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「タリバンがトランプ氏の再選を熱望」米メディア報道 真意はどこに?

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
自爆テロで殺害された犠牲者の墓の前に座るアフガニスタンの少女(写真:ロイター/アフロ)

アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンがトランプ大統領の再選を願い、エールを送っていると米CBSニュース(電子版)が報じた。タリバンは直後に報道内容を否定したが、米国内ではトランプ氏の外交政策が結果的にタリバンを利しているとの見方が強いだけに、タリバン側の真意がどこにあるのか憶測を呼びそうだ。

「トランプ氏は約束を守る政治家」

米大統領選が佳境を迎える中、10日にはスウェーデンの17歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんが、バイデン前副大統領を支持するようツイッターで呼び掛けるなど、米大統領選に対する関心が国境を越えて世界的に高まっている。

そうした中、米3大ネットワークのCBSは、タリバンのザビフラ・ムジャヒド広報担当と他の幹部に電話インタビューしたとして、その内容を10日に報道した。それによると、ムジャヒド氏は次のように語っている。

「われわれは、トランプ氏が来るべき選挙で勝利すると信じている。なぜなら、トランプ氏は国民と交わした重要な約束を必ず守る政治家であることを自ら証明してきたからだ」

「われわれが思うに、米国人の大多数は、不安定な状況、経済的失敗、政治家がつく嘘にうんざりしており、彼らは再びトランプ氏を信任するだろう。なぜなら、トランプ氏は決断力があり、国内の状況をコントロールする力があるからだ。バイデン氏をはじめとする他の政治家は、ただ単に、非現実的なスローガンを唱えているにすぎない」

「アフガニスタンからの撤退を希望」

また、CBSが名前を明らかにしていない別のタリバン幹部は、こう述べている。

「われわれは、トランプ氏が選挙に勝ち、アフガニスタンから米軍が撤退することを望んでいる」

「トランプ氏は世界中でバカにされているかもしれないが、タリバンにとっては、良識的で賢明な男だ」

しかし、ムジャヒド氏は報道翌日の11日、ツイッターで声明を発表し、CBSの取材を受けたことは認めたものの、「CBSは私の言葉を間違って解釈し、不正確に伝えた」と報道の内容を否定した。

ムジャヒド氏が主張するようにCBSが同氏の発言を誤って解釈したのか、あるいは、自身の発言が予期せぬ影響を与えることを懸念したムジャヒド氏が火消しに走ったのかは、不明だ。

一方、トランプ大統領の選挙キャンペーン担当者はタリバンからの支持を「拒否」したと報じられている。

拡大するタリバンの影響力

米国とアフガニスタンは今年2月末に和平合意し、米国は駐留米軍の規模を段階的に縮小し、来年5月までに完全撤退する計画を明らかにしている。ただ、これにはタリバンがアルカイダなど国際テロ組織との関係を絶つことや、国内の安定化に向けて他の政治勢力との協議を進めることなどの条件がついているが、米紙が米軍関係者の話として伝えるところによれば、これらの条件は今のところ守られていないという。

逆に、ワシントン・ポスト紙の現地からのリポートによると、米軍が駐留規模を縮小して以降、特定の人物や勢力を狙った殺害事件が増加傾向にあり、子どもたちは学校に行けない状況が続いており、タリバンの影響力も以前より拡大しているという。

こうした現状にもかかわらず、今月7日、オブライエン大統領補佐官は、現在4000人台にまで縮小されている駐留米軍の規模を、さらに来年初めまでに2500人前後に削減すると発表した。同日、トランプ大統領は、「駐留米軍はクリスマスまでに帰還させるべきだ」とツイッターに書き込み、撤退計画をさらに前倒しで進めるべきだとの考えを示した。

「票目当ては敵を喜ばすだけ」

トランプ大統領がこの時期に撤退に前のめりのメッセージを発するのは、自らの再選のために軍関係者やその家族の票を取り込もうとしているためで、国防総省の関係者は拙速な撤退計画に懸念を示しているという。

一方、バイデン候補は、今年初めのメディアとのインタビューで、アフガニスタンの駐留規模は縮小すべきだが、アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)が再び勢力を拡大し米国への脅威となった時にすぐに対応できるよう、数千人規模を維持しておくべきだと主張している。

ワシントン・ポスト紙は10日付の社説で、トランプ大統領の撤退計画について論評し、「選挙を意識したトランプ大統領の無謀な発言は、大統領の狙い通り選挙結果に影響するかどうかはわからないが、発言は、大統領のこれまでの言動と同様、米国の敵を喜ばすだけだ」と批判した。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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