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余市―小樽間の鉄道存続へ向け 地元議員、住民らが民間主導で新会社「後志鉄道」設立へ

鉄道乗蔵鉄道ライター

 北海道新幹線の並行在来線として、北海道庁主導の協議会において廃止の方針が決定された函館本線の長万部―小樽間。しかし、北海道内では10月1日からは道内各地でバス路線の廃止・減便が相次ぐなど、バスドライバー不足が深刻化しバス転換の目途はたっていない。こうした中で、輸送密度が2000人を超える余市―小樽間では、地元議員、住民らが民間主導で鉄道経営を引き継ぐための新会社設立構想が具体化している。

長万部―余市間バス転換前倒しで財源を確保

 2023年9月25日に、余市駅を存続する会では、交通コンサルタントの阿部等氏を招き余市町内で関係者による意見交換会を実施。意見交換会には、地元選出の中村裕之衆議院議員のほか、小樽市議会議員や余市町議会議員、町民らおよそ20名が参加した。

 阿部氏のプランでは、長万部―余市間の鉄道を一旦休止として早期にバスに転換。この区間では年間25億円の赤字が発生していることから、この赤字回避分を財源として、長万部―余市間のバス路線の維持と余市―小樽間の鉄道維持を図り、新幹線開業後には長万部―余市間の鉄道を復活させる構想だ。

 余市―小樽間の鉄道経営を担う新会社については「後志鉄道」(仮称)とし、まずはその準備会社を設立する構想で、資金についてはすでに約1億円を調達する目途がついているという。

 今後は、構想の更なる具体化に向けて地元の国立大学である「北海道大学や小樽商科大学の有識者を交えて地域への経済効果も含めた共同研究を行っていきたい」とする。

9月25日余市駅エルラプラザで開催された意見交換会の様子(写真:余市駅を存続する会)
9月25日余市駅エルラプラザで開催された意見交換会の様子(写真:余市駅を存続する会)

それでも中央バス側はドライバー不足を理由に難色

 しかし、地域をよく知る関係者によると「仮に財源があったところで、中央バス側は長万部―余市間の鉄道代替バスを引き受けるのは難しい」という。阿部氏の構想では、並行在来線について、長万部―余市間についてはバス、余市―小樽間については鉄道に一本化することで、余市―小樽間のバスドライバーを長万部―余市間に振り分けてバス路線の維持を図るというが、前出の関係者によると「バスドライバーは転勤がないことが前提。これまで余市―小樽間を運転していたドライバーに、長万部―余市間を運転しろと言われても人手不足の中で現状の現場を回すだけで精いっぱいの状態で、新たな訓練などを行う余裕はない」と現状を訴える。

 阿部氏のプランは、現状の制度を変えることなく今までの道庁の枠組みの中で財源を確保し、輸送密度が2000人を超え鉄道特性を発揮しやすいとされる余市―小樽間の鉄道存続の方法を突き詰めたものである。道庁が「攻めの廃線」続け、鉄道に対してびた一文たりとも財源を拠出しようとしない現状では、阿部氏のプランには合理性がある。しかし、バスドライバー不足は予想以上に深刻化していることから、仮に長万部―余市間のバス転換前倒しを実施してしまえば地域の交通崩壊を招きかけない状況にまで事態は切迫している。

大学との共同研究がポイントを握る

 こうした状況の中で、見えてくるのは長万部―小樽間全線の鉄道としての存続だ。北陸新幹線の並行在来線としてJR東日本から経営分離された長野―直江津間は、長野県側がしなの鉄道に、新潟県側がえちごトキめき鉄道に引き継がれ第三セクター化された。この区間には貨物列車の定期運行はないが、災害時の貨物列車の迂回ルートを確保する目的で貨物調整金の交付対象となっており、鉄道の維持が図られている。

 北海道新幹線の「並行在来線」廃止の合意プロセスについては、鉄道・バスの2案において、表面的なコスト面の比較を中心に協議がなされ、各交通システムの持つ特性や地域にもたらす経済効果について言及できていないこと。各自治体によって鉄道・バスの需要や活用機会が異なるなか、自治体をまたぐ後志地域全体のまちづくりの指針がない状態で、北海道庁主導による廃線ありきの拙速な議論が行われたことも大きな問題である。

 また、トラックドライバーの労働規制の強化が図られる2024年問題を前に、鉄道廃線後のバス路線の持続可能性が不透明となり、鉄道貨物に対する需要がより一層増す中、長万部―小樽間については、貨物調整金や法改正により新たに活用可能となった社会資本総合整備交付金を財源として、長万部―小樽間の全区間の鉄道維持を図ることが現実的だ。

 こうした状況を中立的に精査し、北海道大学や小樽商科大学の有識者を交えた共同研究で、総合的な視点から鉄道維持のための財源確保に向けた提言がどのようにおこなわれるのかということがポイントになる。

新会社計画は、2023年9月26日の読売新聞朝刊でスクープされた。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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