「都心部では貴重な大樹、伐採しても有効に活用する方法がある」千葉大学名誉教授の「3つの提案」
江戸時代から生き続けてきたといわれ、神社のご神木として親しまれたきた東京・西荻窪の大ケヤキ。近隣住民の保存運動もあったが、マンション建設のために、大手建設会社のグループ会社によって伐採工事が進められている。
だが、伐採するならば、貴重な文化財や木材として、有効に活用する方法がある。そう話すのは、千葉大学名誉教授の藤井英二郎さんだ。環境植栽学の専門家で、「都市のみどり」のあり方を研究している藤井さんの「3つの提案」とは? 藤井さんに電話でインタビューした。
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【提案1】大ケヤキの根元近くの幹を輪切りにして、地域の歴史を刻んだ「文化財」として保存してはどうか?
あのケヤキは樹齢が200〜300年といわれる大木です。それほどの木になると、年輪に多くの情報が詰まっています。年輪年代学が、スギやヒノキでは確立されていますが、ケヤキの場合はまだ年輪の情報が十分ではないと思います。
樹齢が300年だとすると、木の誕生は江戸時代までさかのぼります。そこからいままで、どのように成長してきたか、その過程が刻まれているはずです。年輪の成長幅の推移を読むことで、木を取り巻く環境にどういう変化があったのかがわかるのです。
気候的な問題が一番大きいですが、あのケヤキの場合は、周辺がどんどん市街地化していったので、それに伴って環境も大きく変わってきたはずです。そのあたりのことも含めて、過去の歴史が刻まれているはずです。それを地域の歴史としてしっかり残すことで、現在や未来の人々に役立てることができます。
ケヤキで、あれだけの太さ(胸の高さで直径約1.5メートル)の木はそんなに多くないですから、その年輪は貴重な情報の宝庫といえるわけです。
【提案2】根元以外の幹や枝を「木材」として、有効に活用してはどうか?
木は、生きていく過程で二酸化炭素を吸収して、その幹や枝、根に固定しています。ですから、木を切った後も、長く木材として使うことで、二酸化炭素を木の内部に固定した状態を維持できるわけです。逆に、切った木を燃やしてしまえば、新たに二酸化炭素を排出することになります。
これまで、我々はケヤキをいろんな形で使ってきました。あのケヤキは、おそらく幹の一部に空洞があるのでしょうが、さまざまな木材として使える部分はたくさんあるはずです。
(マンション建設のために大ケヤキを伐採している)清水建設グループにも、そういう知恵が山ほどあって、かつては木を有効に活用してきたはずです。それをガラガラポンというか、長く生きた木を切って捨ててしまう、というのは残念ですね。
清水建設は、「論語と算盤」を唱えた渋沢栄一に経営指導を受けた会社ですよね。渋沢栄一は、東京都北区にあった一里塚のエノキの木の保存に尽力したことで知られています。
清水建設も、そういう意識は渋沢栄一から受けているはずです。それを守れず、歴史的に意義のある木を大事にする姿勢をもてないのだとしたら、建設会社として情けないと思います。
【提案3】根元部分の空洞率や腐朽状況を確認して、樹木医の診断結果を検証し、「今後の樹木保全」に生かしてはどうか?
(清水建設グループの)清水総合開発が依頼した樹木医の診断では、大ケヤキの周囲に(木を腐らせる)ベッコウダケがついていて、根元近くの部分の空洞率が50%以上だったということです。しかし、これは機械を使って推定した数値なので、実際にはどうだったのかを確かめる必要があります。
一番のポイントは、空洞がどれだけあるか。樹木医診断と同じ高さで幹の断面を切れば、機器による推定と実際の状況の誤差がわかります。それは今後の診断に生かすことができます。
もう一つ、重要なのは、仮にベッコウダケが出ていたとしても、樹木にはそれに対抗して、腐朽をガードする「防護帯」を作る力があるということです。今回も、幹の空洞の壁面部分に防護帯ができていると考えられます。
その防護帯でベッコウダケをしっかりガードできていたら、ケヤキ自身の力によって、腐朽の侵食を止めることができていたといえます。樹木の専門家が、その状況を確認する必要があります。
本来は、木を切るときに専門家が立ち会うのが望ましいですが、それが難しい場合は、根元の部分を保存しておけばいいでしょう。そうすれば、いつでもケヤキの内部がどういう状態だったのかを検証できますから。
藤井英二郎さんのプロフィール
千葉大学名誉教授(環境植栽学)。都市のみどり研究会会長。環境植栽学・造園学について幅広く研究している街路樹研究の第一人者。安全に樹冠を大きくする剪定方法や自治体の街路樹担当者の育成方法などを提言。豊かな街路の再生に取り組んでいる。
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