アフガニスタンでも問題となる“誰が「イスラーム国」を育てたか”という問い
2021年10月31日付のThe Wall Street Journal誌は、8月に崩壊した旧アフガン政府の下で働いていた兵士や諜報要員の中から、「イスラーム国」に加わる者が出ていると報じた。これによると、旧アフガン政府の諜報要員や、軍の特殊部隊の兵士らが「イスラーム国 ホラサーン州」に加わっているが、それは現在彼らにとってそうすることがターリバーンからの報復を逃れる唯一の道だからだそうだ。その結果、かつての諜報要員や兵士が身につけている情報収集の技術や手法、戦闘のための技術が「イスラーム国」に提供されることとなるが、「イスラーム国」の側も多額の報酬を提示してこのような新規加入者を迎え入れようとしているらしい。
旧アフガン政府の崩壊以来、その下にあった軍・警察・諜報機関の職員の多くは他の公務員と同様に失業した。ターリバーンは、政権奪取よりもはるか以前から旧アフガン政府の軍人や公務員は「悔悟させて」自派に取り込むべき存在と認識し、それを公言してきた。また、アメリカ軍のアフガン撤退期限が迫り、旧アフガン政府の関係者らが恐慌状態を起こして出国(=海外逃亡)を希望するようになると、ターリバーンは改めて「恩赦」を布告して彼らの身の安全を保障し、職務や日常生活を続けるよう呼びかけた。しかし、ターリバーンの呼びかけは公務員らには信用されておらず、現時点で職務に復帰した者たちは軍・治安部隊・諜報機関でも他の公務員でも少数だとの由だ。ターリバーンの機関誌などを眺めていると、「恩赦」や「復職呼びかけ」がどうにも信用ならないことを示唆する記事や政策的示唆がそこら中に掲載されているので、現在のような状況になるのは無理もないことだろう。冒頭で引用した報道は西側諸国の高官の話として、このような状態は2003年に旧イラク軍・治安部隊を拙速に解体したことにより、その要員や武器がアル=カーイダに流れた状態に似ていると報じた。
上記の報道は、ターリバーンに政策上の現実化や軟化を促し、同派による政権が国政運営と国際的な「テロ対策」において欧米諸国にとって親和的な存在となるようにすべきだ、或いはターリバーンに対する資産や支援の凍結を再考すべきだとの問題提起・提言のようにも見える。また、「協力者」を多数置き去りにしてアフガンから撤退してしまったアメリカの軍・政府に対する批判と解釈することもできる。しかし、より重要なのは、もともと旧アフガン政府の軍・治安機関にはターリバーンや「イスラーム国」に代表されるイスラーム過激派対策での「現場の兵隊」としての役割が期待されており、それらの構築・育成・支援にはアメリカだけでなく本邦も含む多くの国が膨大な資源を投じたということだ。つまり、イスラーム過激派対策やその他の目的のために費やされたはずの資源がイスラーム過激派に流出し、それが資源を投入した諸国(ひいてはその原資を負担する各国の納税者)を攻撃するために使われるという現実から目をそらしてはならないのである。同様の事態は数年前にイラク・シリアで「イスラーム国」が増長した際にも生じており、それが「イスラーム国」対策を困難にしてきた。
現在のアフガンの状況が、「対テロ戦争」が孕んでいた危うさや失敗の可能性を象徴するものであることは確かだ。そして、そうであるが故にアメリカ軍のアフガン撤退や現在のアフガン情勢を、(例えば今後のアメリカと中国との競合のような)国際関係やアメリカ国内の世論や政局を語るネタとして浪費することなく、イスラーム過激派対策の検証と修正のために顧みるべきなのである。