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米「最悪のシナリオ」をもとに、遺体収納袋をさらに10万袋用意【新型コロナ】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ニューヨーク・ブルックリンにて4月20日。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは4月29日、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の症例数が103万487件にも上っている。前日に世界で初めて100万人を超えたばかりで、全世界の症例数の3分の1がここアメリカということになる。

ジョンズ・ホプキンス大学の研究による最新のデータでは、世界第2位のスペインの症例数は23万件。圧倒的にアメリカが多い。

この事実を受けたトランプ大統領の4月29日のツイートはこちら。

アメリカで100万件のコロナウイルスが報告されている唯一の理由は、我が国の検査体制が世界中のほかのどの国よりもはるか〜に整っているからだ。ほかの国々は我々の検査体制に比べてかなり遅れている。だからはるかに症例数が少ないのだ!

感染症例数の多さの理由がそうであるならば、死者数の多さはどのように説明するのだろうか?

世界中の最新の死者数は22万人を超え、アメリカの死者数は6万人以上。(うちニューヨーク州が2万3317人)

アメリカ国内の死者数のカウントは主に病院からの報告によるものなので、自宅や老人ホームで死亡した人、ほかの病気で死亡したが実は感染者だった人などの数を含めると、実際の数は発表されているものよりさらに上回ると見られている。

アメリカでは、4月中旬を過ぎて流行のスピードが減速し、いくつかの州では経済活動再開に向け舵が切られようとしている。しかしここでタイミングを見誤ると、せっかくスピードが抑えられているのに再び感染爆発の誘因となり、ひいては死者数増加にもつながる可能性が高い。よって、再開は時期尚早ではないかという見方も根強い。

ちなみにニューヨーク州は被害が甚大なだけに、経済活動再開は感染症例のデータや抗体検査の結果に基づき慎重に進められていく。再開の条件はCDCのガイドラインに沿い、重症患者数の減少が14日以上続き、医療現場の30%以上の空きやPPEのある状態で初めて、生活での必要度が高く感染のリスクが低い建設業と製造業から、としている。

遺体袋10万個を新規発注

そんな中ウォールストリートジャーナルは29日、「U.S. Buys 100,000 More Body Bags, Preparing for Coronavirus Worst」(アメリカ、コロナウイルスの最悪のケースに備え追加で遺体収納袋10万個購入)というショッキングなニュースを報じた。

記事では、連邦政府が用意した「最悪のシナリオ」に則り、これからも増えるであろうと予想されているコロナの犠牲者のために、新たに10万体分の遺体袋が業者に発注されたとある。

トランプ大統領は先月31日の記者会見で「(ロックダウンなどの)手立てを何も講じなければ、アメリカで220万人が命を落とすことになるかもしれない。今後2、3週間が最悪期だ」と発表していた。その後、医療従事者らによる奮闘や国民1人ひとりによるステイホームの努力が功を奏し、最悪のシナリオは一旦免れた。

しかし、ウイルスとの闘いが終わったわけではない。

大統領は4月27日にも改めて、「このパンデミックにおいては(対策をした上でも)6、7万人が犠牲を払うことになるかもしれないと予想していた」と改めて胸の内を語った。

今回発注された追加の遺体収納袋だが、パンデミック対応をしているFEMA(連邦緊急事態管理局)が4月21日、カリフォルニアの中小企業である供給元に発注し、5月4日までに納品されるという。10万袋の費用は510万ドル(約5億4000万円)と記事にはある。

新型コロナ危機になって以降、アメリカはCDCや感染症の専門家らに相談しながら、常に「最悪のシナリオ」をもとに準備、対処してきた。ニューヨークでも病院船コンフォートや大型展示会場の仮設病棟がほとんど空きの状態で閉鎖になったのは、この最悪のシナリオに則って準備されたからだ。

米国防総省のもとには今月はじめにも、FEMAから10万以上の遺体収納袋の必要性について相談があったことがブルームバーグニュースで報じられていたが、今回の追加発注とは別のものだ。新たな発注は、今年の秋ごろやって来るのではないかと言われている第2波やほかの災害に向けた準備でもあるという。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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