大勝軒が「山岸一雄」の商標登録に再チャレンジ
ラーメン好きの方であれば池袋大勝軒創業者であり、「つけ麺の生みの親」とも呼ばれている山岸一雄さん(故人)をご存知でしょう。2016年に株式会社大勝軒が「山岸一雄」という商標登録出願を行ったところ、拒絶となり、不服審判および審決取消訴訟によっても覆せなかったという事件がありました(関連過去記事)。
拒絶の理由は(改正前の)商標法4条1項8号です。
要するに全国にいる(少なくとも特許庁が把握している)すべての山岸一雄の同姓同名者から承諾をもらってこない限り登録できないという規定です。これでは、同姓同名者がいないような珍しい名前でない限り、人名(フルネーム)を含む商標を登録することは事実上不可能になってしまいます。
人格権を保護するという条文の意義はわかりますが、これにより「マツモトキヨシ」の音商標が拒絶になったり(後に審決取消訴訟で逆転)(関連過去記事)、TAKEO KIKUCHI、YOHJI YAMAMOTO等の著名なファッションデザイナーの氏名を含むブランド名が商標登録できなくなったり、さらには、カルビーによる「南実のかぼちゃ」(「みなみのかぼちゃ」と読ませたかったのだと思います)という商標登録出願が、「南 実(みなみ みのる)」という他人の氏名を含むことを理由に拒絶されたりと理不尽な事例が続きました(関連過去記事)。なお、過去にはこの規定の運用は比較的緩く、たとえば「マツモトキヨシ」の文字商標などは問題なく登録されていた(そして、登録から5年経つともう4条1項8号で無効になることはない)のですが、ある時期から急に運用が厳しくなったのが問題です。
これはさすがにまずいということで、遅きに失した感はありますが、商標法4条1項8号が改正され、以下のようになりました。今年の4月1日以降の出願に適用となります。
太字部分が改正で追加された条件です。第1に、同姓同名の他人に周知性が求められることとなりました。「山岸一雄」を例に取ると、電話帳に載っている全国の同姓同名者の承諾が必要なのではなく、ラーメン業界で有名でありかつ存命の同姓同名者の承諾が必要ということなりました。池袋大勝軒創業者の山岸一雄さんは故人ですし、それ以外にラーメン業界で同姓同名者はいないと思われますのでこの条件はクリアーです。
第2の条件である「政令で定める要件」とは、①商標中の氏名と出願人に「相当の関連性」があること、②不正の目的でないことです。これについても、大勝軒が出願人であれば問題はないでしょう。
そして、別件の調べ物中に気が付きましたが、株式会社大勝軒が改正法施行日の4月1日にまさに待ち構えていたかのように「山岸一雄」(商願2024-033964)および「山岸一雄大勝軒」(商願2024-033963)を出願していました。本記事執筆時点ではまだ審査は始まっていませんが、上記の政令要件について、審査官に求められるまでもなく先出ししており、権利化の意欲満々という感があります。個人的にも、登録されて何の問題もないと思います。他にも改正前4条1項8号で(理不尽な)拒絶を受けた商標の再出願が続くものと思われます(実際、「YOHJI YAMAMOTO」などが再出願されています)。