阪神タイガース・湯浅京己、アメリカの“武者修行”から帰国! ダルビッシュとの再会も果たした
■アメリカから帰国
ニッコニコの笑顔だった。1月20日夕方、到着出口に姿を現した阪神タイガース・湯浅京己投手は長旅の疲れも見せず、いつにも増して嬉しそうに顔をほころばせていた。アメリカでの収穫がいかに大きかったかを、そのえびす顔が物語っていた。
昨年3月のWBCでのチーム付き通訳だったルークさんが橋渡しをしてくれ、実現したアメリカでの“武者修行”。まずは昨年12月にアトランタの施設で動作解析を行い、今回はアトランタとロサンゼルスで約10日間、充実した日々を過ごした。
「最初はアトランタで動作解析の結果をもとに、プライオボールとかいろいろ自分に合ったものを教えてもらって、ロスに行ってからまたいろいろ計測とかして、その結果に基づいて今の自分に合った、自分に必要なトレーニングとかウエイトとかを教えてもらいました」。
今回取り組んだことは、すぐに結果が出ることではない。先を見据えたときに、いかにケガなく長く現役をやり続けられるか。そのためにやるべきことが明確になり、今後の計画も立てやすくなったという。
■ピッチングフォームのマイナーチェンジ
トレーニングとともに得たことがある。ピッチングフォームだ。「ちょっとフォームを変えた」と明かす。
ケガをしづらいフォーム、自分に合ったフォームを求め、それに自分の投げている感覚が合わさった結果、マイナーチェンジすることが最適解になった。
新フォームはすでに12月のキャッチボールから取り入れており、「感覚的には全然悪くないんで、これから作り上げていければ」と、意識せず投げられるまでになっているという。
変えたのは2点だ。まずテイクバックをこれまで以上にコンパクトにした。もともとトップにもっていく腕の使い方は小さいほうではあったが、テイクバックに入るときに手首がくっと鉤(かぎ)状になるのが癖だった。そこをなくしたことで、よりショートアームになったというわけだ。
鉤状の手首は「別に悪いことじゃないと思う。ほかにいないじゃないですか、そうなる人が。だから別に変えなくてもいいかな」と思いつつ、やめようと思ったことも何度かあった。しかし「癖でなってたから。別にそこまで慌てて直す必要はないというのもあった」と、そんなにも気にせずにきた。
しかし今回の動作解析で、それが前腕に負担がかかっていることが判明したのだ。昨年の前腕の肉離れの原因がそれであるとは断定できないが、一因ではあったのだろう。ケガをしづらいフォームという点で、この改良は必須となった。長く続けるためには、負担はできるだけ減らさねばならない。
もう1点は足だ。「足を上げて止まらない。一連の流れで」。スムーズな流れで投げられるようにということだが、「自分の中でのバリエーション。シーズン中にそれをやるかどうかは、これから先、決めていけばいいかなと思っています」と話す。
打者にとってもタイミングが変わるだろうし、バリエーションが多いに越したことはない。
■1球1球確認しながら
キャッチボールはもちろん、ブルペンにも2度入った。ブルペンではトラックマンで計測し、リリースポイントなどをカメラで撮影して、1球1球確認をしながら投げた。この「1球1球確認」したことで、より意識してできたと振り返る。
チーム全体のキャンプや練習の中では、1人の選手にそこまで時間を費やすことは至難であるが、自分1人のためにたっぷりと時間を使って突き詰めることができた。
「いいトレーニングができましたし、すごく充実した時間を過ごせたんで、行ってよかったなって思います。フォーム的にも自分の中でしっくりきてる部分があるんで、これからキャンプ中にしっかり自分のものにできればと思っている」。
こうして個人で飛び込み、取り組むことは非常に有意義であるし、すべては自分のための投資である。これこそがプロだ。
■プライオボールを本格導入
また、トレーニング用のプライオボールについても、「去年もダルさん(ダルビッシュ有投手=サンディエゴ・パドレス)に教えてもらって、ちょっとやっていた」が、「やっぱ重たいボールを使うのって負担かかるし、自分に合ったちゃんとしたフォームでやらないとっていうのもあったんで、ほんとい軽いやつしかやってなかった」と語る。
プライオボールは誰でも簡単に購入できるが、正しい使い方をしないと逆にケガをしたりパフォーマンスが落ちたりという危険性もある。
「今回、ちゃんと自分に合ったやつを教えてもらったんで、そこはしっかりやりながら。フォームもそこで意識してやっているんで、継続してやっていければなと」。
“マイプライオボール”は、ダルビッシュ投手にもらったパドレスのバッグに入っているそうで、「それ、なんなん?って言われる(笑)」と屈託なく笑う。
■大好きなダルビッシュ有との再会
今回の渡米では嬉しい再会もあった。大好きなダルビッシュ投手に会えたのだ。WBCで知り合って以来、連絡を取り合い、負傷したときなど何かと助言をしてくれる心優しき先輩投手だ。野球選手としてはもちろん、人として尊敬している。
「最初は自主トレもサンディエゴでやるんだったら…みたいな感じで声をかけてくれてて、行きたいなと思ってたけど、ダルさんのケガの状態もあるし。で、アメリカに行くんだったら会いたいなと思って、自分から連絡させてもらいました」。
パドレスのホーム球場であるペトコ・パークにも連れていってもらい、ロッカーにも入らせてもらったと、子どものような笑顔で嬉しそうに明かす。インスタグラムのストーリーに上げていた2ショットはペトコ・パークの駐車場で撮ったものだと言い、「隣がスアレスの駐車場(笑)」と、かつて虎の守護神だった男のなつかしい名前も飛び出した。
ダルビッシュ投手の自宅にもお邪魔し、「自分がいろいろ気になってたこと、シーズン中につながるようなことも聞けた。(内容は)言えないですけど」と、野球から近況までさまざまな話をした。
ダルビッシュ投手の子どもたちが翌日から学校があるため「早く寝かせなあかん」と夕方には解散になり、逢瀬は3~4時間と短かったが濃密な時間を共有することができた。
■2024年、新たな湯浅京己を
このオフは、12月の帰国後に1週間ほど休息をとっただけで、それ以外はずっと休みなく動いている。地元の三重県尾鷲市に帰ったときにも傾斜を使って投げた。「自分がやりたいようにやってきている」と、シーズンに向けて思いどおりに過ごせていると、満足そうにうなずく。
昨季のような悔しさは二度と味わいたくない。同じ轍は絶対に踏まない。そんな思いで取り組んできたこのオフ。すべては今季のため、そして、この先長く続く野球人生のためだ。
2024年シーズン、また新たな湯浅京己が見られるのが楽しみである。
(撮影は筆者)
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