パレスチナの「体験と記憶」を伝えるドキュメンタリー映画、東京で一挙上映
イスラエルの侵攻により、多数の犠牲者が出ているパレスチナ。そこに暮らす人々の体験と記憶を伝える7本のドキュメンタリー映画が、東京で上映される。10月19日から11月20日まで開かれる映画フェス「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京 2024」の特別プログラムとして企画された。
担当した山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)東京事務局の加藤初代さんは「パレスチナの監督の作品を劇場で見て、その声を味わってほしい」と話している。
パレスチナの映像作家のメッセージを伝えたい
ドキュメンタリー・ドリーム・ショーは、山形市で隔年開催されるYIDFFで上映されたドキュメンタリー映画の秀作を、東京近郊の人々にも鑑賞してもらおうというイベントだ。
※参考記事:カンヌ受賞監督が描く「カースト制」、発達障害の娘と母の「葛藤」ーードキュメンタリーの映画フェスが開催
この映画フェスの中で「パレスチナ」に焦点を当てた特集が組まれた。特集のタイトルは「パレスティナ−−その土地と歩む」。企画の意図について、加藤さんは次のように語る。
「昨年10月、ちょうど山形映画祭の会期中にハマスのイスラエル襲撃があり、それに対する報復として、イスラエルのパレスチナ・ガザ地区への大規模な侵攻が起きました。攻撃の規模が非常に大きく、ほとんど焦土と化している状態で、多くの人が反対の声をあげているのに止められない。そのことに対して、歯がゆい思いをしてる人がたくさんいると思います。そんな人たちに、パレスチナのことを少しでも知ってもらおうと、パレスチナの映画を特集しました」
YIDFFではこれまでも、パレスチナの作家の映画をいくつも上映してきた。2017年には「政治と映画:パレスティナ・レバノン 70s-80s」という特集が組まれたこともある。
「パレスチナの作家がどういう映画を作って、どんなメッセージを発してきたのか。その声を伝えることが今、求められていると考え、過去に山形映画祭で上映された作品をまとめて紹介することにしました。それに加えて、山形で上映されていない新作も取り上げます」(加藤さん)
パレスチナとイスラエルをめぐるロードムービー的な映画
今回の特集で上映されるのは、次の7つの作品だ。
- 『ルート181』(ミシェル・クレフィ、エイアル・シヴァン監督)
- 『石の賛美歌』(ミシェル・クレフィ監督)
- 『ガリレアの婚礼』(ミシェル・クレフィ監督)
- 『モーゼからの権利証書』(アッザ・エル・ハサン監督)
- 『ニュースタイム』(アッザ・エル・ハサン監督)
- 『私たちは距離を測ることから始めた』(バスマ・アルシャリーフ監督)
- 『採集する人々』(ジュマーナ・マンナーア監督)
このうち注目作を一つあげるとすれば『ルート181』だと、加藤さんは語る。
「2005年の山形映画祭で最優秀賞を受賞した映画ですが、全体で4時間半もある長尺の作品なので、劇場公開は難しい。この機会だからこそ見られる映画だといえます」
監督は2人。パレスチナ人のミシェル・クレフィとイスラエル人のエイアル・シヴァンだ。この2人が2002年夏の2カ月間、パレスチナとイスラエルを旅して、その土地に住む人々の声をカメラにおさめた。
題名の「ルート181」は、1947年にパレスティナを二分するために採択された国連決議181条で描かれた境界線に由来する。2人の監督がそう名づけ、そのルートをロードムービーのように移動しながら、出会った人々の話を記録していった。
「映画では、2002年当時のイスラエルやパレスチナの日常とともに、その土地の人々の過去の体験や記憶も語られます。昔はアラビア語だった土地の名前がヘブライ語に変わったという話も出てきて、土地の変化を身近に感じることができます」(加藤さん)
イスラエル政府に「野草採集」を禁じられた人々
『ルート181』の共同監督であるミシェル・クレフィの作品は他にも2つ、『石の賛美歌』と『ガレリアの婚礼』が上映される。
同様に複数の作品(『モーゼからの権利証書』と『ニュースタイム』)が紹介されるのが、アッザ・エル・ハサン監督だ。今回は、11月2日に2作品が新宿のK's cinemaで上映された後、監督とのオンライントークが予定されている。
パレスチナ特集で上映される作品のほとんどは2010年以前に製作されたものだが、唯一、2022年に作られた新作がある。ジュマーナ・マンナーア監督の『採集する人々』だ。
パレスチナの人々の生活に根付いていた野草の採集。それがイスラエル政府によって、違法化された。食料を採集すると罰金を科されるようになってしまった人々の姿を独特の映像表現で描いている。
「今までの食生活や食習慣が強制的に変えられてしまう日常が、イスラエルによる土地の管理と地続きになっているわけです。ジュマーナ・マンナーアさんはアーティストなので、非常にユニークな表現をしていて、見応えのある作品になっています」(加藤さん)