杉並「もう一つのトトロの樹」伐採が「延期」 住民・自治体・デベロッパーの反応は?
「もう一つのトトロの樹」。そんな異名もある東京都杉並区の大きなケヤキが「伐採」をめぐって揺れている。住民の反対運動が広がった結果、伐採が「延期」となったことが明らかになった。
大ケヤキの「伐採計画」に住民が「反対」署名運動
東京・西荻窪の住宅街にある高さ約25メートルの大ケヤキ。この巨木は長年、小さな神社のご神木として祀られてきた。しかし敷地の所有者が、スーパーゼネコン・清水建設グループのデベロッパーへと変更。マンション建設のため、今年8月中旬に伐採されることになった。
ところが、6月に伐採計画を知った近隣の住民たちが「次の世代のために貴重な木を残してほしい」と、伐採中止を求める署名運動を展開。7月25日、杉並区役所を訪れ、デベロッパーらへの適切な指導を求める「要望書」を提出した。
その経緯は、次の記事で報じた通りだ。
※参考記事:東京・西荻窪「もう一つのトトロの樹」が伐採へ スーパーゼネコンvs住民「反対運動」が広がる
その後、住民たちは8月1日、杉並区の都市整備部を訪問し、インターネットの署名サイトと街頭で集めた計1万123人の署名を提出。大ケヤキの保全に向けた対応を求めた。
杉並区がデベロッパーに「樹木の保全」を要望
このような住民の動きを受け、杉並区はデベロッパーの清水総合開発に対して、働きかけをおこなった。
住民の要望書が提出された翌日の7月26日と31日、杉並区の職員が清水総合開発の担当者と面談し、「樹木の保全」と「樹木診断の実施」を要望した。また、住民などから問い合わせがあった場合に、丁寧に対応することを求めた。
この要望について、杉並区都市整備部の吉野稔・みどり施策担当課長は次のように語る。
「現在は樹木を全部伐採する計画になっていますが、一部でも残すことができないかという提案をしました。安全性の観点から、樹木を残せるのかどうか(区としては)わかりませんが、もし残せるのであれば残してもらえないかと要望しました」
8月中旬に予定していた「伐採」を延期
その後、清水総合開発から杉並区に対して「当初予定していた8月17日からの樹木の伐採スケジュールは延期する」という連絡があった。
この「伐採延期」の知らせは、杉並区から住民にも伝えられた。
清水総合開発に取材して、延期の理由をたずねると「諸事情を鑑みた結果、延期が可能と判断したからです」という回答だった。
大ケヤキの近くの住民で、伐採反対の署名運動をしている熊本一規さんは、次のように話している。
「杉並区のみどりの条例に『何人も、現存する樹木を保全するよう努めなければならない』と書かれています。そのことからすれば、樹木の伐採を延期する判断は当然のことだと思います」
樹木医による「診断」を実施か?
ただ、今回の清水総合開発の決定は、伐採の「延期」であって「中止」ではない。
同社は7月下旬、記者の取材に対して、文書で次のように回答している。
「大きな樹木の根の一部を切った場合、建物の完成直後はもとより、将来を見据えると、当該樹木の自立(安全)を担保できないとの見解が植栽業者から提示されたことを考え併せ、大変残念ではありますが、当該欅等の樹木は伐採させていただき、新たな植栽をもって本件計画を進めさせていただくことが良いとの判断に至りました」
また、8月上旬の取材に対する回答では、伐採自体の変更について言及していない。今後の予定についても「特段定まっておりません」としている。
しかし、杉並区が「樹木診断の実施」を要望していることから、清水総合開発の主導で、樹木医による診断が実施される可能性がある。
この点について、清水総合開発は「(杉並区との面談で)樹木医についてお話はでましたが、病気の有無は本件に関係していないという話で終わったと理解しております」とコメントしている。
このコメントからは、仮に樹木診断で「大ケヤキは健康」と判定されても、それによって伐採の必要性が左右されるわけではない、という同社の姿勢がうかがわれる。
樹木診断について、住民の熊本さんは次のように述べている。
「私たちは、今後、樹木診断が実施されるのではないかと想定しています。それ自体は要望に沿ったものですが、デベロッパーにとって都合のいい『御用樹木医』ではなく、中立的な立場の樹木医に適切な判断をしてほしいです」
杉並区によると、清水総合開発は大ケヤキの近隣住民に対して、なんらかの形で状況を説明することを考えているという。