余市ー小樽間、鉄道存続に向けた民間主導の新会社 「後志鉄道」とはどのような計画か
読売新聞の報道で明らかになった北海道新幹線「並行在来線」余市ー小樽間の鉄道存続に向けた民間主導の新会社「後志鉄道」の設立計画。2023年9月25日に、余市町内で交通コンサルタントの阿部等氏を招き実施された意見交換会では、地元選出の中村裕之衆議院議員のほか、小樽市議会議員や余市町議会議員、町民らおよそ20名が参加したことは、記事(余市―小樽間の鉄道存続へ向け 地元議員、住民らが民間主導で新会社「後志鉄道」設立へ)でも触れたとおりだ。
「後志鉄道」計画は、余市―小樽間の存廃を協議する並行在来線対策協議会の個別協議の場において、鉄道に関する有識者として招へいされた交通コンサルタントの阿部等氏が関係者に提案した「並行在来線リバイバルプラン」が基になっている。
「後志鉄道」計画の具体的な内容は?
「後志鉄道」計画は、その前提として、北海道庁が新たな財源を拠出することなく現状の制度の範囲内で財源を確保することに重きを置かれている。これは、道庁が、鉄道に対してはびた一文足りとも財源を拠出したくないということに配慮し、先行して輸送密度が2000人を超え鉄道特性が発揮しやすい余市ー小樽間の鉄道輸送の高度化を実施しようというものだ。
まず、財源の確保については、長万部ー余市間の鉄道を一旦休止として早期にバスに転換。この区間では年間25億円の赤字が発生していることから、この赤字回避分を財源として、その1/3となる8.3億円ずつを鉄道とバス双方に投資し利便性向上を図る。
余市―小樽間については、鉄道を運行する第三セクターの鉄道会社を設立。列車本数を現行の概ね1―2時間に1本のダイヤから、平日朝夕20分おき、その他を30分おきとするパターンダイヤ化。これまで列車が通過していた余市町内と小樽市内の市街地に新駅を設置。車両と乗務員は早期にバス転換する長万部―余市間から転換することにより確保。JR北海道から用地・施設と車両を有償で借用し、要員を出向受け入れして人件費を三セク会社で負担。車両についてはリース料を抑えるために旧型のキハ150形を想定。売上については1.8億円から5.4億円にまで段階的に引き上げる計画で、黒字経営も可能と試算している。
長万部―余市間のバスについても年額8.3億円を投じ、北海道中央バスグループを中心に運行。中央バスグループは、鉄道との相乗効果を見越してバス路線を再編し同社の収益性の向上にも寄与。余市では、倶知安・ニセコ方面とともに岩内・積丹等の各方面へ、余市-小樽の鉄道と同本数のバスを運行し短時間かつ同一平面で接続する。ニセコ-長万部も案内上は同本数のバスを運行する。
残り1/3の年額8.3億円については、仮に鉄道が廃線となった場合には、JR北海道に対して最大で100億円に上る鉄道施設の撤去義務が生じることから廃線撤去費として積み立て。この提案は「JR北海道にとっても大きなメリットをもたらす」と阿部氏は話す。廃線が不要となった場合には、その積立金を地域交通の更なる改善に回すという内容だ。
さらに、北海道新幹線の札幌延伸開業後は、倶知安と長万部に新幹線新駅ができ、世界リゾートとして名を馳せるニセコ地区を中心に沿線への来訪が大幅に増える見込みであることから、新幹線開業と同時に長万部―余市間の鉄道を復活。阿部氏は「現在、構想中の貨物新幹線のフィーダー路線としても長万部―小樽間を再活用すれば、全区間で客貨ともに十分な売上を上げることができ、鉄道経営が成立する」と力説する。
北海道中央バス側はドライバー不足を理由に難色
しかし、地域をよく知る関係者によると「仮に財源があったところで、北海道中央バス側が長万部―余市間の鉄道代替バスを引き受けるのは難しい」と話す。阿部氏の構想では、並行在来線について、長万部―余市間についてはバス、余市―小樽間については鉄道に一本化することで、余市―小樽間のバスドライバーを長万部―余市間に振り分けてバス路線の維持を図るというが、前出の関係者によると「バスドライバーは転勤がないことが前提。また、これまで余市―小樽間を運転していたドライバーに長万部―余市間を運転しろと言われても、人手不足の中で精いっぱいの現場の状態では、新たな路線の訓練などを行う余裕はない」と現状を訴える。
阿部氏のプランは、現状の制度を変えることなく今までの道庁の枠組みの中で財源を確保し、輸送密度が2000人を超え廃止となれば地域社会に大混乱をもたらす余市―小樽間の鉄道輸送の高度化の方法を突き詰めたものである。道庁が「攻めの廃線」続け、鉄道に対してびた一文たりとも財源を拠出しようとしない現状では、阿部氏のプランには合理性がある。しかし、バスドライバー不足は予想以上に深刻化していることから、仮に長万部―余市間のバス転換前倒しを実施してしまえば地域の交通崩壊を招きかけない状況にまで事態は切迫している。
現実解は長万部ー小樽間の全線維持
道庁は、鉄道路線の「攻めの廃線」について、財政難を理由に挙げ財源がないと説明する。しかし、北海道のインフラ整備に充てられる国土交通省北海道局の北海道開発予算は、2023年度は約5700億円の予算規模があり、このうち道路整備に充てられるのは例年約2000億円程度。道路整備に関しては、潤沢な財源を基に人家のない人里離れた山奥で巨額の予算が投じられ採算という概念なく粛々と整備が進む道路も多い。こうしたことから、道庁の「攻めの廃線」に対する姿勢は、単純に予算の執行体制が硬直化しているだけで、余計な仕事の手間を増やしたくないという理由で、これまでの仕事の進め方を変える気が全くない道庁側の内向きの理由であるということが推測される。
このまま道庁が財政負担を渋り続け、仮に阿部氏のプラン通りに「後志鉄道」が実現できたとしても、その先に待ち構えているのは長万部ー余市間の交通崩壊だ。10月1日からは沿線のニセコ町に本社置く北海道中央バスグループのニセコバスでは、ドライバー不足を理由に寿都ー岩内間の路線バスの便数を半減する。この他、「攻めの廃線」を行った夕張市では夕張から札幌方面を結ぶ夕鉄バスが全廃。さらに1989年に廃止されたJR天北線やJR標津線の鉄道代替バスなど道内各地でのバス路線の廃止が相次ぐ。影響は都市間高速バスにも及び札幌―函館間を結ぶ高速はこだて号も8往復から4往復に便数が半減される。
こうした状況の中で、見えてくるのは長万部―小樽間全線の鉄道としての存続だ。北陸新幹線の並行在来線としてJR東日本から経営分離された長野―直江津間は、長野県側がしなの鉄道に、新潟県側がえちごトキめき鉄道に引き継がれ第三セクター化された。この区間には貨物列車の定期運行はないが、災害時の貨物列車の迂回ルートを確保する目的で貨物調整金の交付対象となっており、鉄道の維持が図られている。
長万部ー小樽間についても、2000年に有珠山が噴火し室蘭本線が不通となった際には、貨物列車の迂回ルートとして使用された。9月26日には有珠山の隣にある昭和新山で大規模な溶岩ドームの崩壊があった。この崩壊は直接の火山活動とは関係ないというが、20~30年周期で頻繁に噴火を繰り返しているのがこのエリアだ。昭和時代以降では1943~1945年の噴火で昭和新山が誕生。その後、有珠山は、1977~1978年、2000年と定期的な噴火を繰り返しており、そろそろ噴火してもおかしくない時期に差し掛かっている。
さらに、トラックドライバーの労働規制の強化が図られる2024年問題を前に、鉄道廃線後のバス路線の持続可能性が不透明となり、鉄道貨物に対する需要がより一層増す中、長万部―小樽間については、北海道開発予算のほか、貨物調整金や法改正により新たに活用可能となった社会資本総合整備交付金を財源として、長万部―小樽間の全区間の鉄道維持を図ることが現実的だ。
(了)