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「トップガン マーヴェリック」から少し時間が空き、主演ラッシュが異常事態。人は彼を「グレパ」と呼ぶ?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
2022年『トップガン マーヴェリック』公開前の頃のグレン・パウエル(写真:REX/アフロ)

トム・クルーズやブラッド・ピット、ジョニー・デップにレオナルド・ディカプリオ……。日本でもメジャーな人気を獲得したハリウッド俳優として、彼らの跡を受け継ぐスターは、なかなか現れない。つねに何人か候補はいるものの、突出した存在にはならず、はっきり言って、ガラパゴス状態が続いている。

そんな状況で、今年になって活躍が一気に加速している一人の俳優がいる。その名は、グレン・パウエル。日本の一部の映画ファンには、すでに“グレパ”と呼ぶ人も増え、あの“ブラピ”を思い出す現象も(限定的とはいえ)見え始めた。

このグレン・パウエル、多くの人が認識したのは2022年の大ヒット作『トップガン マーヴェリック』だろう。トム・クルーズのマーヴェリックから指導を受ける、若きパイロットの一人、ハングマン役。マーヴェリックの過去の傷をえぐったり、仲間が乗る僚機を見捨てたりと“問題児”ながら、ビーチフットボールのシーンでは自慢の筋肉美を見せつけ、トップスター候補に躍り出た。

あれから2年。2024年にグレン・パウエルの本格的な快進撃が始まった。『マーヴェリック』で彼のポテンシャルを知った作り手たちとの作品が続々と完成し、さらに今後も次々と話題作が待機しているのである。

日本でも公開中の『恋するプリテンダー』は王道のラブコメ。主人公カップルの一人をグレン・パウエルが演じ、全世界の興行収入は2億1900万ドルを超えた。2億ドル超えのラブコメといえば、『ブリジット・ジョーンズの日記』などごくわずか。やり手の金融マンという役をパウエルはクール&おしゃれにこなしつつ、オーストラリアが舞台となるのでマリンスポーツなどで自慢の筋肉を惜しげもなく披露。はっきり言って“脱ぎ過ぎ”のサービス精神なのだが、快調なコメディ演技にスターの資質も感じさせる。

続いて8月に公開されるパニックアクション大作『ツイスターズ』でもグレン・パウエルは堂々の主役。タイトルからわかるとおり、竜巻の恐怖を描いた1996年の『ツイスター』の続編。人類の代表としてパウエルが巨大竜巻に立ち向かうわけで、そのヒーローっぷりに期待がかかる。作品的にも世界的ヒットの可能性があるので、パウエルのメジャーな人気を後押しするだろう。

そこからしばらく新作の公開はブランクが空く。『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイター監督作で、さまざまなタイプの殺し屋に変貌するという、俳優冥利につきるパウエルの主演作でNetflixの『ヒット・マン(原題)』は完成済みで、日本での配信が待たれるが、今後も主演を務める待機作品は目白押しである。しかもジャンルが多岐に渡るので、スター俳優としての本格派路線を突き進みそう。

まず、悪名高きバイオ化学メーカーの「モンサント」社と除草剤を巡る訴訟で闘う弁護士の主人公を演じる『Monsanto』。監督は『しあわせの隠れ場所』などのジョン・リー・ハンコックなので、社会派の人間ドラマとして秀作の予感が漂う。

そして、遺産を受け取るために恐るべき手段もとる富豪の息子(これも主人公)を演じるスリラー『Huntington』。人気のスタジオ、A24が北米の配給を手がけることから、単純な作品ではなさそうで、ヒットのポテンシャルも秘める。

さらに、あのアーノルド・シュワルツェネッガーが主演した1987年の『バトルランナー』のリメイクに、グレン・パウエルの主演が発表された。スティーヴン・キングの原作では、主人公が重病の娘の治療費のために“人間狩り”ゲームに参加する。監督は『ベイビー・ドライバー』などのエドガー・ライト監督なので、これも話題になるのは確実だ。

さらにさらに……1978年のアカデミー賞作品賞など9部門ノミネートの名作『天国から来たチャンピオン』のリメイクでも主演を務めることが決定。愛した相手の魂が別の肉体に宿って甦るという、感動のラブファンタジーが、パウエルでどう新たに再生されるか楽しみだ。他にもJ・J・エイブラムス監督と新作を協議に入るなど、ハリウッドでのグレパの売れっ子ぶりは、ちょっと異常事態と言っていい。

このようにコメディ、アクション、人間ドラマ、スリラー、ラブストーリーなど、あらゆるジャンルでの主演作が作られ、トップスターの階段を駆け上がっているグレン・パウエル。最初に注目を浴びた『ドリーム』での宇宙飛行士ジョン・グレン役から、『トップガン マーヴェリック』を経て、やはり米海軍のパイロットを演じた『ディヴォーション:マイ・ベスト・ウィングマン』と、空を飛ぶヒーローが似合うのも、憧れの的=スター俳優ならでは。

ルックス的には正統派のイケメンなので、そこが逆に日本では“普通”とスルーされるかもしれないが、このように話題作のラッシュとなることで、“グレパ”の呼び名が映画ファンの枠を超えて一般レベルでどこまで定着するか。ぜひ見守ってほしい。

2024年、ヴァニティ・フェアのオスカーパーティーより
2024年、ヴァニティ・フェアのオスカーパーティーより写真:ロイター/アフロ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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