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もしも世界の人々が米大統領選で投票できたら

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(提供:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

もしも世界の人々が11月3日の米大統領選挙で投票できたら、果たしてトランプ氏とバイデン氏のどちらが勝つだろうか。日本人はどちらに票を入れるだろうか。世界の関心がかつてなく高まる中、トランプ氏に対する各国民の好感度調査やメディアの報道などをもとに、勝手に予測してみた。

グレタさんはバイデン氏支持

世界の平和や経済、人々の暮らしに大きな影響を与える米国の大統領を選ぶ4年に1度の選挙は、米国人以外にとっても常に関心の的だが、今回の大統領選は、その関心の度合いがこれまでになく高まっているように見える。

今月10日には、ノーベル平和賞受賞のうわさもあったスウェーデンの17歳、グレタ・トゥンベリさんが、バイデン氏への支持をツイッターで呼び掛けたというニュースが世界を駆け巡った。同じ週、米CBSニュースは、米軍を相手に長年、激しい戦いを続けてきたアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが、「トランプ大統領の再選を望んでいる」と語ったと報じた。

日本人の関心も高い。Yahoo! JAPANの「みんなの意見」では、米大統領選に「前回よりも関心がある」と答えた人が56.3%と半分以上に達し(10月20日午後現在)、「前回と同様の関心がある」も加えると、米大統領選に注目している日本人は実に85%にも上る。

他人事ではない

高い関心の理由は、トランプ大統領のエキセントリックな言動だけではない。背景には、世の中の大きな変化がある。世界は今やインターネットやSNSで瞬時につながり、遠い国の出来事も、非常に身近に感じるようになった。また、米国内で大きな問題となっている気候変動や人種差別、経済格差などの問題は、他の多くの国でも重大な関心事となりつつある。

実際、黒人男性が白人警官に暴行されて死亡した5月下旬の事件をきっかけに起きた、人種差別に抗議する運動「BLM(ブラック・ライブズ・マター)」は、米国内だけでなく日本を含む世界各国に広がった。少し時間を遡れば、セクハラの撲滅を訴えた「#MeToo(ミートゥー)」運動もそうだ。BLMでは、ツイッターのアカウントを持つ英国会議員の49%が、暴行死事件の直後に、事件や抗議デモに関しツイートしている。

では、米大統領選に大きな関心を寄せる世界の人々は、もし投票ができたら誰に投票するのだろうか。ヒントとなるのは、メディアがよく引用する米調査会社ピュー・リサーチ・センターが今年夏に世界13カ国で実施した意識調査だ。

83%がトランプ氏を信頼せず

調査は主に、米国に対する好感度とトランプ大統領の国際問題への取り組みに対する信頼度を調べた。対象国は、欧州の9カ国と、カナダ、日本、オーストラリア、韓国。

結果を一言で言えば、トランプ氏の“惨敗”だ。大統領の国際問題への取り組みを信頼していると答えた人は、13カ国平均でわずか16%。一概には比較できないが、米国内でのトランプ氏の支持率が40%前後で推移しているのと比べると、相当低い“支持率”だ。逆に、信頼していないと答えた人は、13カ国平均で83%にも達した。

国別に見ると、信頼していると答えた人の割合が最も高かったのは日本だが、それでも25%。最も低かったのはベルギーで9%だった。

大統領就任直後からの推移を見ると、どの国もだいたい同じ傾向で、就任直後の2017年の信頼度は今年と同じくらい低く、翌年、翌々年と多少、上がったものの、今年になって再び下がった。ちなみに、オバマ前大統領の最終年の信頼度は、70~80%程度だった。

協調性のなさが嫌われる

トランプ大統領への信頼度が政権発足時から低いのは、気候変動問題に取り組むパリ協定からの脱退表明や、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの一方的離脱など、国際社会との協調を欠いた姿勢が嫌われたためと見られる。今年に入り再び信頼度が下がっているのは、新型コロナウイルス対策の失敗や、社会の分断を煽るような言動が影響しているのは間違いない。

トランプ大統領への信頼度の低下と並行して米国に対する好感度も大きく下がっており、大統領の「アメリカ・ファースト」政策は、結果的に、米国の国益を損ねているとも言える。

佳境に入った大統領選は多くの州で接戦が続いており、どちらが勝つかは予断を許さない状況だが、もし13カ国の人々に投票権があったら、トランプ氏の惨敗、バイデン氏の圧勝は間違いないところだ。

中国人が参加すればトランプ氏再選

ただ、世界には他にも多くの国がある。日本と欧州連合(EU)の人口を足しても全然かなわない、14億の人口を抱える中国もその一つ。ピュー・リサーチ・センターの調査に含まれていないため、中国人がトランプ大統領をどう評価しているかは不明だ。ただ、米ブルームバーグ・ニュースは今年6月、中国政府内ではトランプ氏の再選を望む声が強まっていると報じている。

それによると、トランプ氏、バイデン氏のどちらが勝っても、米国が中国に厳しい姿勢で臨んでくる点では同じだが、協調性に欠けるトランプ氏が再選されれば、米国と米国の同盟国との間のギクシャクした関係が続くため、対中国包囲網が築かれなくて済む、と中国政府は見ている。逆に、民主党のバイデン氏が勝った場合、同盟国との足並みがそろうのに加え、香港や新疆ウイグル自治区の人権問題で中国を攻撃してくる可能性がある、と警戒しているようだ。

もしも、中国政府の意向を受けた中国人も“投票”に参加すれば、選挙戦の形勢は一気に逆転し、トランプ氏は余裕で再選されるに違いない。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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