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「ガキだよね」「社会性が欠けている」 黙秘すると罵詈雑言で人格攻撃に及ぶ検事

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 検事による取調べの違法性を巡る国賠訴訟が話題だ。担当したのは当時横浜地検に所属していた川村政史検事(司法修習55期)であり、犯人隠避教唆の容疑で特別刑事部に逮捕され、黙秘を続けていた当時弁護士の江口大和氏に対し、「ガキだよね」「社会性が欠けてる」などと罵詈雑言を並べ、人格攻撃に及んだという。

国賠訴訟の経緯

 発端は2016年に横浜市で発生した交通事故だ。無免許運転で電柱に衝突し、同乗者を死亡させた男は、勤務する建築会社の社長からこの車を借りていた。しかし、男が無免許だと知っていた社長も車両提供罪に問われる可能性があったことから、男は社長に口止めされ、無断で車を持ち出したなどと嘘の供述をした。

 これが弁護士として社長の相談に乗った江口氏の入れ知恵ではないかと疑われ、江口氏も社長とともに18年10月に逮捕、起訴された。社長が容疑を認める一方で、江口氏は捜査段階で完全黙秘を貫き、裁判でも無罪を主張して争った。しかし、20年2月に横浜地裁で懲役2年、執行猶予5年の有罪判決を受け、22年9月に控訴棄却となり、23年8月に上告も棄却され、弁護士資格を失った。

 江口氏は、その間の22年3月、自身に対する合計21日、約56時間に及ぶ取調べの過程で黙秘権が侵害され、検事に侮辱されたなどとして、国に対して1100万円の支払いを求める国賠訴訟を提起した。

 この民事裁判では、東京地裁の勧告に基づいて国が取調べの録音録画映像の一部(約2時間22分)を提出し、証拠として採用された。24年1月18日の裁判で江口氏に対する本人尋問が行われたが、その際、そのさらに一部である約13分の映像が法廷で再生された。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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