マツモトキヨシの音商標審査が知財高裁で逆転:他人の氏名を含む商標の登録は可能になるのか?
「”マツモトキヨシ♪”の音商標認める 節目になる判決か」というニュースがありました。CMでおなじみの「マツモトキヨシ」のサウンドロゴの音商標出願(商願2017-7811)が、商標法4条1項8号の規定により、「他人の氏名を含む商標」であるとして特許庁が拒絶したことに対する審決取消訴訟で、知財高裁が特許庁の審決を取り消した(事実上、登録を認めた)という話です。
現時点では裁判所のサイトに判決文が掲載されていません。知財高裁の判決は原則的にすべてウェブ上で公開されるようなので、公開されましたたら追記(または別記事)を書きたいと思います。
この件については、特許庁で拒絶の審決が出たときに「”マツモトキヨシ”の今後の商標登録が困難に」という記事を書いています。また、以下の過去記事もご参照ください。
- 「TAKEO KIKUCHI」を含む商標も今後の登録が困難に
- 人名を商標登録出願する場合のリスクについて:「前澤友作」は商標登録可能か?
- 日本でデザイナー名のブランドを商標登録するのはもう無理かもしれない
問題の種は、商標法4条1項8号の「他人の氏名を含む商標」の解釈が最近になり非常に厳格になってきたことにあります。
他人の氏名を含む商標はその他人の承諾を得ない限り登録できないというルールを厳格に適用すると、全国のすべての松本清さん、松本潔さん等々の承諾がないとマツモトキヨシを含む商標は登録できないという無理ゲーになり事実上登録できないことになってしまいますが、現状はまさにこのような状態です。
過去にはこのルールはもっと緩やかでした。そもそも、マツモトキヨシも過去の通常の文字商標出願は問題なく登録されています。なお、いったん登録されて、5年が経過すると除斥期間という一種の時効のような制度によって、事後的に4条1項8号を理由に無効になることはありません。
条文が改正されたわけでもないのに、運用解釈が厳格になり、過去記事にも書いたような審決および審決取消訴訟の積み重ねにより、現状は以下のようにかなり非現実的な状態になっています。
- 出願人本人の氏名でも駄目(同姓同名者の許可が必要だから)
- 出願人の氏名が著名でも駄目(人格権の保護が目的であって著名商標の保護が目的ではないから)
- 英語で表記しても駄目
- 氏と名のスペースをカットしても駄目
- 名→氏の順番でも駄目
- デザインを施しても駄目(識別性の問題ではないから)
- 氏名以外に文字が付加されていても駄目(条文上「~を含む商標」となっているから)
特に、ファッション業界ではデザイナーの氏名をブランド名に使うことが世界的によく行われていますので、問題は非常に大きいと言えます。
上記記事によれば、
ということなので、音商標かつ著名という要件があれば、4条1項8号に該当しないこともあると判断されたということだと思います。しかし、それを言うならば、「TAKEO KIKUCHIから容易に連想するのは著名なファッションブランド、一般に、人の氏名を指し示すと認識されるとは言えない」とも言えてしまうのではないかと思います。過去の審査・審決・判決との整合性が気になります(ルールが緩やかになっていく分には良いと思うのですが)。この点は判決文公開後に再度検討したいと思います。
追記:判決文が公開されました。結局、上記記事中の「言語的要素からなる音から、容易に連想するのは、ドラッグストアの店名」「当該音は一般に人の氏名を指し示すものと認識されるとはいえない」以上の情報はありません。過去の知財高裁判決において「(氏名が)ブランドとして一定の周知性を有するといったことは,考慮する必要がない」と判断したこととの整合性をどう考えているのか気になります。