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「130万円の壁」はどうしてなくならないか。制度を改正してもなお残る別の理由

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
130万円を超えないよう就業調整する「130万円の壁」はなぜなくならないか(写真:アフロ)

2月1日に開かれた衆議院予算委員会で、岸田文雄首相は、いわゆる「130万円の壁」を見直す方針を表明した。

「130万円の壁」とは、130万円を超えて働くと、手取り所得(可処分所得)が増えると思いきや逆に社会保険料を自ら払わなければならないために手取り所得が減ってしまう現象を指す。年収が130万円未満となるように就業調整すれば、家族に養ってくれる人がいれば社会保険料を自ら払わなくてもよいため、手取り所得は減らない。もし家族に扶養してくれる人がいれば、その人の扶養家族として社会保険に入れる。

厳密にいうと、2022年10月以降は、従業員が101名以上の企業に勤務する人は、130万円ではなく106万円がその境目となっている。

このように、「130万円の壁」ないしは「106万円の壁」は、社会保険料を自ら払わなければならないことによって生じる。それの何が問題かといえば、「手取り所得の逆転現象」が起きるために、年収が130万円ないしは106万円以上にならないように、不本意ながら就業調整を行うことである。

好きなだけ働けば、社会保険料を差し引かれる前の年収はもっと増えるのに、そうならないことが、問題の本質である。本当は、手取り所得の逆転現象がなければもっと働きたいのに、不本意な形で就業調整をして働かないようにしている。そして、そのせいで、夫婦の所得も増やせないという状態になってしまい、子育てのための生計費の工面に苦しむ世帯も多い。

この問題に対して、これまでの政府の方針では、できるだけ多くの企業に、社会保険料を自ら払う境目となる年収を130万円から106万円に引き下げることで解消を図ろうとしている。これを、被用者保険の適用拡大ともいう。

被用者保険とは、「被用者」つまり自営業者ではなく雇われて働く人が入る社会保険(健康保険や厚生年金など)のことである。これまで、130万円未満の年収しかない人は、自らが被用者保険に入って社会保険料を払う必要はなかった。

130万円の壁を106万円に引き下げることで、大半の人は106万円の手前で就業調整をするよりも、106万円を突き抜けて希望通りに働き、被用者保険にも入りつつ夫婦合わせた世帯所得が増える形で、この「壁」の問題を解消しようと目論んでいる。

確かに、106万円であっても「壁」は残る。しかし、106万円未満になるように働き控えをするには、働くのを相当抑えないといけない。最低賃金の時給で働くとしても、普通に働けば年収は106万円を超える。

はたしてそれで、「壁」は実質的になくなるといえるだろうか。実は、そうした制度改正を行ったとしても、なお就業調整が残るのではないかという見方がある。つまり、こうした制度改正を行っても、不本意にも就業調整をする別の理由があるという。それは、

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慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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