーは反社会的な人格の一種で、日本語では精神病質と呼ばれ、他人に冷淡、自己中心的、自己の行動に無責任、平気でウソがつけるなどの特徴をもつ。

 サイコパシーは遺伝による影響が大きいといわれ、ほぼ同じ症状で後天的なものはソシオパシー、社会病質と呼ばれる。

 2017年10月、ネバダ州ラスベガスで58人を射殺(単独犯としてはアメリカ史上最悪)したスティーブン・パドックは富裕なギャンブラーで、メンタルクリニックで受診歴があったが、事件後に自殺したため、FBIは単一の明確な動機を見出せなかった。しかし、パドックの父親(故人)は生前、銀行強盗などを繰り返し、一時はアメリカ政府から10大指名手配犯の一人に指定された人物で、サイコパシーと診断されていた。そのため、パドックにもサイコパシーの疑いは濃い。

 とはいえ、サイコパシーの持ち主はごく少なく、全てのテロリストに該当するとはいえない。

 そのうえ、テロリストが「反社会的」とは限らない。テロリストには自分の所属する集団の目標や規範に従って行動する者も多いからだ。実際、イスラーム過激派による自爆テロや白人至上主義者による銃撃は、一部の人々から賞賛される。

 つまり、多くの人からみて「反社会的」な行為でも、自分の周りの狭い社会の価値観に適応することはあり得る。だとすると、全てのテロを、ただ「異常者の所業」で片付けることはできない。

(2)弱さを隠した万能感

 むしろ、多くのテロリストに観察される傾向として、自分を特別な人間と思い、他者を軽蔑する万能感や誇大感、つまりナルシズムがある。

 ナルシズムは国際テロ組織アルカイダを創設したオサマ・ビン・ラディンから、2011年7月にノルウェーで77人を射殺(単独犯としては世界最悪)した白人至上主義者アンネシュ・ブレイビクに至るまで、イデオロギーを超えて多くのテロリストに指摘されている。

 このうち、ブレイビクに関しては、逮捕後に警察で通常の写真を撮られるのを拒否し、事前に写真館でこだわり抜いて撮影していたポートレートを使うように要望したことがその象徴だ。普通の人にはできない大量殺人の実行は、ナルシストにとってこれ以上ない自己顕示かもしれない

 ただし、一般的にナルシズムの根底には「弱い自分」への不安が隠れている。虐待やいじめなど幼少期の経験から対人関係に不安感が強いと、それを相殺するために過剰に自分に自信を持ちやすいといわれる。ブレイビクの場合、4歳頃から母親に性的な事柄を教えられた一方、「死ねばいいのに」といった暴言や、暴行を受けていたという。

 ところが、こうした不安を相殺するための自信は極めてもろいので、些細なことで崩れやすく、その場合には手に負えない激情の高まり、いわゆる自己愛憤怒を呼び、他者への攻撃の引き金になることもある。

(3)「日の当たる場所」を求める独立心

 虐待ではなく親からの干渉が強すぎることも、テロリストの誕生でしばしば見受けられる。

 幼少期に親の干渉が強い場合、自尊心が傷つけられた反動で、自分自身で決定することへの欲求が強くなりやすい。精神分析学者のマックスウェル・テイラーとエセル・ケイルは、親からの抑圧を強く意識した者が、社会的な抑圧に敏感に反応して政治的暴力に向かいやすくなると指摘した。これは「日の当たる場所」を求める心理と呼ばれる。

 ここで重要なのは、「やってはいけないこと」の代表格である暴力に「自己決定で」向かうことが、自分自身の確立につながるという心理メカニズムだ。ロシア文学の傑作、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』は父親殺しをテーマにするが、その舞台はテロの嵐が吹き荒れる帝政ロシア末期で、ここには皇帝による専制支配と家父長制のそれぞれに対する拒絶がオーバーラップする。

 これは現代テロリストの代表格オサマ・ビン・ラディンに関してもうかがえる。2018年に初めてメディアのインタビューに応じたビン・ラディンの母親は「オサマは良い子だった」「つき合った人間がよくなかった」と繰り返したが、これに対して弟は冷静に「母親はオサマのいい面しかみていない」と指摘している。

 「日の当たる場所」の観点からこの証言をみれば、息子を溺愛し、成人後もその交友関係に逐一口を出していた母親の「重荷」が、ビン・ラディンというモンスターを生む一因になったとも考えられる。

(4)他人のせいにしたがる幼児性

 やはり成長過程のトラウマなどによって生まれやすいパラノイアも、テロリストにしばしば見受けられる。パラノイアは他者への不安や恐怖が強く、自分が常に外部の悪意にさらされていると考えやすい傾向があり、偏執病と呼ばれる。

 その典型として、2011年1月にアリゾナ州ツーソンで連邦地裁長官や9歳の少女を含む6人を射殺したジャレッド・ラフナーがあげられる。

 ラフナーは高校中退後、職を転々とし、大学に進学したが、ドラッグ使用などの素行不良で停学処分を受けた。特定の政治勢力を支持していなかったが、銃規制には強く反対し、ネット上では「グローバリストによる世界支配」といった陰謀論を扱うサイトに出入りしていた。このように生活が上手くいかないなか、政府や「世界支配を企む勢力」の悪意を疑い、自己防衛を強く意識するラフナーは、逮捕後の精神鑑定でパラノイアと診断された。

 判決では保釈なしの終身刑に、140年の懲役が追加された。

 一般的にパラノイアが抱く外部の悪意は自分の中の悪い部分を他者に投影したもので、「妄想・分裂形成」と呼ばれる。これは自分の思い通りにならない場合、全て他者のせいだと外部に向けて怒りを爆発させるもので、乳児の特徴だ。しかし、大人でも自分の責任を認められない者は少なくなく、ラフナーもそうした幼児性の強い一人とみられるのだ。

(5)「不浄の世界を救う」使命感

 より真面目な人間がテロに走ることもある。

 ハーバード大学の精神分析学者ロバート・リフトンはオウム真理教に入信してテロに加担した若者たちを取り上げ、その多くが世界の腐敗・堕落に失望し、救世主のもとで世直しを目指そうとしたと評し、彼らを終末思想論者と呼んだ。

 このタイプは真面目で道徳観念の発達した者に多いが、全てを白か黒かで断定しやすいうえ、「自分は正しいことを知っている」という意識が強く、「正しい考えが広がらないのは権力者がそれを邪魔しているから」となりやすい。

 こうした「悪意のある他者」への恐怖や敵意はパラノイアでもみられるが、終末思想論者も「ユダヤによる世界支配」といった陰謀論や、自分たちが迫害されているという感覚に傾きやすい。これが強くなれば、大量殺人も世界の浄化のために「正しい選択」となる。

 実際にはこうした価値観あるいはイデオロギーをどの程度本心から支持するかは個人差がある。しかし、たとえ形式的でも価値観やイデオロギーを受け入れれば、暴力を行使しても自分の責任を意識しにくくなりやすい。その場合、ナチスによるホロコーストの責任者アドルフ・オットー・アイヒマンのように、ただ命令に従順なだけの平凡な人間が、大きな良心の呵責のないまま、多くの人の生命を平然と奪うことすらあり得るのである。

2に続く 一般社会でもみられるテロリスト・マインドとは

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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