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デュピルマブによる菌状息肉症の発症リスクを皮膚科専門医が徹底分析

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【デュピルマブとリンパ腫発症の関連性】

アトピー性皮膚炎の治療薬として注目されているデュピルマブですが、最近、この薬を使用中の患者さんで菌状息肉症と呼ばれる皮膚リンパ腫を発症するケースが報告されています。

菌状息肉症は、皮膚の表面にできる紅斑(こうはん)や硬く隆起した局面などの症状が特徴的で、進行すると全身の皮膚に広がったり、リンパ節や内臓に広がることもある難治性の疾患です。

デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の炎症を引き起こす IL-4とIL-13という物質の働きを抑える抗体製剤ですが、皮膚リンパ腫の発症メカニズムにこれらの物質が関与している可能性も指摘されています。

【高齢男性ほど発症リスクが高い?】

今回の研究で、デュピルマブ使用患者のうち菌状息肉症を発症した25名について詳しく調べたところ、発症時の年齢中央値は58歳で、男性の割合が58%と女性よりも多いことがわかりました。

また、菌状息肉症の病期が進んでいる患者ほど、デュピルマブの使用期間が短いという相関関係も明らかになりました。つまり、高齢の男性ほど菌状息肉症を発症するリスクが高く、重症化も早いということです。

さらに統計解析の結果、男性は女性と比べて有意に発症リスクが高いことも示されました。皮膚リンパ腫には性差による発症リスクの違いがあることが知られており、この研究結果はそれを裏付けるものと言えるでしょう。

【デュピルマブは原因か、それとも引き金か?】

この研究では、デュピルマブ使用患者で菌状息肉症の発症が相次いだ原因について、いくつかの仮説が示されています。

一つは、もともと早期の菌状息肉症があったのにアトピー性皮膚炎と診断されていた患者で、デュピルマブが菌状息肉症の症状を顕在化させた可能性です。アトピー性皮膚炎と菌状息肉症の初期症状は似ていることが多く、鑑別が難しいためです。

もう一つは、デュピルマブが皮膚の炎症性変化を リンパ腫へと誘導した可能性です。この場合、デュピルマブが直接の原因というよりは、発症の引き金になったと考えられます。

ただし、これらはあくまで仮説の域を出ず、明確なメカニズムの解明にはさらなる研究が必要です。皮膚の炎症とリンパ腫発症の関係など、解明すべき課題は多く残されています。

デュピルマブは中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さんにとって、画期的な治療薬であることは間違いありません。

しかし、特に高齢男性では菌状息肉症の発症リスクに十分注意し、皮膚症状の変化を見逃さないことが大切だと考えます。

定期的な皮膚の観察と生検などにより、リンパ腫の早期発見・早期治療に努めることが肝要です。

また、アトピー性皮膚炎と診断されている方で、既存の治療である保湿剤や抗炎症外用薬で十分な効果が得られない場合は、皮膚リンパ腫の可能性も視野に入れ、皮膚科専門医への相談をおすすめします。

参考文献:

Hamp A. et al. Archives of Dermatological Research (2023) 315:2561–2569 https://doi.org/10.1007/s00403-023-02652-z

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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