【速報】一般道で時速194kmは過失? 国会質疑で法務副大臣は何と答えたか
■国会で取り上げられた、大分の時速194キロ死亡事故
「被害者はシートベルト、引きちぎれているんですね。194キロ出すと、そんなことが起こる……。一般道で、超高速運転する行為というのは、危険運転致死罪の『その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為』の構成要件に当たらないのか? どんなにスピードを出していても、前を正視してハンドルをきちんと握っていれば危険運転に当たらないと、そういうことなんでしょうか?」
10月28日、衆議院内閣委員会。強い口調でそう質問したのは、緒方林太郎衆議院議員です。
2021年2月9日、大分市で発生したこの事故について、私は夏から繰り返し報じてきました。10月20日には、遺族が「時速194キロでの衝突が、人や車にいかに大きなダメージを与えるかを知ってほしい」という思いを込めて、初めて被害者である小柳憲さん(当時50)の死亡診断書を記事内で公開したところでした。
<時速194キロ衝突、遺族が亡き弟の「死亡診断書」公開。全身骨折、シートベルトもちぎれて…(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース>
一般道で、法定速度の3倍を超える時速194キロという速度を出して起こった死亡事故が、なぜ「危険運転致死罪」で起訴されず、「過失」と判断されたのか……。
緒方議員はこの日、小柳さんの遺族が抱いてきた疑問を国会で取り上げました。
「危険運転致死傷罪」の構成要件(*犯罪が成立するための原則的な要件)とは何なのか、国(法務省)はそれをどうとらえているのか。
私も含めた一般市民には、かなり難解な内容ではありますが、当日の質疑応答を抜粋し、速報でお伝えしたいと思います。少し長くなりますが、ぜひ最後までお読みください。
■答弁に立った法務副大臣
まず、緒方議員の冒頭の質問に対して、法務副大臣の門山宏哲氏は、「あくまでも一般論として」という前提で次のように答弁しました。
●<副大臣> 「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状況で、自車を走行させるということを意味しているところでございますが、この要件に該当するか否かにつきましては、個別の事案ごとに証拠によって認められる事実、例えば、車両の構造性能、具体的な道路の状況、すなわち、カーブ、道幅など諸般の事情を総合的に考慮して判断されるものと承知しております。したがいまして、進行方向を正視してハンドルをきちっと握っていた、それだからと言って、およそこの要件に該当しないというわけではない、一方、運転する自動車の速度のみをもってこの要件に該当するというものでもない、そのように認識しております。
一度聞いただけではなかなか理解が難しい答弁ですが、緒方議員はさらに質問を重ねます。
●<緒方議員> では、300キロ出していても今の要件にあてはまらないのであれば、危険運転致死罪と取られない、という理解でよろしいですか、副大臣?
●<副大臣> 例えば、アウトバーンみたいなところがあって、そこで300キロで走っていたのなら当たらないと、そういうケースもあるのかなと。
●<緒方議員> この運転手は、「何キロ出るか試したかった」という風に言っているんですね。自動車の限界にチャレンジするような、「超高速度を出してやろう」とチャレンジするようなことは、この犯罪の「故意」に当たるという風に思いますか?
●<副大臣> 個別事案に対するお答えは差し控えさせていただきます。
副大臣はドイツの「アウトバーン」を例に挙げましたが、「アウトバーン」には基本的に交差点はなく、歩行者はもちろん、車の横断や右左折もありません。区間によっては制限速度の規制もありません。
この日審議された大分の死亡事故は、制限速度が60キロに規制されている「日本の一般道」で発生しています。個人的には、ここでアウトバーンを引き合いに出すことに違和感を覚えました。
■「客観的な構成要件事実に対応した認識・認容」とは??
やり取りが続く中、今度は法務省から保坂和人官房審議官が登場し、法律の専門家として以下の答弁を行います。
●<官房審議官> 法律の技術的な話でございますので、私の方から答弁させていただきます。「故意」といいますのは、客観的な構成要件事実に対応した、認識・認容のことを意味します。従いまして、今の要件の関係で言いますと、構成要件は、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」ですので、これに対応した認識があるかどうか、ということですので、今おっしゃった「スピードを出す動機」というのが、故意の動機にはなりますけれども、故意としては「進行を制御することが困難な高速度で走行させている」という認識、ということになります。
保坂氏の答弁からは、車の運転における「故意の動機」や「認識」という言葉がどういう意味を持つのかがよく理解できませんでした。
緒方議員はその点をさらに追及します。
●<緒方議員> ということはですよ、この法律、この罪が当たるためには、「俺はこの進行が、もう制御できないぐらい、コントロールできないくらいの困難なスピードで運転してやるんだ!」という風に思わなければ、この罪での故意には問われないんでしょうか?
●<官房審議官> 先ほど申し上げましたように、客観的な構成要件事実に対する認識・認容ということでございますので、「こうしてやろう」というような意欲とか、積極的なものまでが要求されているわけではなくて、自分の運転状況が、まさに「進行を制御することが困難な高速度」という認識があれば足りるということでございます。
●<緒方議員> そんなこと考えながら運転する人っていないと思うんですよね。「今から俺、運転するんだけれども、制御が困難な高速度で今から自分が運転するんだ!」という認識を持つ人はほとんどいなくて、運転する人というのは必ず「自分はそこそこうまくやれるんだ」と思って運転するから、相当自暴自棄な人でないと、そういうことにならないと思うんですよね。なんかちょっとおかしくないですかね?
●<官房審議官> 繰り返しになりますが、「制御することが困難な高速度」であることに対応する認識といたしまして、その評価的な部分、「制御が困難かどうか」ということ自体を直接「こうなんだなあ」というかたちで認識していることは必要ないのですが、速度を出していて、かつ、それまでの運転状況からして、「カーブが曲がり切れない」とか、「このまま走っていったら道路にぶつかってしまう」というような認識があれば足りるというふうに解されるということでございます。
●<緒方議員> 何か、聞いている人は、たぶん、変なこと言っているなあ? と思われた方も多いのではないかと思いますが。「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」はあまりに要件が不明確で、かつ厳しい運用がされています。「構成要件の適用条件が明確性の原則に反している」という指摘もございます。逆走したり無免許であっても危険運転致死傷罪の適用がなかったとかですね、飲酒をしていても、酩酊状態になかったら適用がなかったりしているんです。
■「無罪の前例を作りたくない」検察官?
そして、質問の最後に、緒方議員はかなり悪質な運転行為による重大事故であっても、検察が危険運転致死傷罪で起訴しない理由について、「これは想像ですけれども」と前置きしながら、次のように指摘しました。
●<緒方議員> 「無罪の前例を作りたくない」という検察官の意識にも原因があるんじゃないかという風に思います。起訴した罪状が裁判所に採用されないとキャリアパスに影響すると思えば、一番手堅い安全策を取りたくなるんです。警察関係者と話をすると、「検察官が危険運転致死罪を採用してくれない」「意識の乖離は大きい」という指摘をする方もいます。その結果、どんなに無謀な運転をしても、どんなに速度を出しても、危険運転致死傷罪が適用されないという負のサイクルになっているんじゃないかと思います。法改正を通じて、抑止力を高め、遺族感情に応え、かつ、検察官や裁判官の負担を下げるべきだと思いますが、いかがですか。
この質問に対する答弁を行ったのは、門山副大臣でした。
●<副大臣> 危険運転致死傷罪というものは、運転の実質的な危険性に照らして、暴行によって人を死傷させた傷害罪や傷害致死罪に準じて重い処罰の対象とするものでございます。そのためにこの危険運転行為というのは、悪質・危険な行為のうち、重大な死傷事故となる危険が、類型的に極めて高い運転行為であって、傷害罪や傷害致死罪に準じた重い法定刑により処罰すべきものと認められる類型に限定して列挙されているものでございます。危険運転致死傷罪にあたる危険運転行為の類型を改正したり、追加したりすることにつきましては、危険運転致死傷罪を重く処罰する主旨に合致するものであるか否か、また、危険運転行為による死亡事犯の実情等を踏まえて十分な検討が必要であると考えております。
■国会答弁を聞いた別事件の遺族の思い
「今回、国会で質問された事案は、どれも息子の事件と重なりました。一般道でそんな運転をすれば事故を起こして他人の命を奪うであろうことくらい、小学生でも分かる事です。それを承知で行い、結果として人命を奪っているのですから、未必の故意として裁かれるべきと考えるのは、被害者遺族でなくても、自然なことだと思います」
メッセージをくださったのは、高校入学を間近に控えた長男・樹生さん(当時15)を失った和田真理さんです。
樹生さんの事故については、2年前、以下の記事で取り上げました。
<自宅前で奪われた息子の命「飲酒ひき逃げ」なぜ問われぬ? 悲しみこらえ訴え続ける両親の思い(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース>
加害者(当時42)は酒を飲んで車を運転し、大幅な速度超過で中央線をはみ出し、横断歩道を横断中の樹生さんをはね、直後に救護をせずコンビニでブレスケアを購入していたことがわかっています。しかし、検察は危険運転致死罪で起訴せず、長野地裁佐久支部はこの事故の主因を被告人の「前方不注視」と認定。2015年9月、禁錮3年、執行猶予5年の判決を下しました。
この事故はその後、遺族による訴えを受け、加害者は時効直前にひき逃げの罪で起訴。今年11月29日に判決が下される予定です(以下の記事参照)。
<時効直前、ひき逃げで異例の起訴「救護義務」の意味を問い闘い続けた両親の7年>
「『制御困難な高速度』を判断する上での道路状況に、歩行者や走行している他の車は含まれていないということですが、私には理解できません。実際の道路には、歩行者や他車がいます。それらが考慮されないということは、あまりにも道路利用者の生命や安全を軽視しています。制限速度が設けられているのですから、それを何キロオーバーしたら危険運転とするなど、もっと国民に分かりやすい判断に見直されるべきです」
緒方議員も指摘していましたが、私がこれまで取材してきた交通事故の中には、和田さんのように悪質な運転で命を奪われても、「危険運転」には問われず、「過失」として起訴されたケースが数多くありました。そして、遺族は長年苦しめられています。
すべての交通事故を、やみくもに厳罰化すべきだと言っているのではありません。「危険運転致死傷罪」が新設された以上、万人が納得できる起訴の判断基準が必要でしょう。
小柳さんの遺族は10月11日、「危険運転致死罪」での訴因変更を求める署名を大分地検に提出しました。現在、検察庁の判断を待っているところです。
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