杉並「もう一つのトトロの樹」伐採を決断 清水建設グループがマンション建設に向けた工事を再開へ
スーパーゼネコン・清水建設グループのデベロッパー「清水総合開発」が、東京都杉並区の西荻窪で進めようとしているマンション建設のため、敷地内に立つ高さ28メートルの「大ケヤキ」を今年中に伐採すると、決めたことがわかった。
このケヤキは、神社のご神木として地域で親しまれてきた巨木で、「もう一つのトトロの樹」という異名もある。昨夏に伐採される予定だったが、住民の反対運動が起き、伐採が延期されていた。
清水総合開発は10月24日の夜、杉並区内で、大ケヤキの伐採を含めた解体工事に関する説明会を開く。
近隣住民に配られた「説明資料」で明らかに
清水総合開発があらためて伐採を決めたことは10月中旬、マンション建設予定地の近くの住民に配布された「解体工事の説明資料」で明らかになった。
大ケヤキが立っているのは、杉並区西荻北2丁目の土地で、もともとは個人の邸宅があった。先代の死去による相続を経て、2023年3月に売却され、清水総合開発が土地の持ち分の95%を取得した。
清水総合開発は2023年7月に住宅の解体工事を始め、大ケヤキも伐採する予定だった。しかし、近隣の住民たちから反対運動が起こったため、解体工事を8月に中断。伐採するかどうかの検討を続けてきた。
12月に大ケヤキを「伐採」する予定
今回の説明資料によると、工事の期間は今年12月から来年3月まで。既存の建物の基礎部分を取り除くとともに、敷地内にある樹木を伐採し、その根を除去する。
大ケヤキの伐採は、12月初旬から中旬にかけて実施される予定だ。説明資料には、敷地の平面図と樹木のイラストが描かれており、「クレーン、高所作業車を使用し大枝払いを行います」「残りの幹をクレーンで吊り上げ伐採します」などと記されている。
その後、12月中旬から1月中旬にかけて、伐採した樹木の搬出や、伐根作業がおこなわれるという。
伐採反対の署名が1万3000件以上
樹齢数百年とみられる大ケヤキは、マンション建設予定地の南西角に立っている。以前の土地所有者は大ケヤキを「ご神木」として祀(まつ)り、「三峯神社」と称した祠(ほこら)を管理していた。
昨年6月に伐採計画を知った近隣の住民たちは「次の世代のために貴重な木を残してほしい」と考え、伐採反対運動を開始。オンラインと紙を合わせて1万3000件以上の署名を集めて、杉並区に提出した。
その反対運動を受けて、清水総合開発は大ケヤキの伐採を延期。その是非を再検討するため、複数の樹木医に大ケヤキの健康状態の診断を依頼していた。
結論が分かれた「樹木医」の診断
清水総合開発が依頼した樹木医はいずれも、大ケヤキの根元近くに大きな空洞ができていて、倒れる危険性が高いと診断した。清水総合開発はその結果も踏まえて、当初の計画通り大ケヤキの伐採工事を進めることを決めたかたちだ。
一方、大ケヤキの伐採に反対する住民グループが依頼した別の樹木医は「倒木リスクは低い」と診断した。この樹木医は「PiCUS(ピカス)TreeQinetic」という最新の機器を用いて、樹木の物理的な強度をはかる「引っ張り試験」を実施。その結果、「樹木の耐風性(強風に耐える力)は低下していない」と結論づけた。
住民グループは「大ケヤキの健康状態は外観を見てもわかるように良好といえる。倒木の恐れは低いのだから、伐採しなくてもよいはずだ」と異論を唱えている。
樹木の保全をめぐって対立する主張
住民グループの主張に対して、清水総合開発は文書で次のように回答した。
「PiCUS TreeQinetic支持力計測結果につきましては、参考とさせて頂いておりますが、弊社委託の樹木医見解も踏まえ、これまでの診断結果を総合的に勘案し、倒木の可能性が高く、安全性が担保されないものと判断しております。
事業主である弊社は、当該樹木の所有者責任として倒木による近隣住民や歩行者の皆様の生命・身体・財産の安全を脅かす危険を看過することはできないと考えております」
住民グループは、大ケヤキの伐採が、現存樹木の保全努力を求める「杉並区みどりの条例」に反するとして、杉並区に紛争調整の申出書を提出している。
10月24日夜の説明会で、清水総合開発は住民グループの疑問にどう応えるのか。大ケヤキの行方をめぐる議論は重大な局面を迎えている。